写真:横河DLシリーズ
オシロスコープとは、「平面上で、信号の形状を観察する装置」です。基本的には横軸 t(時間)、縦軸 V (電圧)の平面上で、電圧の経時変化を見ることが一般的です。
従来、電子回路の挙動を測定する場合には、電圧、電流、繰り返し波形の周波数などをDMM(デジタル・マルチメータ)やカウンタで観察します。
しかし、最近ではオシロスコープにも信号の周波数やVp-p(電圧波形の最大値と最小値の差、電位差)の表示、
SPI・I2C(有線通信でよく利用されるプロトコル)などのシリアル信号をテキストへデコードしてくれる機能もあります。
また、取得した信号にフーリエ変換を用いて周波数領域毎に分析し表示してくれるFFTアナライザが標準搭載されている機種などもあります。
このように、オシロスコープがさまざまな機能を有し多機能化していると同時に、回路で扱う信号としての電圧が低くなる傾向にあるため、 アプリケーションやオペレータによっては「挙動確認のために、とりあえずオシロスコープを使う」という使い方をされる場合もあり、オシロスコープは、より汎用的な計測器となりつつあります。
オシロスコープは、測定信号の異常な挙動を検知してその前後を詳しく解析する機能なども、80-90年代の機種に比べると豊富に備えており、しかも正確に動作します。
よって、近年のデジタル化されサンプリングメモリの増えたオシロスコープの機能や使い方に習熟することは、製品開発や実験などにおける品質維持や異常検知の点で極めて重要となります。
また、アナログの波形サンプリングだけではなくロジック・アナライザのようなデジタル・チャネルを備えたMSO(ミックスド・シグナル・オシロスコープ)という機種も存在します。
例えば、IoT関連の開発では、データシートを読みながら初期化ソフトウェアを書き、
SoC(System-on-a-chip、制御用ICの他に無線などさまざまな機能を持つ集積回路)の入出力ピン設定について挙動を確認することがよくありますが、
I2CやSPIなど、低速なシリアルバス信号に対してロジックレベルでの解析が可能なMSOは非常に便利です。
一方で、ラボやある種の設備などでは、オシロスコープの本体が持つ機能ではなく、 GPIB、LAN、USB、RS232Cなどのプロトコルを利用するデバイス開発でPCと接続し、「信頼性の高いサンプリングヘッド」(AD変換を行う機器)として使う場合もあります。
結果的にNational Instruments社のLabVIEWやMathWorks社のMATLAB、 Keysight VEE、Excel VBAやPythonで記述されたソフトウェアでデータは視覚化処理されたり、別の機器の制御に用いられたりします。
最近のオシロスコープでは「Auto」ボタンを押すだけで信号にロックが掛かります。 ただ、そのときに信号に欠けが多く同期ずれを起こす場合や、あるいは表示を細かく調整する場合があります。 その時には、大まかに以下のようなパラメータを調整することになります。
電圧の設定です。観察する信号自体の規格に合わせるか、単に見やすさに合わせてつまみを回します。また信号の形状、オフセット電圧などを考慮して、AC/DC/GNDなどの種別を選択します。
時間幅の設定です。これも信号の繰り返し形状やパターン、ディレイなどを考慮して適切に設定します。
信号の繰り返しに対し、サンプリングを開始・終了するタイミングを設定します。 直感的には、アナログオシロの時代のように、信号のエッジが立ち上がる場合、または立ち下がる場合のしきい値電圧を設定して、表示の同期をとります。
以上3項目を設定すれば、よほど信号が高速か複雑でない限り、信号波形の調整はうまくいくでしょう。信号雑音が多い場合は、これに加えて低域のためにフィルタを掛けることもあります。
複数の信号を多チャンネルで同時に表示する際には、信号のカップリングを「GND」に設定して0V時の輝線を表示し、「Position」などのつまみを回して信号の表示位置を調整します。
写真:水平、垂直の”POSITION” つまみ
写真:信号のカップリング設定
オシロスコープの操作においては、本体の操作だけではなく対象の電子回路にプローブを当てる「当て方」、いわゆる「プロービング」も重要です。
プロービングでは、対象のアプリケーション、信号の速度や形状に対してさまざまなテクニックが知られています。
低周波信号、電源の状態遷移、高周波の信号など、それぞれで気を付けるポイントは異なってきますが、オシロスコープメーカーの詳しい解説があるので、経験を踏めばそれほど難しくはありません。
また、購入時に付属するパッシブ型のプローブ以外にも、電流プローブ、差動プローブ、FETプローブなど、測定対象の現象や回路に応じてプローブ自体を交換することも重要です。
先ほど表示設定について簡単に説明しましたが、これはエッジ・トリガといって、アナログのオシロスコープの頃から存在した直感的なタイミングの取り方です。
他にもパターントリガ、ラントトリガなど、デジタル・オシロスコープ特有のトリガ方法が豊富に存在します。
また、MSO(ミックスド・シグナル・オシロスコープ)では、ロジックチャンネルで捉えたI2CやSPI、 USBなどの信号から特定のコマンドやデータ列を読み出し、トリガ源とすることもできます(プロトコル・トリガなどと呼ばれます)。
8b10bなどの符号に関する特許が期限を迎え、SATAやPCI Expressなどで高速シリアル信号の採用が進みました。
このような信号ではボード状や伝送ケーブルなどでISI(シンボル間干渉)がよく発生するようになっています。
また、従来RFの分野では、ケーブルなどの性能をテストする場合(TDR)に信号の劣化度合いを観察する必要がありました。
このような要求に対して、繰り返しサンプリングした波形を重ね合わせて統計的に測定する機器があり、CSAやDCA(デジタル・コミュニケーション・アナライザ)と呼ばれています。
回路設計技術者の方でしたら、このような機種を使った計測で確認するデジタル信号の品質を「シグナル・インテグリティ」という言葉で聞いたことがあるかもしれません。
このようなシグナル・アナライザで繰り返しサンプリングして重ね合わせ表示した波形をアイパターンと呼び、信号が潰れていないかどうかを観察します。 また、アイパターンに対してマスクを設定し、スコープのトリガとして機能させることができる機能などもあります。
例えば従来よく利用されてきた機種として、TektronixのCSA11801などのサンプリング・オシロスコープがあります。 プラグインヘッドを交換することで、最大50GHz程度の信号に対してアイパターンを解析できます。