
放射温度計は、物体に触れることなく温度を測定できる測定器です。高温設備や稼働中の機器でも安全に温度を把握できるため、製造現場や建築分野をはじめとして広く利用されています。
近年では、GXや省エネの取り組みにおいて、設備の熱ロスを可視化する手段としても重要な役割を担っています。
本記事では、放射温度計の基本的な仕組みから、正確に測定するためのポイント、活用分野などを分かりやすく解説します。
放射温度計は、物体が放射する赤外線量を検知し、温度を非接触で測定する装置です。測定対象に触れる必要がなく、安全性と作業性に優れているため、高温部品や稼働中の設備、回転体など、直接触れない対象の温度測定にも適しています。
放射温度計には、大きく分けて二つの種類があります。
一点の温度を数値で測定する「スポット型」と、温度分布を画像として可視化する「サーモグラフィー」です。これらは用途や目的に応じて使い分けられています。
GX分野では、設備の省エネ診断や熱ロスの把握に活用されており、温度を可視化することで、エネルギーの無駄や改善ポイントを見つけやすくなります。
放射温度計は、物体が温度に応じて赤外線を放射する性質を利用しています。すべての物体は、絶対零度より高い温度であれば熱放射として赤外線を放ちます。放射温度計は、この赤外線をセンサーで検知し、その量を電気信号に変換します。変換された信号は、あらかじめ設定された計算式をもとに温度へ換算される仕組みです。
温度換算には、黒体放射の法則が用いられます。理想的な放射体である「黒体」が放射するエネルギー量を基準に、実際の物体の放射量から温度を推定します。
放射温度計は測定対象に触れる必要がないため応答が速く、回転体や高温部品など、接触測定が難しい対象でも安全に温度を測定できます。

放射温度計には、大きく分けてスポット型とサーモグラフィーの2種類があります。それぞれ測定できる情報の性質が異なるため、用途に応じた使い分けが重要です。
スポット型は、測定対象の一点の温度を数値で表示します。狙ったポイントの温度を素早く確認でき、操作も比較的シンプルです。設備点検や温度の上限・下限チェックなど、定点測定が得意です。
サーモグラフィーは、測定対象の面全体の温度分布を画像として可視化します。温度差を色で直感的に把握できるため、異常箇所や熱の偏りを検出できます。断熱不良や熱漏れの調査など、広範囲の診断に適しています。
設備診断の現場では、両者を併用するケースも多く見られます。サーモグラフィーで異常箇所を特定し、スポット型で詳細な温度を確認することで、測定精度と作業効率の向上が期待できます。
放射率とは、物体がどれだけ赤外線を放射しやすいかを示す値です。素材ごとに固有の値を持ち、0から1の範囲で表されます。放射温度計は、この放射率をもとに赤外線量から温度を計算する仕組みのため、設定した放射率が実際の素材と合っていない場合、表示される温度には誤差が生じます。
金属材料は、放射率が低いものが多く注意が必要です。アルミやステンレスなどは赤外線を反射しやすく、実温度より低く表示される傾向にあります。
正確に測定するためには、放射率の補正が有効です。代表的な方法として、測定面に黒体テープや黒体塗料を貼り付けて測定します。黒色で放射率が高い状態を作ることで、温度誤差を抑えられます。ほかにも、表面をマット化して反射を抑える方法もあります。このように、放射温度計を正しく活用する上では、放射率を意識した測定が欠かせません。
放射温度計は便利な測定器ですが、使い方を誤ると測定誤差が生じやすくなります。
ここでは、特に注意すべき代表的な誤差要因を整理します。
放射温度計の測定時には、距離と測定範囲の関係を示す「D:S比」に注意が必要です。D:S比は、測定距離が離れるほど測定範囲が広がることを意味します。
距離が遠すぎると、測りたい対象だけでなく周囲の背景も含めて測定してしまい、実際とは異なる温度が表示されるケースがあります。正確に測定するには、測定対象が視野内に過不足なく収まる距離で使用することが重要です。
金属や光沢のある素材は、赤外線を反射しやすい特性を持ちます。そのため、放射温度計が対象物ではなく、周囲の熱源を測定してしまう場合があります。この状態では、表示される温度が本来の対象物の表面温度を反映していません。特に高温設備の近くでは、反射による誤測定に注意が必要です。
放射温度計は、測定対象に対して垂直に近い角度で使うほど誤差が小さくなります。斜めから測定すると、反射や放射率の影響を受けやすくなるからです。安定した測定結果を得るためには、可能な限り対象物の正面から測定しましょう。
赤外線は、空気中の水蒸気や温度の影響を受けます。湿度が高い環境では、赤外線が吸収され、測定誤差につながる場合があります。屋外測定や空調機の吹き出し口付近では、周囲環境の影響を受けやすくなるため、測定環境を意識した使い方が重要です。
放射温度計は、設備や建物の温度状態を非接触で把握できる点から、GXや省エネ分野で幅広く活用されています。
断熱性能の評価に利用されます。屋根や外壁の表面温度を測定することで、熱の侵入しやすい箇所や逃げやすい箇所を把握できます。断熱改修の効果確認にも有効です。
モーターや配管、制御盤の異常発熱検知に活用されます。通常と異なる温度上昇を早期に発見することで、設備トラブルの予兆管理につながります。
冷媒配管やダクトの温度を確認することで、冷却効率の低下や不具合を把握できます。
パネルのホットスポット診断に使われます。発電効率の低下や故障の兆候を、非接触で安全に確認できます。
熱ロスを可視化することで、省エネ改善のための根拠データを取得できます。
放射温度計は、対象に触れることなく温度を測定できる測定器です。高温部や危険箇所でも安全に測定できます。
一方で、放射率の設定や測定角度、距離、周囲環境を理解しないと、測定誤差が生じやすいため、正確な測定には正しい使用方法の理解が不可欠です。
GXや省エネ施策では、設備や建物の「熱の状態」を把握することが重要です。エネルギー効率向上や設備保全において、温度は欠かせないデータです。
放射温度計は、目に見えない熱を可視化し、改善につなげるための基礎データを得られます。データを正確に把握することは、GX時代の取り組みを支える重要な要素となっています。