測定器 Insight

教育・研究開発向け電源装置について

レンテックインサイト編集部

 組み込み機器の開発やラボの研究においては、狭い作業机(ベンチ)の上で、安定した電源の供給が必要となるシーンが多々あります。 そのような用途に合わせてレンタル・販売されている商品としてベンチトップ型の電源装置があります。

本稿では電源装置の種類や用途、確認すべきスペックについてご紹介します。

直流安定化電源

 安定した直流を出力する装置で、大きく分けてスイッチング方式とシリーズ方式が存在します。

スイッチング方式

 後述のシリーズ方式の電源に比べて「高効率で」「小さく軽い」と紹介されるのがスイッチング方式の電源機器です。
一方で、昇圧・降圧の回路で高周波を発生させるため、出力にわずかなリップル/ノイズが生じるため、用途によっては機種選定時にカタログを精査し、 必要であれば、かならず導入前に実機で評価を行うことが望ましいでしょう。

手元にある1台の電源装置で必要な電力が得られない場合、複数台の同じ電源を接続して目的の電力を得るように設計されている電源装置もあります。

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図:複数台の電源ユニット接続の例

 ベンチトップ型電源装置の選定時には、このように複数台で運用する場合のスペックなどについても丁寧にチェックする必要があります。 最近ではスイッチング方式の電源装置でも直列・並列に接続が可能な機種も多いのですが、使用目的に応じて、必ずマニュアルや内部構成図を精査しておきましょう。

一方でシリーズ方式の電源装置では、回路が許す限りは問題なく複数接続可能な場合が多いのですが、その場合でも内部素子の耐圧や、各電源装置の接地耐圧を超えないように注意が必要です。

シリーズ方式(リニア方式、ドロッパ方式)

 トランスと整流回路による直流電源を、目的の電圧に降下させる方式です。
回路の仕組み上、

  • 低リップル、低ノイズ(0.1mVp-p ~ 数十mVp-p 程度)
  • 優れた高速応答性能
などの利点があり、わずかなノイズが影響を及ぼす繊細なデバイスを用いる開発では重宝します。

主要な部分の回路構成は単純で、部品点数も少ないため、筆者が見た現場では、ユーザーが自分の用途に合わせて改造を加えて使っている場合もありました。

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写真:日本国内で77年頃に製造されたシリーズ方式の電源装置(5V、2A)

出典:メディアスケッチ株式会社

一方で、

  • あまりにも大きく重い
  • 熱損が大きいため、スイッチング方式の電源装置に比べてパワー効率が悪い
  • 大型のヒートシンクや、冷却ファンによる強制空冷が必要となる
という特徴があり、「欠点」として紹介されることもあります。

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写真:Keysight社E3640(5.3kg、30W)内部の変圧器とヒートシンク、空冷ファン

出典:メディアスケッチ株式会社

商品ページには「重量もわずか4~7kg程度の軽量設計」と記されているように、そもそもこの方式は全体的に重い商品です。
よって、この方式の電源では4~7kgというのは軽量といえます。

逆に重いからといって価値が低いわけではなく、目的の性能を達成するために必要な設計のため重い可能性もあるので注意が必要です。

交流安定化電源

 私たちの身の回りにある交流電源といえば、普段の生活に用いているものは住宅の電気コンセントから得られる100Vの商用電源です。

開発の現場では、実験用の回路などでさまざまな電圧のAC電源が必要となる場合があります。

単に交流電源が必要であり、精度を必要としない用途であれば変圧トランスで変換しただけの簡単なAC-ACアダプタが用いられます。

余談ですが、米国の配電ビジネスで交流方式が普及した理由に、配電先の変圧トランスで簡単に昇圧・降圧が可能であったから、と説明されています(真偽は定かではありません)。 そのため、筆者が知っている会社では、減圧のため納期間近にトランスを使った簡易電源を自作することはたまにありました。

さて、AC電源の出力波形に特別な精度が必要な場合には「交流安定化電源」を導入することになります。

施設や周辺地域の商用電源回路が老朽化している、あるいは施設自体の施工不良などの理由で電源が不安定な場合には電源のスタビライザなどが導入されます。 これは組み込みシステムの開発だけではなく、音響を扱うスタジオなどでも一般的に行われています。

交流安定化電源の装置では、直流安定化電源とは異なる考え方でスペックを精査することになります。

直流安定化電源でチェックしていた項目に加え、

  • 出力周波数の精度
  • 周波数の可変範囲、ステップ数
  • 出力波形(正弦波、矩形波など)
  • 出力波形の歪率
  • 負荷変動に対する精度
などが重要なポイントとなります。

交流方式の電源安定化のために実用化された回路方式は複数あり、これだけでも大変おもしろいトピックなのですが、一般的には「周波数変換方式」と呼ばれる仕組みの製品が多く見られます。

SMU(ソース/メジャー・ユニット)、ソースメータ

 SMUは高精度の安定化電源であり、かつ計測器でもあります。 パワーデバイスに対して個体別に特性評価を行う場合や、ラボなどで動作領域が繊細な化学系のセンサーを利用する場合に用いられます。

カタログでスペックを見る際には電源自体の精度に加えて、計測部の精度も目的に合致する仕様であるか確認します。 雑な表現ですが、DMM(デジタル・マルチメータ)の選定と同じようなものと考えてもらって構いません。

さらにSMUは自動計測などの用途に用いられることが多いため、大抵の場合、GPIB、9ピンのシリアルポート、USBやLANなどを経由した機器制御に対応しています。

機器のマニュアルにはSCPIなどのコマンドを介して制御を行う方法が解説されていますので、好きなプログラミング言語と適切な制御インターフェイスで自動計測の仕組みを構成することになります。

古くは計測システム用の専用コンピュータやパソコンで動くBASIC言語、マイクロソフト社のVisual Basicなどで使えるサンプルプログラム例がマニュアルで提供されていました。 ここ10年くらいではVISA(Virtual Instrument Software Architecture)のライブラリをPythonでラッパーしたPyVISAなどもPythonの急激な流行とともに広く使われています。

さまざまな特定用途に用いる電源

高圧電源装置

 各種パワーデバイスの検査や、機器・ケーブルの絶縁耐圧試験、そしてエックス線源を励起する電源や、フォトマルなどのデバイスでは1000Vを超える高電圧が必要となります。 そのような用途には、高電圧を安定して供給し続けるための電源を選択することになります。

高圧電源を扱う場合、システムの移乗動作や事故を防ぐため、全システムに用いられる各機器の接地耐圧やケーブルの耐圧など、 絶縁に関するスペックや基本的な知識を丁寧に把握しておくことが要です。

また、ベンチトップ型の製品だけではなく、設備内に組み込んで連続的に動作させる用途の、いわゆる「システム電源」と呼ばれる製品群も選定対象となるでしょう。

バッテリーシミュレータ(ケースレー(TEK))

 IoTデバイスなどのバッテリーを含むシステムの開発では、 実際のバッテリーと似た挙動を行わせられるように工夫された「バッテリーシミュレータ」などの特定用途向け電源装置を用いることがあります。

とはいえ、要求の厳しい開発では実物の劣化したバッテリーセルを、劣化の段階で各種取り揃えるなどの工夫が必要でした。

PMICが一般的になりパワー・マネジメントが高度化した一方で、システム全体の充放電に関連する状態遷移は複雑化し、信頼性の高い検証を行うために開発工数は増大しています。

従来のバッテリーシミュレータはあくまでも「バッテリーを模した挙動」を設定できる電源装置という位置付けだったのですが、 最近の製品では、実際のバッテリーセルから「バッテリーモデル」を作成し、機器にメモリすることで、全く同じ条件下での機器テストを繰り返し行えるようになりました。

メディアスケッチ株式会社(執筆:江崎 寛康 監修:伊本 貴士)

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