
記録計(データロガー)は、温度や湿度、圧力、CO₂、照度、衝撃といった環境データを長期間、複数点で測定したい場面に活用できる機器です。センサーで取得した信号を一定間隔で取り込み、内蔵メモリや外部媒体に保存します。データロガーは、数十点の多点監視や日・週・月単位の継続的な観測に適しており、研究開発や品質管理、設備モニタリングなど幅広い分野で利用されています。
本記事では、データロガーの基礎知識、代表的なタイプと特徴、そして測定計画や設置の際に注意すべきポイントについて解説します。
データロガーは、センサーから得た物理量(温度、湿度、電圧など)をアナログまたはデジタル信号として受け取り、設定した間隔で蓄積していく装置です。オシロスコープのように瞬間的な信号を観測する機器と比べると、サンプリングの速度は遅いものの、チャンネル数が多く、記録時間を長く取れる点が特徴です。
記録できる対象信号は多岐にわたり、熱電対や測温抵抗体による温度、直流電圧や電流、パルス、CO₂濃度、照度、紫外線量、衝撃イベントなどがあります。機種によってはチャンネル間の絶縁設計が施されており、高電圧の測定やノイズの影響を抑えた精度の高い記録が可能です。通信機能も進化しており、USBやLAN、Wi-Fiに対応した機種では、遠隔からの設定変更やリアルタイム監視が行えます。しきい値を超えた場合にメールで通知したり、複数台を同期させてデータを統合したりといった運用も容易です。
用途は、恒温槽の温湿度管理、実験室や試験室での気圧やCO₂の測定、博物館や美術館における照度や紫外線の監視、さらには輸送時の衝撃記録など多岐にわたります。こうした長期的かつ安定したデータ収集を必要とする現場では欠かせない装置といえます。
データロガーには、測定対象が決まっている「専用型」と複数種類のセンサーの入力に対応する「汎用型」があります。どちらを選ぶかによって導入のしやすさや運用の柔軟性が異なります。
温度、湿度、CO₂など特定の物理量に特化したタイプです。あらかじめセンサーが内蔵されていたり、専用の外付けプローブと組み合わせて使用したりします。測定対象が明確なため、設定が簡単で扱いやすく、導入や運用のコストも抑えられるのが特徴です。輸送時の温度記録や、建物内の空気質モニタリングなど、1種類の量を確実に長期間記録したい場合に適しています。
複数の入力端子を備え、任意のセンサーを接続してさまざまな物理量を測定できるタイプです。電圧、電流、パルス、デジタル信号などに対応し、異なる種類のデータを同時に収録できます。複数の信号を同じタイミングで取得できるため、過電圧の発生と共にデバイスの温度が上昇する様子など、異なる物理量同士の相関を分析できます。研究開発や試験評価など、多様な測定を必要とする場面で重宝します。

データロガーを正しく活用するには、目的に応じた測定要件の検討と、現場環境に合わせた設置が大切です。現場ではセンサーの配線や固定方法、接続状態を確認し、正確な測定値が得られるよう調整する必要があります。
導入前には、「何を、どこで、何点、どの精度や範囲で、どれくらいの期間」測定するのかを明確にしておくことが重要です。測定する物理量(温度、電圧など)や必要なレンジ、精度、チャンネル数を整理し、将来的な増設の可能性も考慮して機種を選定します。多種類の信号の取得を1台に集約できると、各信号の同期が取りやすく、測定後の解析もしやすいでしょう。
観測対象に応じてサンプリング間隔を設定し、想定される期間から必要なメモリ容量を見積もります。記録容量が不足する場合は、サンプリング周期の調整や、バックアップ機能の有無を確認するとよいでしょう。自動で古いデータを上書きする機能を持つ機種もあります。 LANやWi-Fiによる遠隔設定やデータ送信、Webサーバー機能、メール通知機能を備える製品を選べば、複数拠点でのデータ共有や自動バックアップも容易になります。
複数個所を同時に測定する場合は、十分な数のセンサーを用意し、配線を整理してデータロガーに接続する必要があります。接続端子が緩んでいると正しい値が取得できないことがあるため注意が必要です。
温度測定に熱電対や測温抵抗体を使用する際は、センサーの種類(K、T、Pt100など)を事前に登録しておきましょう。設置後には、簡易的な動作確認を行い、測定値に異常がないか、サンプリング設定やレンジの設定が適切か、データの保存が正しく機能しているかをチェックすることが大切です。
データロガーは、多チャンネルで長時間、環境や設備の状態を自動的に収集できる計測装置です。測定要件を事前に整理し、適切なスペックと機能を持つ機器を選ぶことで、現場に最適なデータ取得が可能になります。
長期間にわたるデータ収集と分析を通じて、設備の状態変化を把握したり、異常の兆候を早期に検知したりできるのもデータロガーの大きな強みです。環境モニタリングや品質管理において、信頼性の高いデータ取得を支えるツールといえるでしょう。