人工衛星とそれを打ち上げるロケットの分野にも小型化・低価格化が進行し、
大学や民間企業が多数の小型衛星を打ち上げて、これまでは考えられなかった新たなビジネスを作る動きが加速しています。
そんなプロジェクトの中には数々の計測器が関わっています。
かつては宇宙開発は国家プロジェクトとしてのみ行われていたものですが、近年、ロケットや人工衛星の分野にも多くの民間企業が参入しています。 その代表的な事例といえるのが、国際宇宙ステーション「ISS」への物資輸送にも民間企業のロケットが使われている、ということでしょう。 もちろんISSへの物資輸送だけでなく、人工衛星を使った観測や通信のサービスを提供する「宇宙ビジネス」はどんどん活発化してきています。 そこに欠かせないのが、ロケットや人工衛星の小型化とコストダウンが急速に進んでいることです。 打ち上げの時期や軌道の自由度が高く低コストで運用できる小型ロケット/衛星は宇宙のビジネス利用との相性がよく、今後も急速な伸びが予想されています。 では、これからの宇宙ビジネスに使われる人工衛星にはどんな特徴があり、どのような計測ニーズがあるのでしょうか?
人工衛星の用途は主に通信・放送・観測・測位の4種類ですが、通信・放送では主に静止衛星を使うのに対して、 観測・測位分野では近年、多数の小型衛星を協調動作させる「コンステレーション」と呼ばれる運用方法が広まっています。 その一例がスマートフォンからも利用できるGPS(グローバル・ポジショニング・システム)で、32個の人工衛星により常時測位を可能にしています。 本来、人工衛星は(静止衛星を除けば)移動し続けるため地上の同じ場所を観測し続けられないのに対して、 コンステレーション方式は多数の人工衛星を使って「常にどれかの人工衛星が上空にある」状態を作り出し、継続的な観測・測位を実現させる方法です。 この方式では、一点もので製作される大型衛星と違って、同じ仕様の小型衛星を多数製作しなければならず、同一の試験・計測を効率良く行う必要があります。
人工衛星は打ち上げ時の激しい加速・振動・音響に耐えなければなりません。 特に大事なのが「共振」と呼ばれる、物体ごとに存在する固有振動数に近い振動が加わると揺れが大きくなり破壊につながる現象への対策です。 そこで、共振しにくいように人工衛星を設計した上で、実際にそうなっているかどうか確認するために外部から振動を与えて挙動を確認する試験を行います。 ここでよく使われるのが、対象物にセンサ(ピックアップ)を取り付けて加速度を電荷に変換し、それをチャージアンプで電圧に変えて計測器に接続する方法です。 センサにはチャージアンプを内蔵しているものもあり、そのほうが簡単に計測できますが、 アンプの分だけ重くなるためセンサ自体の質量が計測に影響する場合は使用できませんし、高温・低温に弱くなるデメリットがあります。
また、打ち上げ後の人工衛星は日なたは高温に、日陰は低温になりその温度差は200℃にも達します。 電子機器はこの温度差に耐えられないため、主要回路部分は断熱・冷却・加熱等の策を講じて動作温度範囲を維持しなければなりません。 地上と違い空気のない宇宙空間では対流による冷却は期待できないため、 主に熱伝導や放射により熱を逃がすように設計します。これらの熱設計の計測には、各種温度計、熱流センサなどを使用します。
小惑星探査機「はやぶさ」が電力をほとんど失いかけていたことをご存じの方も多いことでしょう。 姿勢制御や軌道維持のために使う燃料を除き、宇宙機のほとんどの機能は電力をエネルギーとして使用するため、電力はまさに人工衛星の生命線といえます。 その生命線をつかさどる電源系の主要要素は太陽電池パネル、バッテリー、電力制御器の3つあり、おおむね人工衛星総重量の2~3割を占めます。 高性能かつ信頼性の高い人工衛星を開発するためには電源系の改良は避けて通れません。そのためにも必要なのが計測です。
宇宙は太陽電池にとっては過酷な環境で、大きな温度差と太陽からの放射線により地上よりも早く劣化が進行してしまいます。 バッテリーも運用を続けるにつれて徐々に性能が劣化していくため、人工衛星の電源システムはそれを見込んだ上で、想定する運用期間の終期に必要な性能を確保できるように設計します。 それには各部材の劣化ペースや負荷側の正確な電力消費量を計測しなければなりません。 また、電源回路から発生する高周波ノイズが通信機等の動作に影響を及ぼさないよう、ノイズ計測も必要になります。
人工衛星をいったん宇宙に打ち上げてしまったら、故障しても修理に行くことはできません。 そこで、さまざまな方法で「故障率を下げる」「一部の故障で全機能喪失を招かないよう冗長化する」などの対策をしますが、もうひとつ重要なのが「テレメトリ」です。 これは人工衛星自体の各部にセンサを張り巡らして温度をはじめとするさまざまな計測を行い、運用中の人工衛星の健康診断に生かす仕組みです。 特に多いのが温度センサで、これは温度の変化によってさまざまな異常を検知することが可能なためです。 電子機器の寿命や性能は温度の変化に大きな影響を受けます。 温度が異常に上がっている装置は想定より早く劣化してしまう恐れがありますが、その場合でもその装置の使用頻度を落とせば劣化を食い止められるかもしれません。 こうした運用を行うために、また、障害の原因を解析して次期開発に生かすためにも重要なのがテレメトリで、実は人工衛星自体が計測器のカタマリともいえます。
テレメトリは非常に重要な仕組みではありますが、人工衛星は重量制限が厳しいため、すべてのパーツにセンサをつけるわけにはいきません。 温度を計測したいパーツが仮に6つあっても、センサの配置を工夫すれば4つや3つに減らしてその相関を分析すれば各パーツの温度を推計できる場合があります。 そこで地上ではその「少ないセンサによる解析」が想定通りに機能することを確認するため、精密な計測を行って検証します。
今後のますますの進化が期待される、小型・超小型衛星という新しい宇宙ビジネスでも、計測器は大いに活躍することでしょう。