
通常のインバーターはハードスイッチング方式を採用し、直流を交流に変換しています。しかし、ハードスイッチング方式にはスイッチング時に発生するノイズや損失が大きいという課題があります。ソフトスイッチングはハードスイッチングの課題を解消するスイッチング方式であり、インバーターやコンバーター、スイッチング電源で利用されています。
本記事では、ソフトスイッチングインバーターの仕組みやハードスイッチング方式との違い、用途について解説します。
ソフトスイッチングインバーターとは、スイッチング素子の電圧や電流がゼロのタイミングでオン・オフすることで、スイッチング損失を低減するインバーターのことです。ソフトスイッチングを導入することで、通常のインバーターで問題だったスイッチング損失に伴うノイズを減らすことができます。以下では、ソフトスイッチングインバーターの仕組み、ハードスイッチングとの違いについて確認します。
ソフトスイッチングインバーターは、共振現象を利用してスイッチング損失を低減させています。一般的には、スイッチング素子の周辺にインダクタとキャパシタを接続し、特定の周波数でLC共振を引き起こします。
回路が共振状態になると、スイッチング素子にかかる電圧または電流が一時的にゼロになります。これにより、スイッチング時のターンオフ損失やターンオン損失、さらにそれに伴うノイズを大幅に低減することができます。
ソフトスイッチングインバーターとハードスイッチングインバーターの違いは、共振回路の有無のほかに、制御の複雑さや活用される規模があります。
ハードスイッチングインバーターの場合、スイッチング素子のオン・オフの組み合わせで交流を実現するという回路のシンプルさから、PWM制御など制御方式が比較的単純です。その一方で、スイッチング時の電圧あるいは電流が急激に変化するため、スイッチングノイズが発生します。スイッチングノイズは回路を不安定化させるため、EMC対策によってノイズを発生する機器とその影響を受ける機器とのバランスを取る必要があります。
これに対して、ソフトスイッチングインバーターの場合、スイッチングノイズや損失が小さいことから、EMC対策が容易になります。その一方で、インダクタとキャパシタが共振するタイミングや条件を考慮する必要があるため、既存のPWM制御が使えないなど制御が複雑化します。
また、ソフトスイッチングインバーターはノイズや損失が小さく信頼性を向上させられるため、家電製品など小規模なケースでの活用が多くみられます。これに対し、ハードスイッチングインバーターはシールドの設置などEMC対策を講じやすい大規模なケースでの活用が多くみられます。

ソフトスイッチングインバーターは、共振を発生させる仕組みに応じて、ZVS方式(ゼロ電圧スイッチング方式)、ZCS方式(ゼロ電流スイッチング方式)、疑似共振制御ICを利用した方式など種類が分かれます。
ZVS方式はインダクタとキャパシタを並列接続した共振回路を組むことで電圧を振動させ、スイッチング素子の電圧がゼロになるタイミングでオンにしています。このため、MOSFETのようなターンオン損失が問題となるケースでの活用に効果的です。また、高周波ノイズの抑制により高周波動作で強みを発揮するため、高電圧・高出力が要求されるSiC(シリコンカーバイド)製のMOSFETとの相性が良いです。
ZCS方式はインダクタとキャパシタを直列接続した共振回路を組むことで電流を振動させ、スイッチング素子の電流がゼロのタイミングでオフにしています。このため、IGBTやサイリスタといったターンオフ損失が問題のインバーターで威力を発揮します。
疑似共振制御ICを活用したソフトスイッチング方式では、スイッチング素子のドレイン電圧の波形に応じて制御ICがターンオンを決定します。これにより、ターンオン損失とEMIノイズの抑制を実現します。制御の難しいLC共振回路を組む必要がなく、制御ICのみで共振を疑似的に再現可能です。
ソフトスイッチングインバーターは高周波対応であることから、家電製品のほかにも、EVや産業用インバーター等に使用されています。
家電製品としては、IH調理器や電子レンジなどに活用されており、高周波の電磁波による加熱を実現しています。また、車載インバーター用として、Si IGBTを活用したソフトスイッチング方式が採用されるケースが登場しています。産業用途では、高周波トランス方式を採用した太陽光発電システムやUPSでの活用事例があります。
ソフトスイッチングインバーターは近年の技術革新により実用化しやすくなり、車載など多くのシーンでの活用が期待されています。
ZCS方式やZVS方式といったソフトスイッチング方式は1990年代に確立された技術ですが、回路構成や制御の複雑さから実用化が難しいと考えられていました。しかし近年、疑似共振を実現するデジタル制御ICの登場やスイッチの瞬間だけ共振させる「部分共振方式」により、ソフトスイッチング方式による制御が容易になりました。そのため、家電製品だけでなく、車載用途としても再注目されています。また、SiCのようなワイドバンドギャップ半導体との相性も良いことから、EVや産業用途など高電圧・高出力が期待されるシーンでの活用が期待されています。