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AI×ARで新しい社会価値を提供

レンテックインサイト編集部

測定器 Insight AI×ARで新しい社会価値を提供

 調査会社のカウンターポイントリサーチによると、世界のXRデバイス向けディスプレイ市場は、2025年に前年比6%の成長が見込まれています。この中で、VR向けの成長率は同2.5%にとどまる見通しですが、AR向けディスプレイは同42%増と急成長が見込まれています。これには、VRデバイス市場が踊り場にある一方、ARデバイス市場が黎明期~普及期にあることが大きく影響していると考えられます。また、ARデバイスはAI機能を活用するエッジコンピューターとしての用途拡大も期待されており、そうした新しいAI×ARデバイスの登場がディスプレイ市場も牽引していくとみられています。

 カウンターポイントリサーチでは、2026年も成長傾向が続くと予測しています。特にAR向けディスプレイの出荷量は前年比で38%増加する見通しで、技術革新と製品の多様化が加速すると予測しています。一方で、VR向けは2.1%の小幅な成長にとどまるとの見通しで、安定性を保ちつつも急激な変化は期待しにくい状況にあるといいます。ただし、特にARグラスの製造においては中国企業の存在感が強いことから、米国による中国製品などへの関税措置が、供給網や価格競争力に影響することを懸念材料として挙げています。

メタがAI×ARデバイスを強力推進

 XRデバイスを手がける企業の中で、VRからARへの軸足の転換が顕著なのが米メタ・プラットフォームズ(メタ)です。同社は、これまでにVRヘッドセットの「Meta Quest」シリーズを展開して市場トップシェア(出荷台数ベース)を堅持していますが、同社が最も注力するAI技術の主な活用先として選んだのは、新しいARグラス(スマートグラス)です。

 メタは「Personal Superintelligence」と呼ばれる構想を進めています。Personal Superintelligenceは、すべての人に、個人の目標達成や創造活動、自己成長を支援するAIを提供するというビジョンです。仕事の自動化や生産性の向上を主目的としたAIとは異なり、個人の能力を強化・支援する存在になることを目指しています。この取り組みは、メタのAI開発部門「Meta Superintelligence Labs」が中心となって進められており、大規模言語モデル「Llama」や対話型AI「Meta AI」に続く、次世代のAI戦略として位置付けられています。

 メタは、Personal Superintelligenceを実現するためのインターフェースとして、すでに発売されている「Ray-Ban Meta」や開発中の次世代グラス「Orion」などを挙げています。また、「スマートグラスは、最終的にスマートフォンに代わる主要なコンピューティング端末になる」「将来的に、AIを搭載したグラスやAIとインタラクションできる手段を持たない人は、持つ人と比べてかなりの認知的な不利に陥る可能性がある」など、ARグラスをAIとの常時接続を可能にする端末として位置付ける考えを示しています。

シェアトップのXREALはGoogleと連携

 ARグラス世界シェアトップを誇るのがXREALです。同社は2017年にNrealとして中国・深圳市で設立され、2023年に現社名に変更しました。現在の主力製品の一つが「XREAL One Pro」で、半導体チップには自社開発の「X1」を搭載しています。また、新開発した光学モジュール「X Prism」により、視野角を57度にまで拡大させたことが大きな特徴です。従来の光学モジュールの「Bird Bath」は、プリズムを45度で斜めにカットしていることから横・下方面からの光の反射を受けやすいですが、X Prismは正方形にカットすることで反射や散光を99%削減したほか、モジュール全体の体積を44%低減して小型、薄型化を実現しました。さらに、モジュール内にある部品を従来よりも二つ増やし、より複雑なモジュール設計を具現化したことで57度までの広視野角化を達成しました。ディスプレイはソニー製の0.55型有機ELパネルを採用。最大輝度は700ニット、最大リフレッシュレートは120Hz、10m先に428型の映像を見ることができます。

 2026年には、Googleやクアルコムと提携して開発を進める「Project Aura」の上市も予定しています。同製品は、Android XRエコシステムに対応した初のARグラスとなる見通しです。自社で設計開発したX1チップの処理速度を25%向上させた「X1S」チップを搭載する計画で、すでに設計を終え、X1と同様にTSMCでの製造になるとみられています。視野角は光学シースルータイプのARグラスにおいて最大となる70度を実現し、Googleの生成AI「Gemini」に対応します。

日本発のARグラスもAI搭載へ

 日本では、NTTコノキューが2025年3月にスペインのバルセロナで開催された「MWC Barcelona 2025」に出展し、コンシューマー向けARグラスのコンセプトモデルについて発表しました。同社は2024年から法人向けARグラス「MiRZA(ミルザ)」を展開していますが、次世代機はコンシューマー市場をメインターゲットとし、NTTコノキューとシャープの合弁会社であるNTTコノキューデバイスが開発を進めています。

 次世代機の最大の特徴は、生成AIと連携した音声対話型インターフェースの搭載です。ユーザーが音声で指示を出すことで、視界に商品情報やナビゲーション、通知などが空間表示される仕組みとなっており、従来機と比べて約半分の重量となる60g程度を目指しています。バッテリーは最大1日持続し、価格は約500ドル(約7万5000円)を想定しています。

 同社が展開するARグラスは、「XR×AI×日常生活」の融合を目指すNTTグループの戦略を体現するものです。顔に装着する端末として日常使いを目指すには、重量50gを切ることが理想とされますが、新しいARグラスはその目標に近付き、AIを活用するエッジ端末としての役割も担うものになりそうです。

日本のベンチャーが主要部材開発

 海外と比較すると、日本はXRデバイスの開発においては消極的です。その中で、国内ベンチャー企業であるCellidは、将来的にApple Vision Proのようなヘッドマウント型のXRデバイスをメガネ型へと進化させることを目指し、ARグラスのキーコンポーネントの開発・生産・市場展開に注力しています。同社は、自社の光学モジュールがかつての「インテル入ってる」のような存在となることを目指し、世界市場において主導的ポジションを築いていくとしています。

 同社は2016年に設立されたARグラス向け技術の開発企業で、空間認識エンジン「SLAM」やウェイブガイド(導光板)、マイクロプロジェクターなどの光学部品を自社で開発・生産しています。特に、軽量・高透過率・広視野角を兼ね備えたプラスチック製のウェイブガイドを世界に先駆けて開発しており、同社の光学部品を用いたARデバイスの試作モデルでは、ケーブルレスで重量40g前後の試作品がユーザーによって開発されています。

 今後、同社は数千万台規模の量産体制の構築を目指すとともに、マイクロプロジェクターや専用ICの開発にも取り組む方針です。さらに従来品と比較して2倍以上の輝度向上を実現したウェイブガイドを新たに開発しており、プラスチック製とガラス製の両タイプを展開しています。また、視野角60度の高精細なAR映像を投影可能なマイクロプロジェクターの開発にも成功しており、2025年内には視野角50~70度の製品ラインアップを拡充し、量産体制の強化と光学性能のさらなる向上に取り組む計画です。

ARグラスが新しい社会価値を提供

 現在、ARグラス市場は通知表示、リアルタイム翻訳、生成AIとの連携など、情報提示をメイン用途として開発されてきています。これらの機能は、ユーザーの利便性を高めるとともに、日常生活や業務における新しいインターフェースとしての可能性を提示するものです。特に、小型・軽量で装着性に優れたARグラスは、今後の市場でさらに普及することになるでしょう。

 日本国内においても、調査会社の矢野経済研究所によれば、2024年のXRデバイス市場は約45万台規模になり、中でもARグラスは物流分野でのピッキングや遠隔支援を中心に法人向けの需要が堅調だったとしています。国内のXRデバイス市場は2030年に約87万台規模に拡大する見通しで、XRコンテンツ市場も拡大傾向にあり、安全、教育、技術継承、研修用途など産業分野での活用が進むと予測しています。

 AIとARの融合に関してはさまざまな可能性が見込まれています。例えば、ARグラスのカメラで捉えた現実空間の物体や場所をAI認識し、その情景を理解できるようになるでしょう。つまり、特定の建物や商品をARで認識し、その歴史や詳細情報を瞬時に表示するといったことが可能になります。

 また、ユーザーの行動や好みをAIが学習し、ARグラスを通して、ユーザーに最適な情報やコンテンツをリアルタイムで提供するといったことも考えられます。買い物をしているときに商品のレビューをARで表示したり、観光している際に興味のあるスポットの解説を自動で聞かせたりといったサービスも可能となるでしょう。 AIが搭載されたARグラスは、前述のような情報を表示するデバイスとしてだけでなく、スマートフォンに代わる次世代のコンピューティング端末になる可能性も考えられ、音声やジェスチャーといった直感的な操作で、AIと対話しながらARコンテンツを操作できるようになるでしょう。さらに、ゲーム、アート、教育など、ARコンテンツにおいて双方向性や没入感の高いものが今後発表される可能性も高く、AIが生成するキャラクターが現実空間に現れ、ユーザーと自然な対話をするような体験も可能になるとみられています。このように、AIとARの融合は、単なる新しい注目技術というものではなく、社会を根本から変える可能性を秘めたものになるでしょう。

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