
PFAS(有機フッ素化合物の総称)を全面的に規制対象に含める動きがEUをはじめとする各国で進んでいます。その一方で、再生可能エネルギー(以下、再エネ)分野やそれを支える半導体など、多くのエレクトロニクス製品にはPFASが使用されています。PFASフリーの代替品の研究・開発も行われていますが、現状では大量生産を支えるまでには至っていません。
本記事では、PFAS規制が再エネの実現に欠かせない技術におよぼす影響について解説します。
PFASとは、ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の総称で、約1万種類が存在します。中でもPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(ペルフルオロオクタン酸)は、幅広い用途で使用されています。
PFASは撥水性・撥油性・耐熱性・電気絶縁性・耐薬品性など、多くの重要な特性を持ちます。こうした特性は、炭素とフッ素の化学結合によって生まれます。そしてPFASの表面張力の低さが、表面張力の高い水や油をはじくことにつながります。この特性により、フライパンなどの生活用品から医療分野まで幅広い分野に応用されています。
一部のPFASは有毒性を持ち、コレステロール値の上昇や、腎臓がん、甲状腺疾患、潰瘍性大腸炎などにつながるリスクが指摘されています。また、母親が摂取したPFASは胎児に移行するため、子どもの免疫力にも影響を与えるとも言われています。
PFASの強力な化学結合は分解されにくいため、廃棄されたPFASが土壌や水に残ることが懸念されています。
PFASの一部はすでに規制対象になっていますが、環境への残留性や人体・生物への健康影響の懸念から、PFASを全面的に規制する動きも出ています。
すでに規制対象となっているPFASには、PFOS、PFOA、PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)などがあり、これらは「特定PFAS」と呼ばれます。このうちPFOSは、ストックホルム条約(POPs条約)の対象に段階的に追加され、製造・使用・輸出入が原則禁止、または制限されています。
また、非ポリマー系のPFASだけでなく、ポリマー系のPFASも規制対象にするという動きも出ています。EUの欧州化学品庁(ECHA)は2024年に、ポリマー系PFASの知見が深まり、規制するのかどうかを判断するための情報収集を続けると発表しました。さらに、2025年8月には、PFASの規制対象を拡大する案が審議中であることを発表しました。
一方、アメリカの一部の州(15州)ではPFASを使用した製品を全面的に禁止する法案が可決されています(2025年4月時点)。

PFASは、太陽光パネル、二次電池、燃料電池など、再エネ関連エレクトロニクス製品からパワー半導体の製造工程まで幅広く使用されています。以下では、再エネを支えるエレクトロニクスや製造プロセスにおけるPFASの使用、さらにPFASフリーの代替品についてご紹介します。
再エネの主力発電の一つである太陽光パネルにもPFASが使用されています。具体的には、太陽光パネルの裏面保護にフッ素樹脂フィルムが用いられています。これに代わるものとして、セラミックや無機系など、PFASフリーのコーティング技術が研究・開発されています。
再エネによる電力の貯蔵を支えるのが二次電池や燃料電池です。いずれもPFASが使用されています。
リチウムイオン電池は太陽光パネルで発電した電力を貯蔵する代表的な二次電池であり、正極材料を接着するバインダーにPFASの一種であるPVDF(ポリフッ化ビニリデン)が使用されています。その代替品として、水溶性バインダーや無機系バインダーが研究・開発されています。
燃料電池は水素と酸素の化学反応によって電気を作る製品であり、中でも発電効率の高い固体高分子形燃料電池の高分子膜(電解質)にPFASが使用されています。代替品として炭化水素系(HC)電解質膜などが研究・開発されています。
車の電動化や太陽光発電などで使用されるパワー半導体の製造プロセスにもPFAS規制の影響がおよんでいます。パワー半導体の主流はシリコン(Si)系であり、ウエハーの表面加工に必要なエッチングガスにフッ素系ガスが使用されています。このため、PFAS規制対象外のCF3I(トリフルオロヨードメタン)など、代替エッチングガスが研究・開発されています。
また、ウエハーの露光処理に使用されるフォトレジスト液(ArF液浸レジスト)にも、撥水性を高めるためにPFASが使用されています。すでに、一部の日本企業がPFASフリーのフォトレジスト液の開発を発表しています。
PFASの全面的な規制に向けた動きは流動的であるため、その動向や代替品についてもフォローする必要があります。化学製品の環境への配慮として、RoHS指令(2006年)やREACH規則(2007年)が発令されるなど、規制強化がここ数十年のトレンドでした。しかし、産業界への影響の大きさから規制の流れが流動的になりつつあります。例えばアメリカでは、一部のPFASに対する規制を当初予定の2029年から2031年に延期することが、2025年5月に決定しました。こうしたPFAS規制の流動性は今後も現れる可能性があるでしょう。