
温室効果ガスの排出量やその評価を行う上で必要なのが、カーボンフットプリント算定です。ESG投資への注目度が高まる中で、環境に配慮した企業経営が求められています。ガイドラインに則ってカーボンフットプリントを算定することで、最適な施策を選択できるようになるでしょう。
本記事では、カーボンフットプリント算定とは何かについて、ガイドラインや計算方法に触れながら解説します。
カーボンフットプリント算定とは、製品やサービスのライフサイクル全体で排出される温室効果ガスを数値化することを指します。
環境負荷を数値で見える化することで、削減目標の設定や改善施策につなげることができます。
企業が持続可能性を示す指標の一つとして、カーボンフットプリント算定は投資家や顧客からの信頼獲得にも直結します。
近年、世界ではカーボンニュートラルを目指す動きが加速しており、その達成に向けて排出量の管理と削減は避けて通れない課題となっています。
企業活動に伴う温室効果ガスの排出量を可視化し、定量的に把握することは、環境対応の第一歩として国際的にも重要です。
また、カーボンフットプリント算定は単なる環境対策にとどまらず、ESG投資の評価基準にも直結します。投資家や金融機関が企業の持続可能性を判断する際、排出量管理や削減計画を重視する傾向が強まっており、算定結果は企業価値や資金調達力を左右する要因となります。
カーボンフットプリントを正しく算定するためには、国際的に認められた基準や国内の指針に沿って進めることが重要です。
基準が統一されていなければ、企業間での比較や投資家への説明が難しくなるため、標準化された枠組みを活用することが信頼性の確保につながります。
ISO 14067は、製品やサービスのライフサイクル全体で排出される温室効果ガスを評価するための国際規格です。
原材料の調達から製造、流通、使用、廃棄に至るまでの排出量を包括的に算定することが求められており、世界中の企業が参照する共通のルールとなっています。
GHGプロトコルは、事業活動における排出量を「Scope1(自社での直接排出)」「Scope2(購入エネルギーに伴う間接排出)」「Scope3(取引先や物流などのサプライチェーン排出)」の三つに区分して管理する考え方です。
企業はこれに基づき、排出源を網羅的に把握し、サプライチェーン全体を含めた削減戦略を立てることが求められています。
日本でも環境省や日本環境管理協会(JEMAI)が企業向けに具体的な算定方法を整理したガイドラインを公開しています。
国内の産業構造や法規制に即した内容となっており、特に中小企業が算定を始める際の実務的な手引きとして活用が進んでいます。これにより、国際規格との整合性を保ちながら、日本企業としての透明性ある報告が可能です。

カーボンフットプリント(CFP)の算定は、製品やサービスのライフサイクル全体における温室効果ガス排出量を定量的に評価するプロセスです。環境省のガイドラインでは、以下の4つのステップに沿って進めることが推奨されています。
CFP算定の目的や表示方法を明確にするステップです。社内の環境改善、顧客への情報提供、環境報告書への掲載など、算定の目的に応じて表示単位(例:製品1個あたり、重量あたり)や表示形式(例:ラベル、Web、報告書)を決定します。目的に応じた方針設定が、算定の方向性と活用方法を左右します。
製品のライフサイクルにおいて、どの工程までを算定対象とするかを定義します。原材料調達、製造、流通、使用、廃棄・リサイクルなどのステージを含めるかどうかを検討し、一次データ(自社で取得可能な実測値)と二次データ(公開データベースなど)を適切に組み合わせて使用します。範囲設定の明確化は、算定の透明性と再現性の確保に不可欠です。
各工程における活動量(例:電力使用量、燃料消費量、輸送距離など)に対して、国や地域が定めた排出係数を掛け合わせることで、CO2換算の排出量を算出します。算定には、最新かつ信頼性の高い排出係数を用いることが求められます。また、排出量の多い工程(ホットスポット)を特定することで、削減施策の優先順位付けにも活用できます。
算定結果は、社内レビューや第三者による検証を通じて信頼性を高めます。その後、環境報告書や製品ラベルなどを通じて社外に開示します。単なる数値の公表にとどまらず、今後の削減計画や改善施策への活用方針を示すことで、企業の環境対応への姿勢を明確に伝えることができます。
カーボンフットプリント(CFP)の算定では、製品やサービスのライフサイクル全体における温室効果ガス排出量を定量的に評価するための標準的な手法が用いられます。 その中心となるのが、ライフサイクルアセスメント(LCA)です。LCAは、原材料調達から製造、流通、使用、廃棄・リサイクルまでの各工程で発生する排出量を評価し、製品単位での環境負荷を可視化します。
LCAの実施にあたっては、各工程での活動量(例:電力使用量、燃料消費量など)に、国や地域が定めた排出係数を掛け合わせることで、温室効果ガス排出量を算定します。 例えば、電力使用量に対して電力会社が公開している排出係数を適用することで、その利用に伴うCO₂排出量を求めることができます。この方法はシンプルで計算負荷が小さいため、初期段階の算定にも適しています。
カーボンフットプリント算定の目的は、単に排出量を数値化することではなく、その結果を企業経営やサステナビリティ戦略に活かすことにあります。
適切に活用すれば、企業の信頼性向上や競争力強化につながります。
算定結果は、環境報告書や統合報告書に掲載することで、ステークホルダーに対して自社の取り組みを透明に示すことができます。
排出量の現状を開示し、将来的な削減目標と合わせて提示することで、企業の責任ある姿勢をアピールできます。
算定結果は、自社だけでなくサプライチェーン全体での排出削減の出発点となります。
取引先や物流事業者と排出データを共有し、共同で削減策を検討することで、Scope3を含む包括的なカーボンマネジメントを実現できます。
算定結果を顧客や投資家に積極的に開示することで、環境配慮型の企業としての評価を高めることができます。
特にESG投資の広がりにより、環境対応を重視する投資家からの資金調達が有利になるケースも増えています。
また、環境配慮を重視する顧客に対しては、商品やサービスの差別化要素としてアピールできる点も大きな利点です。
カーボンフットプリント算定は、企業が環境責任を果たすための取り組みにとどまらず、国際競争力を左右する重要な要素となりつつあります。例えば、EUで導入が進む炭素国境調整措置(CBAM)は、排出量の算定と開示を前提に、輸入品にCBAM証書の購入(事実上の課税に相当)を求める仕組み であり、日本企業にとっても無視できない影響をおよぼすものです。
こうした規制が世界的に広がる中、算定はグローバルビジネスを継続する上で必須の対応となっています。
今後はクラウドサービスやAI技術の活用によって、算定の効率化と精度向上がさらに進むと期待されます。大量のデータを迅速に処理し、ライフサイクル全体のより詳細な分析が可能になることで、排出削減の優先領域を戦略的に特定できることとなるでしょう。