
IGBTとMOSFETは、似たような役割を果たすものですが、厳密には異なる用途で使われています。本記事では、具体的にどのような特徴の違いがあるのか、そしてどんな使い方が浸透しているのかについて解説します。
次世代技術との兼ね合いや展望も踏まえ、最適な選択肢を選べるようになりましょう。
IGBTとは「Insulated Gate Bipolar Transistor」の略称で、日本語では「絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ」と呼ばれます。
この素子はMOSFETのような電圧駆動型のゲート構造と、バイポーラトランジスタの高耐圧・大電流特性を兼ね備えている点が特徴です。
主に高電圧・高電力領域でのスイッチング制御に使われ、電力変換装置やインバーター、モーター駆動回路などで多用されています。
MOSFETは「Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor」の略称で、日本語では「金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ」と呼ばれます。
MOSFETは電圧でスイッチングを制御する特性を持ち、高速な動作と高い入力インピーダンスを実現する素子です。主に低電圧〜中電圧域での応答性が重要な回路、例えばDC-DCコンバーターやパワーサプライ、電子制御ユニット(ECU)などで多く使用されています。
IGBTとMOSFETはどちらもパワー半導体として広く利用されていますが、それぞれに明確な特徴と適用領域の違いがあります。
IGBTは高電圧・大電流に対応できる反面、スイッチング速度はやや遅く、逆回復電流の影響を受けやすいという性質を持ちます。一方のMOSFETはスイッチングが非常に高速で、比較的低電圧での制御に向いています。ただ、高電圧での損失が増えやすいという制約もあるため、注意しなければなりません。
また、IGBTは導通損失が小さいのに対し、MOSFETはスイッチング損失が小さいという違いがあり、それぞれの回路特性や用途に応じて使い分けられています。

IGBTは主に電力インフラや産業機器、自動車用インバーター、鉄道車両用コンバーターといった高電圧・大電力を必要とする分野で採用されているのが特徴です。定格電圧600V以上の領域でモーター制御を行う場合、IGBTの方が効率的な選択肢として考えられています。
これに対し、MOSFETはPCやスマートフォンの電源回路、太陽光パワーコンディショナ、小型ロボットなど、比較的低〜中電圧かつ高スイッチング周波数を必要とする領域を得意としています。
両者は優劣があるものではなく、それぞれ適した用途に用いることでその性能を発揮します。表面的なスペックだけでなく、動作環境や周辺回路の設計要件も考慮した使い分けが大切です。
IGBTとMOSFETの選定では、まず入力・出力の電圧と電流の条件を明確にし、それに応じた素子の特性を照らし合わせることが基本です。
高電圧・大電流が必要なアプリケーションでは、IGBTの耐圧性能と低導通損失が有利に働きますが、スイッチング損失や発熱への対応が重要となるでしょう。一方、応答速度やスイッチング効率を重視する場合、MOSFETが優れた選択肢です。
また、回路のサイズや放熱設計、コスト、駆動回路の構成なども総合的に検討すべきポイントといえます。近年では、シリコンカーバイド(SiC)やガリウムナイトライド(GaN)など、次世代素子との比較も注目されるようになってきました。
IGBTとMOSFETはいずれも電力制御に欠かせないパワー半導体ですが、その構造や特性、適した用途には明確な違いがあります。
高電圧かつ高電力を必要とする場面ではIGBT、低電圧・高速応答が求められる場面ではMOSFETが、それぞれ最適な選択肢とされています。
両者の特性を正しく理解し、使用環境や回路要件に応じて適切に選定することが、システム全体の性能や信頼性の向上につながります。
今後は、より高性能な次世代デバイスとの競合も含め、目的に応じた最適な素子の選択が一層重要になるでしょう。