自動車や電車を動かすために、冷房や調理に、スマートフォンを動かすためにも欠かせないのがエネルギーです。 そんな現代社会を支えるエネルギーのしくみが今変わりつつあり、それに伴って新たな計測ニーズが生まれています。 そこで本記事では「エネルギーのしくみ」と、「変革のキーワード」を踏まえて、それに伴って活躍するさまざまな計測器をご紹介します。
現代の社会生活は、自動車を動かすガソリンや軽油/調理給湯用のガス/暖房用の灯油など、多様なエネルギーに支えられています。 中でも近年重要性が増しているのが電力で、オール電化住宅や電気自動車などの新たな用途へと広がりを見せています。 その電力を中心としたエネルギー政策で現在注目を集めているのがCEMS(セムズ、Community Energy Management System)というコンセプトです。 これはエネルギーと情報通信の技術革新を活かして、「地域(Community)」単位でエネルギー源から消費までの流れを最適化しようという構想です。 CEMS構想の中にもさまざまな新しい技術要素があり、計測ニーズが生まれていますが、それらを断片的に調べてみてもCEMSの全体像はなかなか分かりません。 そこで、まずは電力を中心にエネルギーのしくみとその変革キーワードをまとめると図1のようになります。
図1:エネルギーのしくみと関連するキーワード
「エネルギー源」とは石炭・天然ガス・原子力・水力など、電力を生み出す大本の資源のことで、「変換」とはそれを電力に変える発電所の機能のことを言います。 発電所で生み出された電力は送配電網を通って「分配」され、家庭やオフィス、工場、施設などで「消費」されます。 電力は溜めておくのが難しいため「蓄積」はあまり行われませんが、場合によってはこの目的のために蓄電池や揚水発電所が使われることもあります。
このようなエネルギーの流れの各部で、技術革新や資源価格の変動などを背景にさまざまな変革の動きがあります。 例えば「ナチュラル化」はエネルギー源として太陽光や風力、小水力などの自然の力を利用しようとするものです。 太陽光にせよ風力にせよ自然エネルギーは広い地域に薄く散らばっているため、それを電力に変換する設備、つまり発電所も「分散化」せざるを得ません。
「コジェネ」とはコジェネレーションの略で、熱と電力を同時に供給する「熱電併給」という仕組みを意味します。 火力発電ではおおむね総エネルギーの6割は廃熱として捨てられていますが、その熱を給湯や暖房の熱源として使うことができればエネルギー効率が良くなります。 そこで熱需要のある場所に発電設備を設置して、廃熱も有効利用しようというのがコジェネ化です。
「逆潮流」は主に家庭への太陽光発電の普及によって起きつつある変革で、通常は商用電力系統から家庭に向かって電力が供給されるのに対して、 家庭のソーラーパネルが需要以上に発電しているときは家庭から商用系統へと逆方向に電力が流れる現象です。 家庭にとっては「売電」になるため収入が得られますが、逆潮流が大きすぎると電力系統の安定性を損なうため適切に管理されなければなりません。 ナチュラル化・分散化によって発生する問題の一つといえます。
「高機能化」は電力メーターや電力消費機器に通信機能を持たせて電力消費状況や周辺環境をリアルタイムで高精度にモニタリングできるようにすること、 さらに必要に応じて遠隔から機器制御を行い、電力消費抑制を可能にすることです。情報通信技術(ICT)の発達がこれを可能にしつつあります。
このようにエネルギーの流れの各段階でさまざまな変革が起きつつありますが、 それをバラバラにではなく地域単位で連携させることでより大きな効率化を目指すのがCEMSです。 例えば千葉県柏市の柏の葉スマートシティでは、商業施設、オフィスビル、ホテルなど複数の施設に設置した蓄電池と太陽光発電、ガス発電機を連携させて、 街全体での電力ピークカットや電気料金削減、CO2排出量削減、災害時の非常電源確保などをスマートコミュニティ実現しています。 出典: 「スマートコミュニティ事例集」(METI/経済産業省)
エネルギー利用の最適化を目指すCEMS構想の背後ではどのような計測器が働いているのでしょうか?
「分散化」すると小さな発電設備を多数使用することになるため、点検すべきポイントが増えることになります。 太陽光発電ではこれが顕著で、一般家庭でも20枚前後、メガソーラーでは万枚単位のソーラーパネルを使うため、全てのパネルを個別に点検しようとすると大きな労力がかかってしまいます。 そこで、パネルを複数つないだストリングやアレイという単位で一括して試験を行うソーラーアレイテスターという計測器が開発されています。 また、パワーコンディショナーから最終的に出力される電力の計測には電力計を使用します。
屋外に剥き出しで設置せざるを得ない太陽光パネルは、飛来物、強風、浸水、地滑り、植物繁茂、野生動物や侵入者による破壊などのさまざまな原因で損傷を受けます。 それらの損傷は外観で発見できる場合が多いのですが、人間が直接見て回るのは容易ではありません。そこでドローンを飛ばして上空からカメラで外観検査を行う方法があります。
自然エネルギーによる発電設備の性能を測るためには、エネルギー源である自然環境も同時に計測しておかなければなりません。 具体的には風力発電については風速を、太陽光発電については太陽光がパネルを照らす照度を測る必要があります。 また、気温が上がると太陽電池の発電効率が落ちますし、高温多湿環境ではパワーコンディショナーの寿命が縮むため温度湿度も重要です。 これらの数値はいずれも継続的に記録する必要があるため、ロガー機能を持つ計測器を使用するか、またはデータロガーと併用します。
蓄電池の技術革新も近年急速に進んでおり、これまでは難しかった大規模な蓄電システムの導入例が増え、それに伴って蓄電池の性能計測ニーズも増えています。 例えば蓄電池が設計上の電気出力を出せることを確認するためには実際に負荷をつないで出力させる必要があり、このために任意の電気負荷を設定できる電子負荷装置を使います。 また、蓄電池の内部抵抗を計測して劣化を判定するために、バッテリハイテスタや抵抗計を使用します。
電力消費量の抑制やピークカットをするために欠かせないのが電力の「見える化」です。 いつどこでどれだけの電力を使っているのかを把握すれば、冷暖房効率の悪い場所を特定して省エネ対策をしたり、ピークに向けて一時的な使用抑制をかけたりするなどの手を打てます。 そこで必要なのが電力計です。電力計の中には被覆電線の上から挟むだけで使えるものがあり、通電している金属端子へ接触する必要がないため、安全に短時間で任意のポイントを計測可能です。
コミュニティ・エネルギー管理システム、CEMSの発展に伴い、計測器の活躍の場もますます増えていくことでしょう。