
環境への影響に目を向けることは、企業の成長性やブランドを維持する上で重要な取り組みです。VOCは排出の抑制やそのための技術が進歩している分野で、多くの企業が関心を寄せています。
本記事ではVOCとは何かについて解説しながら、その悪影響や排出抑制に向けて企業に課せられた義務、そして対策のための技術をご紹介します。
VOCとは「Volatile Organic Compounds」の略称で、日本語では「揮発性有機化合物」と呼ばれます。常温・常圧で蒸発しやすく、大気中で気体となる有機化合物の総称です。
主なVOCとしては、トルエンやキシレン、ベンゼンなど多くの化学物質が挙げられます。
VOCは塗料、接着剤、洗浄剤、印刷インキなどの製造・使用過程で発生し、産業活動だけでなく日常生活においても広く存在しているのが特徴です。
種類は数百におよび、それぞれ性質や発生源が異なるため、VOC全体を理解するには、成分ごとの特徴を把握することが重要です。
VOCは、非常に身近な物質である一方、環境と人体の両方に深刻な影響をおよぼすことが知られています。大気中に放出されたVOCは、太陽光と反応して光化学オキシダントを生成し、いわゆる「光化学スモッグ」の原因となります。
光化学スモッグは、都市部では視界不良や空気質の悪化を引き起こすだけでなく、気候変動への影響も指摘されている公害です。
また、VOCの一部は有害性が高く、長期的に人体が晒されることによって、呼吸器疾患や皮膚炎、中枢神経への影響、さらには発がんリスクの悪化も懸念されます。そのため、企業にはVOC排出に関して厳格な対応が求められています。
日本国内では、2006年に環境基本法に基づく大気汚染防止法の改正を受け、VOC排出の規制が本格的に開始されました。
この制度では、特定の業種・設備に対して排出基準(濃度規制)が設けられ、事業者には施設の届出義務や排出濃度の測定・記録保存義務が課されています。また、都道府県による立入検査や報告徴収が可能となっており、光化学オキシダント注意報などの発令時には排出抑制への協力が求められることもあります。
中でも塗装業、印刷業、化学製品製造業は、施設の規模や排出量に応じて、定期的な測定や報告が必要です。
結果的に、法改正以前よりもVOC排出は抑えられることとなりましたが、排出が完全にゼロになったわけではありません。企業は法令遵守だけでなく、自主的な排出管理を高いレベルで実行することが求められている時代といえるでしょう。

VOC(揮発性有機化合物)の測定には、目的や測定対象に応じて、ガスクロマトグラフ法(GC法)や光学式測定法などの技術が使われます。これらの技術は、以下のように使い分けられることが一般的です。
高精度な成分分析が可能で、排出口の濃度や総排出量の測定に広く用いられています。 また、大気中のVOC測定にも使用されることがあり、特に微量成分の分析に適しています。
リアルタイムで濃度を把握できるため、大気中のVOC濃度のモニタリングに適しています。 一方で、排出口での使用例もあり、濃度が高い場合や連続測定が求められる場面で活用されます。
このように、測定技術は「排出口か大気中か」「濃度把握か成分分析か」といった測定目的や条件に応じて柔軟に選定されます。 また、測定の精度を保つためには、サンプリング条件や測定機器の較正なども厳格に管理しなければなりません。各種法規では測定の基準値や頻度、報告様式が定められており、これに沿った対応を行うことが求められます。
測定結果は、行政への報告はもちろんのこと、自社の環境負荷評価や改善活動の指標としても活用することが可能です。
積極的なデータ活用体制が各社で進んでいるため、VOC排出についても活用の余地はあるといえるでしょう。
VOC排出を抑えるためには、発生源の特定と管理が欠かせません。その上で製造工程の見直しや原材料の変更といった代替技術を導入することにより、根本的な発生量を削減することができます。
さらに、活性炭吸着装置、燃焼処理装置、冷却凝縮装置などの回収・処理設備を用いることで、排出量を抑制することも可能です。
近年では、より低公害な水性塗料の利用や、封じ込め型の設備設計も普及しつつあり、工程改善と設備導入を組み合わせた包括的な対策が求められています。
VOCの管理は、単なる法令対応にとどまらず、企業の環境責任と社会的信頼を左右する重要な要素です。
発生源の把握から測定・報告・抑制技術の導入まで、各プロセスを着実に実行することで、大気環境の保全と従業員の健康保護、さらには企業の持続可能性の強化にもつながるでしょう。
今後は、法規制の強化や環境意識の高まりを見据えて行動しなければなりません。VOC対策を単なるコストと捉えるのではなく、企業価値向上の一環として積極的に取り組む姿勢が求められます。