オシロスコープと測定対象の間をつなぐプローブは、正確な信号伝送と安全な測定を実現するために欠かせない重要なツールです。プローブの選び方で測定結果の精度が大きく変わり、場合によっては機器の破損や感電といったリスクを招くこともあります。本記事では、プローブの基本的な役割や代表的なプローブの特徴、測定対象に応じた選び方のポイントを解説します。
プローブの主な役割は、測定対象の動作を妨げずに信号を取り出すことです。ただし、プローブが回路に接続されると、少なからず負荷がかかってしまいます。そのため、入力インピーダンスが高く、かつ入力容量が小さいプローブほど、回路への影響が少なく正確な測定が可能になります。
プローブには多くの種類があり、用途や測定対象に応じて使い分けます。最も基本的なプローブは電圧プローブで、これはパッシブ型とアクティブ型に大別されます。高電圧の信号を扱う場合には絶縁性に優れた高電圧プローブを使い、フローティング回路と呼ばれるグラウンドのない回路の測定では差動プローブを使います。また、電流を測定するための電流プローブや、デジタル回路を測定するロジックプローブもあります。
これらのプローブは、それぞれ異なる特性や構造を持つため、使用するには原理と適用範囲を理解し、測定対象に最適なものを選定する必要があります。
プローブには電圧、電流、差動、高電圧、ロジックといった種類があり、それぞれ測定対象の物理的特性や環境条件に応じて使い分けます。用途を誤ると、正確な測定はできません。
電圧プローブは最も汎用的なプローブで、抵抗やコンデンサのみで構成されるパッシブプローブと、FETなどの能動素子を内蔵するアクティブプローブがあります。パッシブプローブは価格が比較的安く、一般的な信号の観測に用いられます。多くの場合、オシロスコープの本体に標準で付属しています。
一方、アクティブプローブは、広帯域と低入力容量という特徴を持ち、高速デジタル信号や高インピーダンス回路の測定に適しています。数GHzに達する帯域を持つ製品もあり、微弱な信号の正確な観測を求められる場面で使用します。
差動プローブは、回路の2点間に存在する電位差を測定するためのプローブで、特にグラウンド基準のない環境で有効です。このプローブは、共通のノイズ成分を除去する能力(CMRR)に優れており、スイッチング電源やインバータ回路、ゲートドライブ信号などの観測に適しています。
差動プローブには、高電圧に対応したモデルと、低電圧ながら広い帯域幅を持つモデルがあります。前者はパワーデバイスの評価に、後者はUSBやPCI Expressなどの高速通信の波形観測に使います。
高電圧プローブは、商用電源やパワーエレクトロニクス回路といった高電圧を扱う場面で用います。1000:1のような大きな減衰比を持ち、絶縁性能にも優れており、高電圧でも安全かつ正確に測定できるよう設計されています。
入力できる最大電圧と周波数帯域はトレードオフの関係にあるため、使用する前には仕様をよく確認する必要があります。なお、接地されていない高電位差の測定には、高電圧対応の差動プローブを使用します。
電流プローブは、導体を流れる電流が作り出す磁界を検出し、それを電圧信号として変換する仕組みを持ちます。代表的な方式としては、交流専用のカレントトランス方式と、直流と交流の両方に対応するホール素子方式があります。ホール素子方式の電流プローブは、直流を含む複雑な電流波形の測定に対応しており、より高い精度を得ることが可能です。ただし、電源供給が必要になる場合もあります。
ロジックプローブは、複数のデジタル信号線を同時に観測、解析するためのプローブです。I2CやSPIといったシリアル通信バス、あるいはパラレル信号の確認に適しており、組み込みシステムや制御回路の開発において広く利用されています。チャンネル数は8〜32程度が主流で、それぞれの信号線ごとにしきい値電圧を個別に設定することも可能です。複数の信号が動作する通信パスの検証など、信号タイミングの計測で役立ちます。
プローブを正しく選定するには、測定対象となる信号の種類や特性、さらには使用環境に至るまでを考慮する必要があります。帯域や減衰比などの仕様も重要な判断材料です。
プローブを選定する際には、まず測定対象となる信号の性質を明確にすることが必要です。その信号が電圧か電流か、あるいはデジタル信号かによって使用するプローブの種類が変わります。また、測定信号がグラウンド基準か差動か、あるいは周波数帯域や振幅、回路のインピーダンスといった要素も重要です。
例えば、数百MHz以上の高速信号にはアクティブプローブが適しており、高電圧でかつ接地されていない回路には高電圧差動プローブが必要になります。微小な電流を扱う場合には高感度の電流プローブを選ぶべきです。
測定現場の環境や測定器との組み合わせによっても、最適なプローブは変わります。測定対象の信号に対して、十分な帯域を持つプローブを選ぶことが重要で、一般的には測定対象の周波数の3倍以上の帯域幅が推奨されます。減衰比も使用目的によって選び分ける必要があります。微小信号の測定には1:1、一般用途には10:1、高電圧測定には1000:1といった設定が一般的です。
また、回路への影響を左右する要素として入力インピーダンスや容量があります。高電圧を扱う回路に使うプローブなら、その電圧がプローブの最大入力電圧以下であることの確認も必要です。使用環境によっては、耐ノイズ性や絶縁性といった安全面での性能も考慮する必要があります。
用途や測定対象に合わないプローブを使用してしまうと、正確な測定ができないばかりか、機器や測定者の安全にも関わる問題が生じる可能性があります。各種プローブの特性を理解し、測定目的に合った最適なプローブを選定することで、再現性と信頼性の高い測定が実現できます。また、静電気対策や正しいグラウンドの取り方、定期的な校正といった「プロービング技術」も重要となるので、測定を通して学んでおきましょう。