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インバーターの発熱問題と熱管理

レンテックインサイト編集部

測定器 Insight インバーターの発熱問題と熱管理

インバーターは、電気自動車(EV)や産業機械、太陽光発電システムなど、さまざまなシーンで活用されています。インバーターの高出力・高密度化が進む中で、熱管理の難易度が上昇しています。特に、車載用途では小型化が求められるだけでなく空間的な制約があるため、冷却システムや排熱処理などが複雑化します。想定外の温度上昇はインバーターや周辺部品の性能や寿命の劣化に直結するため、熱設計は製品品質の中核技術の一つとなります。本記事では、インバーターの発熱問題と熱管理について解説します。

インバーターの発熱源

インバーターの主な発熱源は、スイッチのオンオフの際に発生するスイッチング損失やオン状態の抵抗損失(導通損失)です。ただし、インバーターを構成するパワー半導体の種類によって状況は異なります。IGBTはキャリア注入を抑えることで導通損失を低減していますが、その結果としてコレクタ-エミッタ間の飽和電圧が高くなり、スイッチオフ時の損失(ターンオフ損失)が大きくなる傾向があります。これに対して、MOSFETはキャリア蓄積がないためスイッチング損失が小さい反面、高耐圧になるほど導通損失が大きくなる傾向にあります。

また、インバーター回路の安定化に不可欠な「DCリンクコンデンサー」や電圧を印加する「ゲートドライブ」も条件次第では無視できない発熱源となります。さらに、ケーブルの抵抗によって発生する「配線損失」も発熱の原因となります。このほか、回路外で発生する「寄生インダクタンス」はスイッチング時のオーバーシュートを引き起こし、発熱の一因となります。

インバーターの発熱が与える悪影響

インバーターを構成する電子部品や実装材料には固有の熱耐性があり、それを超えると劣化や破壊、故障が発生します。例えば、IGBTチップの劣化やドレイン-ソース間のはんだ接合部の疲労破壊などが考えられます。また、封止材のような絶縁体が劣化することで、リーク電流の発生や故障の長期的リスクが生じます。さらに、出力制限やシャットダウンによるシステム停止など、信頼性の低下にもつながります。このほか、突発的に急上昇する「サージ電圧」は誤作動の原因となります。

インバーターの冷却アプローチ

発熱や冷却はいずれも、熱の移動として集約される物理現象です。そのため、インバーターの発熱対策には、熱の移動経路を可視化し冷却対策を講じなければなりません。大原則として、熱の移動は次の3原則に基づきます。

熱移動の3原則

熱移動の3原則とは、液体や気体等の流体の移動により熱が移動する「熱対流」、固体内で高温から低温へと熱が移動する「熱伝導」、表面から赤外線エネルギーとして放射される「熱放射」の三つの原則です。発熱対策は、いずれかの原則、あるいは複数の原則の組み合わせに基づいて行われます。

インバーターの発熱対策の手段

インバーターの主な発熱対策として、放熱性の強化と耐熱性の強化の2種類があります。

放熱性の強化には、「自然空冷」やファンを活用した「強制空冷」、水などの液体で熱を冷ます「液冷」、熱伝導率の高い部材で熱を移動させる「ヒートシンク」の設計や、パイプを通じて作動流体とともに熱を外部に逃がす「ヒートパイプ」の設計などが挙げられます。

一方耐熱性の強化では、既存のシリコン(Si)製のインバーターから、耐熱性の高い「ワイドバンドギャップ半導体」を活用したインバーターに変更したり、高耐熱性の封止材を使用したりすることなどが考えられます。

インバーターの発熱問題と熱管理 挿絵

インバーター熱設計

熱設計の手順については、電子情報技術産業協会(JEITA)が標準化を推進しており、回路設計から基板レイアウト、筐体設計まで、設計全体の検討が必要とされています。

まず初期段階では、熱の移動経路を電気回路のように表現した「熱抵抗モデル」を活用し、熱の伝わりにくさを「熱抵抗」として数値化します。各構成要素の熱抵抗を小さくすることが、熱設計の第一歩となります。モデル段階での発熱対策が完了すると、実装レベルへと移行します。近年は、CFD(Computational Fluid Dynamic)ツールにより、インバーター内の熱の挙動をシミュレーションすることが可能です。また、CAE(Computer Aided Engineering)ツールを活用することで、熱解析や構造解析、振動解析などを実行し、統合的な評価が可能となります。

熱管理が付加価値につながる

熱管理は、インバーターの信頼性を高めるために欠かせない要素であり、電力管理やノイズ管理と同様に非常に重要視されています。車載用途のように、小型化だけでなく独自の実装を要する場合には、熱管理がいっそう複雑化します。しかしながら、耐熱性や放熱経路を最適化することで、インバーターを搭載した製品の信頼性向上に貢献します。また、周辺部品の選択肢の幅が広がることで、製品差別化につながります。

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