測定器 Insight

GENNECT Remote ~ 遠隔からの計測データ収集を可能にするソリューションとは?

レンテックインサイト編集部

測定器 Insight GENNECT Remote ~ 遠隔からの計測データ収集を可能にするソリューションとは?

日置電機株式会社 技術部 技術9課(左から)宮田係長、今泉係長、降旗課長

 近年、遠隔計測のニーズが増えています。遠い場所や人間が立ち入りにくい危険な場所の計測器からクラウドサーバへデータを集めて加工や解析を行う遠隔計測機能は、 インフラの現場を支える人々の働き方改革にも大きく貢献できます。 そこで、今回は計測器メーカー日置電機株式会社が手がける遠隔計測サービス、GENNECT Remote(ジェネクト・リモート)について取材しました。

現場の状態を遠隔からリアルタイムに把握したい

--御社の遠隔計測サービスは文字通り遠隔地から計測データを把握するために利用できるとのことですが、このようなサービスはどのような現場で求められているのでしょうか?

・降旗氏
「多いのは電力、交通、ガスなどのインフラ系の現場です。 例えば近年急増した太陽光発電所で、一部のパネルやパワーコンディショナに異常が起きたとき、それをすぐに察知できれば大事に至る前にメンテナンスできますが、 気づかず放置していると発電量や電源品質の低下や、発火・感電のような事故も起こりかねません。 しかし太陽光発電所はメガソーラーと呼ばれるものでもほとんどの場合無人ですし、交通の便の悪い場所にあることが多いので毎日の点検はできません。 そこで、機器類の稼働状態を遠隔で把握したいというニーズがあります。 他には高温での熱処理工程があるプラントやトンネル内など、人間が行くには危険な場所の計測データを常時把握するために導入される場合も多いですね」

--遠隔計測のニーズは以前から存在したのでしょうか?

・降旗氏
「ニーズ自体は何十年も前からありましたが、いくつかの理由で近年その声がより切実なものになりつつあります。 その理由は、第1に設備の老朽化が進んで故障が多発していること、第2に昔は有人だった設備が無人化されるケースが増えたこと、 第3に求人難や働き方改革にともなって労働生産性を上げなければいけないことです。データを回収するためだけに人を現地に派遣するような働き方はもうできないのです」

--遠隔計測が生産性向上の武器になる事例をいくつか教えてください

・宮田氏
「例えば工場やオフィスの省エネコンサルティングを行う会社の場合、予備調査で見当をつけてから工場/オフィス内各部に気温や電力の計測器を取り付け、 一定期間の計測データを回収して解析を行い、報告書を作成するという流れになります。 遠隔計測ができると、今までは必要だったデータ回収のための訪問を省略でき、出張の人件経費削減につながります。 さらに解析を始めるタイミングも早くなりますので、省エネの提案内容自体に注力でき、お客様への報告・提案も早めることができます。GENNECT Remoteでこのような効果が得られます」。

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遠隔計測サービス GENNECT Remoteによる時間短縮効果イメージ

遠隔計測の実現を阻んでいたハードルとは?

--以前からニーズがあった遠隔計測が今急速に広まりつつある理由は何でしょうか?

・降旗氏
「遠隔計測のニーズはあったものの、それを実現するにはいくつかの高いハードルがありました。 具体的には、コスト、ノウハウ、セキュリティの3点です。近年それが解消されたというのが広まりつつある大きな理由です。
コストの要素としては計測器をネットワークにつなぐためのゲートウェイ、通信回線、データを集めるクラウドサービスなどがありますが、 近年いずれも大きく価格が下がっただけでなく、IoT用途向けの製品が登場しています。とはいえ、それらが個別にパーツとして出てきただけでは使いやすいとはいえません。 多様な製品群の中から最適なものを選択して購買手続きを取って自力で接続・設定するためには専門的なノウハウが必要で、現場のメンテナンスを担う多くの会社にとっては慣れない仕事になります。そこで、日置電機でそれらをまとめて提供する遠隔計測サービス GENNECT Remote(ジェネクト・リモート)を始めました。これはゲートウェイ、通信回線、クラウドなどの必要な機材とサービスを一括で提供するもので、IoTのノウハウがなくても5分で遠隔計測を始められる、敷居の低いサービスとなっています」。

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遠隔計測に必要な全ての要素をHIOKIがまとめて提供。

--セキュリティについてはいかがでしょうか?

・宮田氏
「世界中どこからでもつながるのがインターネットのメリットですが、セキュリティ面ではそれが逆に弱点になります。 かといって、遠隔計測の拠点ごとにVPNを構築するのも現実的ではありません。 VPNは基本的に『社内LANを遠隔へと延長する』仕組みですが、実はこの種のサービスは既存の社内LANに接続しないほうが導入しやすいのです。
そこで、GENNECT Remoteではインターネットとも社内LANとも切り離して使える遠隔計測の仕組みを設計しました。 まず、測定現場のゲートウェイから携帯電話会社までは閉域携帯電話網を使用するためインターネット側からゲートウェイへはアクセスできません。 そして、携帯電話会社からクラウドサーバまではMQTTSおよびHTTPS、サーバーからオフィスや外出先のクライアントまではHTTPSと、 インターネット上では全区間で暗号化通信を行うことでセキュリティを確保しています。 社内からはブラウザでWebサイトを参照・操作するだけですので、セキュリティポリシーの変更も必要ありません」。

遠隔計測ソリューション GENNECT Remoteとは?

--GENNECT Remoteの導入手順について教えてください

・今泉氏
「電力、ガスなどのインフラに限らず、現場で計測に関わる人々はITには不慣れなことが多いので、そんな方々でも『5分で導入できる』ように設計しました。 機器構成イメージは図の通りで、新たに必要な機材はゲートウェイだけです。 導入手順1のIPアドレス設定は測定器がDHCP対応モデルであれば不要です。 手順2でゲートウェイにアンテナと電源を接続し、手順3でLANケーブルを接続するだけで現場での導入作業は終わりです。 計測器を複数接続する場合はHUBを使用します。対応している測定器であればBluetoothでの接続も可能です」。

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図:GENNECT Remote接続イメージ

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図:接続イメージ

手前の黒い筐体がゲートウェイ。計測器(後方)が一台ならばLANケーブル(青色)で直結するだけでよい。

--GENNECT Remoteの機能概要を教えてください

・今泉氏
「おおまかに遠隔モニター、ロギング、可視化、遠隔監視、遠隔ファイル取得、遠隔操作の6つの機能があります。 遠隔モニターは遠隔にある計測器の計測値を表示する機能で、1分ごとに更新されます。 その計測値をクラウドサーバに保存しておくのがロギング機能です。保存したデータはファイルに出力できます。 さらに、ロギングした複数の計測器のデータをリスト表示したりグラフ表示したりするなどの可視化機能があります。 ここまでは『人間がデータを見る、解析する』ための機能ですが、人間が24時間見張り続けるのは難しいので、遠隔監視機能があり、 測定器やクラウドサーバに監視条件を設定して、異常値が発生したときにはメールで通知することができます。
異常値が発生したときは一分ごとの平均値ではなく瞬間的な変動を確認したい場合があり、そのような細かなデータは測定器本体にファイルとして保存されています。 遠隔ファイル取得はそのファイルを取得する機能です。
最後に、遠隔操作機能では遠隔から測定器の設定を変更できるようになっています」。

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図:GENNECT Remote 機能概要。

日置電機が遠隔計測を手がける意味とは?

--クラウドベンダーやIoTベンダーではなく、計測器メーカーの日置電機様が遠隔計測サービスを手掛けるのはなぜなのでしょうか?

・降旗氏
「一言で言うなら、『計測』から始まるプロセス全体をワンストップでサポートするのが日置電機の使命だからです。 当社は1935年の創業以来、計測分野一筋に事業を行っています。 計測というのはインフラを中心に多くの産業を支える裏方の現場で欠かせない業務です。 そうした現場を支えてくださる人々を楽にして、人間でなければできない仕事に集中できるように使いやすい計測器やソフトウェアサービスを提供することが、われわれのミッションです。 そのために当社は製品やオプション類を豊富に取り揃えており、お客様のさまざまなニーズに対応できる多様性を備えています。 これは、現場に密着して細かな計測ニーズを熟知している日置電機だからこそできることです。 遠隔計測のプラットフォームにどのような機能があれば現場の人々に役に立つのか、それを見極めてインテグレーションできるのは当社だけだと自負しております」。

--GENNECTシリーズの今後の構想について教えてください

・降旗氏
「GENNECTというのは現場(GENBA)とつながる(CONNECT)を合わせた造語で、さまざまな『つながる』機能で現場を楽にしようというコンセプトを表しています。 GENNECT Remoteはそのうちの自動データ収集、遠隔計測を担うサービスで、対応する計測器を増やしていく予定です。 一方、現場で人が行うデータ取得やレポーティングを担うのがスマートフォンアプリとして提供しているGENNECT Crossです。 こちらも順次機能を強化していく計画です。 現場で保守メンテナンスのために行っている作業を分解して、遠隔監視化できるものはGENNECT Remoteで無人化し、 人手が必要な作業も極力GENNECT Crossでサポートし、人間は本当に人が必要な作業に集中できるようにするのがGENNECTシリーズのミッションです」。

--本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。

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