日本の再生可能エネルギーの電源構成比が2022年度には21.7%となり、10年間で約10%増加しました。シェアが上昇傾向にある一方、電力系統の安定性が新たな課題となっています。再生可能エネルギーに起因する電力系統の不安定化により、大規模停電やブラックアウトのリスクが高くなります。こうした課題を解決する方策として注目されているのが、「グリッドフォーミングインバーター」です。本記事では、グリッドフォーミングインバーターについて解説します。
再生可能エネルギーの電源構成比が増加すると、同期発電機を活用する既存の発電システムだけでは電源系統の安定化を支えられなくなります。
火力・水力・原子力発電といった既存の発電システムは同期発電に分類され、同期発電機を回転させることで安定した交流電力を発電しています。西日本では60Hz、東日本では50Hzの周波数を基準に、同期発電機を一定の角速度で回転させています。同期発電機の回転エネルギーは回転を維持しようとする「慣性」や、基準となる周波数に同調しようとする「同期化力」を持っており、周波数が急激に変化しようとしても、基準となる周波数に合わせるような力が働きます。
これに対して、太陽光・風力発電などは非同期発電に分類されています。太陽光パネルで発電した直流電流はインバーター経由で交流電流に、風車で発電した交流電流は、一旦コンバーターで直流電流に変換したのち、インバーターで交流電流へと変換されます。しかし、非同期発電で活用される既存の「グリッドフォローイングインバーター」では、フェーズ・ロック・ループ(PLL)回路で電力系統の電圧や位相に追従して電流を供給するだけで、慣性や同期化力は生み出されません。そのため、非同期発電の導入が進むと、相対的に電源系統に接続される同期発電機の割合が減少し、結果として系統全体の慣性が低下します。
非同期発電による周波数変動の問題を解決するのが、グリッドフォーミングインバーターです。以下では、グリッドフォーミングインバーターの仕組みとメリットについて解説します。
グリッドフォーミングインバーターは、出力すべき仮想的な慣性や同期化力を再現する制御システムを組み込んでいます。まず、電力系統から電圧や位相などの情報を取得し、組み込まれた制御システムから稼働中に消費される「有効電力」や、送電・電圧調整に使われる「無効電力」といった、インバーターが出力すべき電力を計算します。こうした情報からインバーターの慣性や同期化力を制御することで、電力系統の周波数に変動を与えることなく電源系統全体の安定性に貢献します。
グリッドフォーミングインバーターは、停電時など電力系統と遮断されている場合でも、自律起動が可能です。つまり、電力系統の周波数や電圧などの情報をあらかじめ初期値として保持し、これらのデータを活用することで、自律的に仮想的な慣性や同期化力を停電時でも再現できます。
グリッドフォーミングインバーターは、懸案だった系統安定化に関する課題を克服できるため、再生可能エネルギー導入にとって追い風となります。また、電力系統のトレンドとして、分散型電源やマイクログリッドなど、小規模な電力系統を設置する傾向にあります。グリッドフォーミングインバーターは、こうした分散型電源やマイクログリッドとの親和性が高く、発電所が停止する「ブラックアウト」が発生しても、独自に電圧源を生成できるなど、自律起動が可能です。
グリッドフォーミングインバーターの課題として、仮想的な同期化力や慣性を独自に生み出すインバーターがいくつも混在すると、同期化力の安定性が損なわれることが指摘されています。このため、インバーターの出力電源の大きさや位相がグリッド側と同期されていることを随時確認する必要があり、結果として制御システムが複雑化してしまいます。
また、ブラックアウトが発生したとき、従来型のグリッドフォローイングインバーターを停止するというグリッドコードが定められています。グリッドコードとは個別の電源を電源系統に接続させるためのルールのことであり、グリッドフォーミングインバーターの運用は現行のグリッドコードでは定められていません。そのため、グリッドフォーミングインバーターが緊急時でも稼働できるよう、グリッドコードの整備が必要となります。
さらに、フィードバック制御を持つなど複雑な制御体系であるグリッドフォーミングインバーターはコストが高くなるという課題も現時点では解消していません。
国内では、再生可能エネルギーのシェアが大きくなってきています。再生可能エネルギーは、既存の化石燃料資源を持たない我が国にとってはエネルギー自給に欠かせない発電技術です。その一方で、系統安定化という大きな課題があり、系統安定化を支えるだけの電力系統が少ないのも事実です。イギリスやオーストラリアでは、系統安定性を維持するために、系統事業者に慣性の提供を公募するなど、グリッドフォーミングインバーターが運用可能なインフラが整いつつあります。
このように、グリッドフォーミングインバーターは、再生可能エネルギーを安定的に活用する上で欠かせない技術です。今後は、電力の分散化やカーボンニュートラルを支える要として、新たな市場ニーズを生み出す可能性もあります。