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放電深度(DoD)と温度条件によるバッテリー劣化試験のポイント整理

レンテックインサイト編集部

測定器 Insight 放電深度(DoD)と温度条件によるバッテリー劣化試験のポイント整理

バッテリー駆動の車や産業用機械が普及したことにより、バッテリーの品質や性能を高い水準で保つことの重要性が高まっています。バッテリー劣化試験はそのような水準を高くキープする上で重要な取り組みで、放電深度や温度条件は重要なファクターの一種です。

この記事では、バッテリー劣化試験の目的や背景、具体的な試験手法やその基準を解説します。

バッテリー劣化試験の目的と背景

バッテリー劣化試験は、そもそもどのような目的で行われているのでしょうか。主な背景を、以下に整理しています。

産業用蓄電池に求められる信頼性の高まり

産業用蓄電池に高い信頼性が求められるようになったことは背景の一つです。

再生可能エネルギーの導入拡大や工場のUPSニーズの増加に伴い、停電や過負荷時にも安定した電力供給が求められつつあります。

突発停止や性能低下が発生すると、製造ライン全体のダウンタイムが長期化し、多大な損失につながることもあることから、信頼性を担保するための劣化試験が不可欠です。

放電深度とサイクル数への注目

放電深度(DoD)は電池寿命を左右する重要指標で、浅い放電運用ではサイクル寿命が1.5倍以上延びるというデータもあります。

最適なDoD管理とサイクル数制御によって、運用コストやメンテナンス頻度を大幅に抑制できれば、長期的なコスト低減も実現可能です。

放電深度・温度影響の概要

放電深度や温度条件がバッテリーに与える影響とはどのようなものなのでしょうか。バッテリー劣化との関係について、ここで整理しておきます。

放電深度とは

放電深度は、バッテリーの総容量に対する放電量の割合を示します。値が高くなるほど、バッテリーに大きなストレスを与え、サイクル寿命が短くなるリスクをもたらします。

逆に浅い放電を継続できれば、サイクル寿命を大幅に延ばせるため、交換頻度が下がり運用コストを抑制できる点が大きなメリットです。

高温・低温環境下での化学反応と内部抵抗

温度条件は劣化速度に直結し、55℃前後の高温環境では電解液分解やリチウム析出が顕著に進行して内部抵抗が上昇する特徴があります。

一方、−20℃以下の低温環境ではイオン伝導率が低下して瞬時出力が落ち、内部抵抗が一時的に高まることで容量ロスや過電圧リスクが増大します。

厳しい温度環境下でのバッテリー運用には、加熱・冷却制御を含む温度管理戦略が不可欠です。

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代表的なバッテリー劣化試験手法

バッテリーへの負荷が発生する場合に、どれくらいのパフォーマンスを発揮できるかは、適切な劣化試験を行うことによって評価できます。主に以下のような試験を進めることで、バッテリーの品質や性能を確認します。

定常サイクル試験(常温)

定常サイクル試験は25℃前後の安定した環境で実施します。充放電電流を一定に保ち、数百サイクルにわたって容量保持率と内部抵抗の推移を測定する試験です。

初期容量を基準に、200サイクル/400サイクル等の一定時点での容量変化をグラフ化し、寿命予測モデルを構築します。

セル膨張や電圧低下の兆候が見られた段階で劣化メカニズムを分析し、保証設計や運用条件の最適化に役立てる手法です。

高温サイクル試験

高温下(55℃以上)の試験では、熱ストレスによる化学分解速度やガス発生挙動を評価します。温度チャンバー内で数十サイクル以上充放電を繰り返し、セル圧力やガス組成の変化も同時にモニタリングします。

高温環境で電解液分解が進むと、内部抵抗の急激な増加や安全弁作動を誘発するため、安全機構の動作確認と材料選定の判断材料として重要です。

低温・凍結循環試験

−20℃以下の極低温環境で実施するこの試験は、寒冷地向け蓄電システムの信頼性評価に欠かせません。

充放電前後のセル電圧と内部抵抗を測定し、イオン伝導低下による出力制限や極板析出の影響を定量化します。

試験後に常温でのリカバリー特性を確認し、低温運用時の初期容量ロスと回復挙動を把握することも大切です。

劣化を可視化する計測項目と評価指標

バッテリーが劣化しているかどうかを捉える上では、以下の計測項目や評価指標が用いられます。

容量保持率と内部抵抗センシング

繰り返し充放電を行った後の実測容量を初期容量と比較する容量保持率は、バッテリー寿命を直感的に示す主要指標です。

同時に、インピーダンス測定で内部抵抗の増加をモニタリングすることで、セル内極間抵抗や接触抵抗の異常を早期に検出できます。

両者を併用することで、容量低下の進行度合いと劣化原因の切り分けが可能になり、寿命予測モデルの精度向上につながります。

インピーダンススペクトロスコピー(EIS)

EISはバッテリーに周波数可変の小振幅交流信号を印加し、インピーダンス特性を周波数依存で解析する手法です。

低周波数域では電極表面反応抵抗、高周波数域ではイオン伝導抵抗が分離できるため、劣化初期に発生する化学反応阻害や界面劣化を定量的に検出します。

サイクルあたりのエネルギー効率の推移解析

各サイクルでの充電エネルギーに対する放電エネルギーの比率を算出し、その推移をトレンド分析することで、バッテリーのエネルギー効率低下ペースを可視化できます。

効率低下が急激なサイクルを抽出することで、特定の運用条件や材料組成が劣化を加速しているかを評価します。効率推移グラフは、運用最適化や材料改良の効果検証に直結する重要な指標です。

次世代バッテリーの品質管理プロセスに注目

DXの普及に伴い、IoT対応試験装置とクラウド連携を駆使して、放電深度や温度データをリアルタイムに一元管理することで、迅速な意思決定が可能になってきました。

必要な環境が整備できたら、次に試したいのがAIの活用です。AIを活用した劣化予測モデルを構築すれば、短いサイクルで改善ポイントをフィードバックできるため、製品化スピードと品質保証の両立が実現します。

バッテリーのポテンシャルを引き出すためにも、品質管理プロセスへの理解を深めることが大切です。

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