
オシロスコープやデジタルマルチメーターなどの計測器の性能を引き出すには、対象信号だけでなく、供給される電源の品質にも注意を払わなければなりません。使用する電源にノイズが含まれていると、測定結果に誤差が生じることがあります。本記事では、計測器における電源の影響について、ノイズの視点から解説します。
計測器が扱う信号は非常に微弱なことが多く、外部からのノイズがわずかでも混入すると、誤った測定結果を導いてしまう可能性があります。商用電源には、50Hzまたは60Hzの基本波に加えて、周囲の機器から発生する高周波ノイズが重なっており、これが測定中の信号に「揺らぎ」や「ジッタ」として現れます。
例えば、電源ケーブルの近くに信号線を通すだけでも、数百ミリボルトの誘導ノイズが観測されることがあります。オシロスコープで観測している波形にリップルが乗ったり、マルチメーターの値が安定せずふらついたりする場合、電源由来のノイズが原因であることが少なくありません。
電源ノイズはゼロ点のずれや小さな信号成分の誤差としても現れるため、測定精度を悪化させます。高精度な測定のためには、電源ノイズの低減が不可欠です。
電源の種類ごとにノイズ特性は異なります。リニア電源はノイズが小さいものの発熱が大きく、スイッチング電源や商用電源ではノイズ対策が不可欠となります。
リニア電源はトランスとシリーズレギュレータで構成され、出力電圧を連続的に制御することで高い安定性を実現します。リップル電圧や高周波ノイズが極めて小さいため、微小信号を扱う測定器やアナログ回路の電源に適しています。
負荷変動にも強く、出力電圧が乱れにくいことから、高精度な測定に向いています。ただし、入力電圧と出力電圧の差を熱として放出するため、電力効率が低く、発熱が大きくなるという課題もあります。そのため、出力が比較的小さい測定に限られることが多いです。
スイッチング電源は、電力を高速でオンオフし、インダクタやコンデンサを用いて出力を整流、平滑化する仕組みです。大電力にも対応可能で発熱が少なく、近年の電子機器には広く採用されています。
しかし、内部のスイッチング回路の動作の影響で数十kHzから数MHzにわたる高周波ノイズが出力に含まれやすく、測定精度を求める場面では対策が必要です。特に、コモンモードノイズが接地経路を通じて測定系に干渉する場合は、慎重な設計が求められます。高品質なスイッチング電源であれば、内部にフィルタやシールドを備えており、ノイズの影響を大幅に軽減することが可能です。
計測器をコンセントに直接つないで使用する場合、商用電源のACラインからのノイズが計測器内部に入り込む可能性があります。商用電源には、周囲の機器から侵入するノイズや、瞬間的な電圧変動が存在することがあります。インバータ機器と同一回路上にある場合には、高調波ノイズも発生しやすくなります。
計測器のAC入力部にはノイズフィルタが備わっていることが多いものの、完全には除去しきれず、微小なノイズが内部に入り込む可能性はあります。また、別々のコンセントに接続された機器間でグラウンドの電位差があると、グラウンドループが発生し、測定信号に50/60Hzのノイズが重畳される原因にもなります。

ノイズの低減には、フィルタの導入、測定器の適切な設定、接続方法の工夫などが効果的で、これらを組み合わせることで、ノイズに強い測定系を構築できます。
電源ラインに絶縁トランスや高周波ノイズフィルタを挿入することで、コモンモードノイズを効果的に抑えられます。また、ACアダプタを使用せず、バッテリー電源に切り替えることで、電源由来のノイズを遮断する方法も有効です。高性能な計測器では、内部にノイズフィルタや金属シールドが設けられており、それだけでもノイズの侵入をかなり防ぐことができます。
マルチメーターなどの精密機器では、ノーマルモード除去比(NMRR)やコモンモード除去比(CMRR)といったノイズ除去性能が仕様に明記されています。また、マルチメーターの積分時間を長めに設定することで、ノイズの影響を平均化し、測定値の安定性を高めることが可能です。計測機器の平均化機能や帯域制限機能を活用することも、ノイズの影響を除去した計測値を得るのに役立ちます。
機器同士の接続やプローブの使い方にも注意が必要です。オシロスコープで測定する場合、GNDリードを極力短くする、または専用の低ノイズプローブを使うことで、外来ノイズの影響を抑えられます。
複数の機器を使う際は、すべてを同一のコンセントから給電することで、グラウンド間の電位差を抑えられます。計測器をフローティングにして意図しない設置経路を断つことも、ループノイズの防止に効果的です。
電源から混入するノイズは、気付かないうちに測定精度に影響をおよぼす重大な要因です。特に高精度が求められるアナログ信号や微小電圧の測定においては、電源の選定やノイズ対策が欠かせません。計測結果の正確性は、開発や評価の信頼性にも直結します。今後の測定品質向上のためにも、電源環境の見直しを検討してみてはいかがでしょうか。