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急速に拡大する中国製半導体製造装置

レンテックインサイト編集部

測定器 Insight 急速に拡大する中国製半導体製造装置

 AI市場の拡大やDX化の進展などにより、近年半導体の市場が拡大しています。その拡大にあわせて半導体の製造に用いる装置の市場も伸長しており、半導体関連の業界団体であるSEMIによると、2024年における半導体製造装置(新品)の世界総販売額は前年比10%増の1171億ドルになりました。では、半導体製造装置を最も購入している国はどこでしょうか。答えは中国で、その市場規模は495億5000万ドルに上ります。このように半導体製造装置を世界で最も購入する中国ですが、購入品の大半は中国以外の国で作られた製品で、輸入に依存する体制でした。しかし、米中貿易摩擦などを機に、中国で半導体製造装置を内製化する動きが近年急速に拡大しており、中国の半導体製造装置メーカーも力をつけています。

ノーラを筆頭に事業規模が拡大

 現在、中国における半導体製造装置メーカーとしては、ノーラ(NAURA、北方華創科技)、AMEC(中微半導体設備)、ACMリサーチ(盛微半導体)、パイオテック(拓荊科技)、HHQK(華海清科)、キングセミの6社が有力企業として挙げられます。6社の2024年売上高は合計で477億元(約9826億円)に達し、成長率は44%と高い数字を記録しました。特に最大手のノーラは他社を圧倒しており、2024年売上高は日本円で約6000億円規模に達したとみられ、このうち半導体装置は約75%を占めたもようです。同社は北京市政府系のファンド会社と共同で最大30億元(約618億円)規模の半導体装置関連ファンドも設立しており、装置に必要な部材の調達網強化に向けて、部品やソフトウエアなどのベンダー企業に出資して国産サプライチェーン網を強化しています。

 2位のAMECは2024年に日本円で約1900億円の売り上げを記録。前年比では45%増を達成し、2023年の成長率(32%増)を上回りました。ちなみに3年前との比較では売上高は約3倍の規模に達しています。米ラムリサーチの先端プロセス向けエッチング装置が中国に輸出できなくなったのをきっかけに、その代替としてAMECがエッチング装置(CCP式)の販売を大幅に拡大しており、AMECの装置販売の70~80%がエッチング装置とみられます。また、同社は2024年からLPCVD装置の販売も開始。さらに、既存製品であるMOCVD装置のほか、独DASと提携して排ガス除害装置の販売も開始しました。

 3位のACMリサーチの2024年売上高は日本円で約1200億円となり、前年から45%増加しました。主力の洗浄装置の伸長に加え、縦型炉やPECVD装置などポートフォリオが拡大。また、中国でもパネルレベルパッケージの開発企業が増えており、ACMもFOPLP用湿式エッチング装置(銅の残留除去)を開発しました。パネルサイズは510×515mmと600×600mmに対応。また、上海市臨港新区に開発センター兼新工場(建築面積13.8万㎡、工場面積4万㎡)を建設し、2024年8月から稼働を開始しています。

 4位のパイオテックは2024年に日本円で約800億円を売り上げ、2023年に続いて50%台の事業成長を達成しました。3年前との比較では、売上高は6倍弱の規模となりました。2021年から販売を始めたHDP(高密度プラズマ)-CVD装置の生産台数が2024年8月に累計70チャンバーに到達し、2024年末までに累計100チャンバーを達成したもようです。米国の規制により、国産の成膜装置の需要が高まったことが主な理由と考えられています。

 5位のHHQKの2024年における売上高は日本円で約700億円規模であり、3年前の4倍以上に増加しました。同社はCMP装置を主力とし、300mm対応装置を累計500台出荷しました。

 6位のキングセミの2024年における売上高は日本円で約350億円規模でした。成長率で見ると前年比4%増で、2022年や2023年に比べて成長率が鈍化しています。2024年は高温SPM洗浄装置(最大16チャンバー搭載)のデモ機を出荷し、中国の半導体工場の10社近くで評価を受けました。同装置は2024年前半から徐々に受注が始まっています。また、チップレット用のテンポラリーボンディング装置の受注も拡大しました。

 中国の半導体市場は、米国の対中輸出規制を受け、装置を購入できるうちに購入しようと前倒しで導入されてきました。2025年の中国の装置市場はその反動で前年割れになるものと予測されています。しかし、中国製だけに限ってみれば、2025年も国産化を背景に、成長が続く可能性が高いとみられています。

新興のシリコンキャリアに熱視線

 2025年3月26~28日に世界最大級の半導体関連展示会「SEMICON China 2025」(セミコン・チャイナ2025)が中国・上海市浦東新区の新国際博覧センターで開催されました。その中で中国の装置・パーツ・材料メーカーの出展が増え、「展示内容が格段にレベルアップしている」という感想も多く聞かれました。展示会場には、ノーラ、AMEC、ACMリサーチ、パイオテック、HHQKといった中国の大手半導体製造装置メーカーも出展し、大手企業から独立した新興装置企業や、海外帰りの技術者が創業した材料企業なども見受けられました。そしてこの展示会には新興装置メーカーのシリコンキャリア(SiCARRIER、新凱莱技術、深圳市)も初めて出展しました。

 シリコンキャリアのブースは、模型とパネル展示が主体でしたが、常に人だかりの状況で、中国の半導体製造装置メーカーで最大手のノーラ以上に見学者が押し寄せていました。シリコンキャリアの展示パネルを見ると、酸化炉(RTP装置)、EPI炉、PVD装置、CVD装置、ALD装置などの成膜装置やドライエッチング装置、光学検査装置などが紹介されており、まずはEPI炉や酸化炉など開発が比較的容易な装置から始めて、PVD、CVD、ALDといった成膜装置への展開を見据えているようです。なお、すでにデモ機を製作して半導体工場での使用評価に向けた準備をしているとされていますが、商業生産には至っていないようです。

 シリコンキャリアは深圳市龍崗区に本拠があり、そのほかにも複数の開発拠点を有しているとみられます。登録資本金は5億元(約101億円)で、深圳市深芯恒科技投資が100%出資しています。出資関係を辿ると、深圳市重大産業投資産業を経由して深圳市人民政府国有資産監督管理委員会(深圳国資委)に行き着きます。深圳国資委は、2020年に米国から制裁を受けたファーウェイがオナー(栄燿)ブランドのスマートフォン事業を売却した相手であり、これまでも深圳の複数の半導体工場プロジェクトに資金を供給してきた存在です。

 中国ではパーツ企業や材料企業も増えています。例えば、石英パーツ企業は数年前まで3社程度しかありませんでしたが、現在は「20社くらいに増えた」(中国の石英パーツ企業)とされ、フォトレジストの中国メーカーも数年前までは10社程度でしたが、現在は「約40社ある」(中国のフォトレジスト企業)という状況です。加えて、先行して取り組んでいるフォトレジストメーカー10社のうち、複数の企業がArF用レジストを開発および生産しています。

グローバルでは20兆円規模に

 グローバルで見ると、電子デバイス産業新聞が半導体製造装置に関連する主要36社の売上高を集計した結果、半導体製造装置市場(サービス含む)が2024年に初めて20兆円の大台を突破したことが分かりました。前年比では19.5%増と高い伸びを示し、グローバル半導体メーカーに加え、中国ローカル企業の旺盛な投資計画がこれを下支えしました。また、前工程に限らず先端パッケージ分野の拡大によって組立・テスト分野も高成長を遂げました。

 2024年は予想を上回る中国での半導体設備投資によって、装置メーカー各社の収益も押し上げられました。2021年からの3年間で売上規模が1.5~2倍になっているところも多く、半導体製造装置市場の拡大ぶりがうかがえました。その中でも日系の半導体製造装置各社は、市場全体を上回る成長率を見せているところが多く、東京エレクトロンは27%、アドバンテストは37%、SCREENは33%という大幅な成長を見せました。中国半導体投資のニーズを着実に取り込んだほか、一部の分野では市場シェアの上昇も寄与したとみられます。先述の3社以外ではキヤノン、ディスコ、レーザーテックなども全体を上回る伸びを見せました。

 これに対して、ASMLやアプライドマテリアルズ、ラムリサーチの成長率は若干それに劣りました。米国政府の中国に対する規制強化が一部影響しているものとみられるほか、ASMLは2023年にあったリソグラフィー装置の特需による反動減も2024年の成長鈍化に影響しました。

 また、ASMLはこれまで成長を牽引してきたEUV装置の成長がトーンダウンしていることも要因の一つに含まれます。ラムリサーチはメモリー向けで強みを発揮していることもあり、ここ数年のNAND投資の停滞が事業成長にネガティブに一部働いています。

 中国メーカーは、前述のようにノーラやAMECを筆頭に高成長を続けており、ノーラは8位(前年9位)、AMECは17位(同20位)にそれぞれ順位を上げました。ノーラはエッチングや成膜、ウエット洗浄装置など広範なポートフォリオを武器に成長を遂げているほか、AMECはエッチング装置を主体に、YMTCなど地場のメモリメーカーの投資拡大の波を捉えています。

 前工程のほか、組立・テストなどの後工程分野も高成長を遂げています。TSMCのCoWoSやDRAM各社のHBM投資が追い風となっており、日本ではキヤノンやディスコ、アドバンテスト、東京精密、芝浦メカトロニクス、TOWAなどがこの恩恵を享受しています。

 キヤノンは主力のi線露光装置が先端パッケージ向けに出荷を伸ばしているほか、ディスコも同様にグラインダーやダイサーの出荷が高水準で続いています。東京精密はHBM向けのウエハープローバー、芝浦メカトロニクスはCoWoS向けのTCB装置、TOWAはHBM向けのモールディング装置などが成長ドライバーとなっています。

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