2020年のサービス提供開始を目指し、急ピッチで準備が進められている5G(第5世代移動通信システム)。 2018年秋には株式会社NTTドコモが、ラグビーワールドカップの開催にあわせて、2019年9月からのプレサービス開始を発表しました。 今後、通信機器メーカー各社は5G対応製品の開発を急ピッチで進めていくと想定され、計測機器メーカーでも、5Gに対応する製品の強化が進められています。
5Gへの対応は日本だけではありません。2020年からのサービス提供開始を目指して、海外でも積極的な取り組みが進められています。 5Gが目指している通信性能は大きく三つあり、「高速・大容量」「低遅延」「多数の端末との接続」です。 2018年6月に策定された5Gの仕様フェーズ1では、高速・大容量について、下り最大20Gbps/上り最大10Gbpsと定義されました。 例えば、2時間の映像データ(約3.6Gバイト)をダウンロードする場合、現在の4G(第4世代移動通信システム)では30秒ほど掛かりますが、5Gならば約3秒でダウンロードできることになります。 低遅延に関しては、自動運転やロボットの遠隔制御など、ミリ秒(1/1000秒)単位での制御が必要な分野での活用が期待されています。 そして、多数の端末との接続が可能になれば、IoTで活用されるセンサーネットワーク構築などに役立つほか、災害時に都心でネットワークに接続しづらいといった環境が改善されると考えられています。
このように5Gには、4Gでは実現できない高度な性能が求められており、先に挙げたような自動運転の開発やスマート工場、
IoT分野など、これまでの産業領域を超えた複合的な無線通信サービスの提供が期待されているのです。
その一方、4Gから5Gのように基盤技術が大きな変化を遂げる際には従来の手法が通用しなくなる場合もあります。
5Gで新たに提供されるサービスやアプリケーションには、4Gまでの移動体通信では使用されていなかった周波数帯の使用など、いくつかの新技術が投入されるためです。
通信事業者や通信機器メーカーは、このような新技術に対応した製品の開発に取り組んでおり、そうした動きに連動するかたちで、
計測機器メーカーにも新製品の正確な評価や計測という役割を果たすための、新たな計測技術・ノウハウが必要になるのです。
5G通信において高速・大容量を実現するには、周波数帯域幅を大幅に拡大する必要があります。
日本における5Gサービスでは、3.7GHz帯、4.5GHz帯、28GHz帯という3種類の周波数帯が用意されました。
これに対して、3.7GHz帯は100MHz幅が5本、4.5GHz帯は100MHz幅が1本、28GHz帯は400MHz幅が4本と、合計で10種類の電波が通信キャリアに割り当てられます。
5Gで使われる高い周波数帯の電波は、大容量通信の実現というメリットがありますが、4Gに比べて遠距離まで信号を届けにくいうえ、直進性が高いため、ビルの影などでは通信が難しいといった問題も抱えています。
このような問題を解消するためにさまざまな通信技術が投入されており、その一つが、高い周波数帯の電波を効率的に伝送する「Massive MIMO」です。
Massive MIMOは複数のアンテナを使い、複数方向に別々に電波を飛ばします。
これを「ビームフォーミング(beamforming)技術」といい、Massive MIMOは、ビームフォーミング技術との組み合わせで、
遠距離まで届かない・直進性が高いといったような弱点を克服しつつ、5Gでの多数の端末との接続という性能を実現します。
例えば大規模なスタジアムなどでも、集まった大勢の人に別々の無線電波が届くため、通信の混雑を気にしなくてもよい快適なサービスが提供できるようになるのです。
5Gでの通信はさまざまなメリットがある一方、その「評価や計測」に関してはさまざまな課題があります。 例えば高い周波数帯の電波は、受信した信号がケーブルを介してすぐに減衰してしまい、従来の手法による評価では高精度な計測が困難になる場合があります。 また、Massive MIMOとビームフォーミング技術の組み合わせでは、「任意の方向に、正確に出力されているのか?」という新たな評価が必要となり、外来の電波を遮断したOTA環境での計測が求められます。
5Gの実用化に向けて設計や開発が加速するのは、通信事業者や通信機器メーカーというイメージが強いですが、 このように計測機器メーカーにおいても、5Gでの計測に適したテスタや計測器の開発・投入が進められているのです。 さらに、5G性能の一つである、低遅延での無線通信を生かした、リアルタイム遠隔計測が可能な計測機器の登場も期待されています。