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イメージセンサーの中国最大手ウィルセミコンダクター

レンテックインサイト編集部

測定器 Insight イメージセンサーの中国最大手ウィルセミコンダクター

 中国では近年、半導体投資が積極的行われており、その結果、先端メモリーや7nm級のロジックICなどの半導体も製造できるようになりました。そうした動きに合わせて装置や材料の国産化も急速に進んでおり、さらに半導体の設計を行うファブレス企業の取り組みも加速しています。2022年の数字になりますが、中国の半導体ファブレス企業の売上規模は日本円で約10兆8000億円にのぼり、企業数も3200社を超えました。

 そんな中国の半導体ファブレスの中で存在感を発揮している企業の1社がウィルセミコンダクター(Will Semiconductor、韋爾半導体、上海市)です。同社は清華大学卒業の虞仁栄氏が2007年に上海市で創業した企業で、当初は電源管理ICやパワー半導体(MOSFET)、RFIC、MEMSなどを設計しながら、半導体商社としてのビジネスも展開していました。しかしその後、CMOSイメージセンサー(CIS)大手の米オムニビジョンやスーパーピクス(思比科微電子技術)を買収していったことで、ウィルセミコンダクターは中国最大手のCISファブレス企業となったのです。近年は関連会社のロンセミ(RONG SEMI、栄芯半導体科技)がCISの半導体(前工程)製造を一部担当するなど、半導体ファブレスからIDM(垂直統合型デバイスメーカー)へとその業態を変化させています。

幅広いCIS製品群を構築

 ウィルセミコンダクターは、オムニビジョンを買収する前の段階(2017年)では、売上高の約70%が半導体の販売代理店事業でしたが、2019年にオムニビジョンを買収し、2021年にはIC設計事業が売上高の85%を占めるようになり、半導体ファブレス企業としての事業が主体となりました。同社の主力企業であるオムニビジョンは、1995年に米シリコンバレーで中国出身のシャウ・ホン(洪筱英)氏やレイモンンド・ウー(呉日正)氏ら4人によって設立された企業で、ホン氏は上海交通大学、ウー氏は台湾の中原大学を卒業。両氏は米モトローラーでの業務経験があり、ホン氏がウー氏の上司という関係でした。

 オムニビジョンは創業当初、ASIC(特定の用途向けに設計・製造された半導体集積回路)を開発しており、現在の主力製品であるモバイル端末用CISの開発は2002年から開始しました。そして2013年には約15億ドルを売り上げ、世界のCIS市場で30%のシェアを握るまでに事業が拡大しました。その後、オムニビジョンは2016年に米ナスダックでの株式上場を廃止してプライベートカンパニーに戻り、北京に設立した北京オムニビジョンの子会社に再編。そして2019年中国資本のウィルセミコンダクターの傘下となりました。

 ウィルセミコンダクターにおけるもう一つの主力企業であるスーパーピクスは、日本で博士号を取得した陳傑氏が2004年に北京で創業したCISファブレス企業です。モバイル端末用のローミドルレンジCISのほか、医療機器や監視カメラ用のCISを手がけています。

 オムニビジョンとスーパーピクスは2016~2019年にかけてウィルセミコングループに統合され、現在はオムニビジョンがハイエンドCIS、スーパーピクスがローミドルレンジCISを展開することで幅広い製品群を構築しています。

一部工程の内製化にも注力

 ウィルセミコンダクターの業績を見ると、中国の半導体国産化の波に乗った2020年に売上高を前年比45%増、21年の売上高を前年比21%増と大きく伸ばすことに成功しています。半導体市況が悪化した2022年の売上高は前年比16%減となりましたが、2023年の売上高は前年比5%増を達成。そして2024年はCIS販売の拡大により業績が改善したとみられています。

 製品関連の動きとしては1/2.88インチの5000万画素CISを2024年8月に発表しました。スマートフォンのフロントカメラや、広角、超広角、望遠カメラなど幅広い用途で使用できます。2024年7月にはAR(拡張現実)/VR(仮想現実)端末に搭載する超小型低消費電力のグローバルシャッターイメージセンサーを発表しました2.2μm画素のCISを採用し、パッケージサイズは1.64×1.64㎜と小型化を実現。端末の内側に設置され、装着者の顔の各部(目、眉毛、唇など)を追跡するために使用され、2024年末から量産されているとみられます。

 ウィルセミコンダクターは、マスターや貼り合わせといった製造業務について、基本的にはTSMCやSMICなどのファンドリー企業を活用していますが、他社とのさらなる差別化を図るため、OCF(オンチップカラーフィルター)工程については自社での製造を計画し、2024年末から一部量産に移行したとみられています。また、マスター工程も淮安工場(RongSemi)など自社拠点への切り替えを模索しており、中国国内でのサプライチェーン構築に意欲を示しています。

 米中関係の悪化など地政学リスクの増大に伴い、中国では半導体デバイスの国産化・内製化が進展しており、その対象はロジックやメモリー、パワー半導体などほぼすべての領域といっても過言ではありません。そしてCISもその対象の一つであり、2023年ごろから内製化の機運が拡大しており、ファブレス企業からの進化を図るウィルセミコンダクターの重要性もさらに高まっていくことになるでしょう。

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