DRAM、NANDの先端プロセス向けの技術開発が活発化しています。足元のメモリ市場はパソコンやスマートフォンなど民生分野の低迷を背景に調整局面にありますが、将来を見越した技術開発はメモリメーカーだけでなく、装置・材料メーカーの間でも新たな事業機会としてリソース投下が強まっています。DRAM、NANDともに共通するのは従来の微細化・高積層化(スケーリング)だけでなく、新構造・新材料を適用することで高性能化とコストダウンを推し進めていく必要が出てきたことです。
DRAMは現在、D1c世代の開発・立ち上げが進められています。サムスン電子はHBM(高帯域メモリ)市場での巻き返しに向けて、D1C世代の立ち上げを2025年から平澤第4工場 (P4)を中心に進めています。マイクロンもD1Cに相当する1γ(ガンマ)世代のサンプル出荷を発表済みです。EUV技術を初めて採用した世代として、まずは台中工場から量産を開始、その後広島工場での展開も視野に入れています。
既存技術は限界が見えてきており、さらなる高密度化に向けメモリセルのレイアウトを変更する動きが出てきています。具体的には既存の6F2から4F2への移行で、主にチャネルを垂直方向に変更することでこれを実現しようとしています。
4F2への移行は、20年以上前からDRAM主要各社で開発が進められてきたアイデアですが、実用化には至っていませんでした。ただ、近年の成膜・エッチングをはじめとするプロセス技術の革新によって、本格的な採用に向けた道筋ができあがりつつある状況です。
垂直チャネルによる4F2を経て、DRAMは本格的な3D化に進みます。従来縦方向に形成していたキャパシタのアスペクト比が厳しくなっており、これを解消する手段として、横方向(3次元方向)にキャパシタを形成します。従来、3D-DRAMの登場時期は2026~2027年ごろとみられていましたが、技術難易度の高さから先送りの状況で、現在は2030年以降に登場してくるとみられています。
DRAMの3D化は製造装置の投資ウェイトにも変化を与えそうです。EUV工程が必要なくなるため、リソグラフィー分野への投資インテンシティが低下する一方、3D-NAND同様に成膜・エッチング工程の負担が増えることから、露光装置を除くプロセス装置メーカーにとっては大きな事業機会といえそうです。
NANDは主戦場が300~400層世代に移行する中で、さらなる高密度化に向けた技術開発が活発化しています。高積層化では400層世代に向けて極低温(クライオ)エッチングの導入が本格化。同市場に注力する東京エレクトロンは、2024年10~12月期の決算発表にあわせて、クライオエッチング装置でNANDチャネルホール向けの量産PORの獲得が1社決まったことを明らかにしています。
また、ワードラインのメタル材料として従来のタングステンからモリブデン(Mo)に置き換える動きも本格化しています。これもクライオエッチング同様に400層以上の世代から導入される見通しで、Moを適用することでさらなる低抵抗化を図る狙いがあります。ALD装置大手のラムリサーチは、2025年2月にMoに対応したALD装置「ALTUS Halo」を発表。すでに韓国とシンガポールに工場を持つNANDメーカーに早期導入を行っているほか、DRAM顧客向けの開発も継続して進めているといいます。
デバイス構造は今後、貼り合わせ工法を使ったタイプに一本化されそうです。単位面積あたりの高密度化を図る手法として、ロジック回路をメモリセル直下に集積化するモノリシックタイプ(CUA=CMOS Under Array)が一時は主流になるとみられていましたが、リードタイムや製造コストの観点からウエハーボンディング方式にメリットが多いとの見方が強まっています。今後は700層以上をめどにロジックウエハーだけでなく、NANDウエハー同士を貼り合わせるマルチボンディングの導入も検討が進みそうです。
メモリ市場はAI需要の波を享受するHBMを除けば、厳しい状況が続いています。パソコンやスマートフォンなど民生市場の需要軟化を受けて、需給環境が悪化。DRAM、NANDともに2024年10~12月期からコントラクト(契約)価格の下落が始まっています。最終製品の需要が不透明な中、NANDを筆頭に各社はウエハー投入の削減を通じた減産に踏み切っており、ファブ稼働率は再び低下傾向にあります。データセンター市場への依存が高まる中、市場全体の回復は2025年後半以降と目されています。
HBMが隆盛を極める中、DRAM市場におけるシェアも変化しつつあります。調査会社トレンドフォースによれば、2024年通年のDRAM市場シェアはサムスン電子が41.5%に対してSKハイニックスは34.4%。依然として7ポイント以上の差はあるものの、その差は縮まっています。2024年10~12月期に限って見れば、サムスン電子が39. 3%、SKハイニックスが36.6%とシェア差は2ポイント強に迫っており、2025年はHBMの採用状況によってはSKハイニックスがDRAM市場のトップに躍り出る可能性も出てきました。
SKハイニックスはエヌビディアのHBMメインサプライヤーとしての地位を確固たるものとしているほか、マイクロンもHBM3Eにおいてエヌビディアの認定を取得。2025年会計度(25年8月期)通期でHBMの売上高は数十億ドルの規模になるとみており、2024年9~11月期も前四半期比で2倍以上伸びました。
サムスン電子はHBMに関して、2024年7~9月期からHBM3Eの8層品や12層品を量産しており、2024年10~12月期はHBM3Eの売り上げがHBM3を超えました。主にグーグルやアマゾンなど米系ハイパースケーラー向けと見られます。エヌビディア向けと目されるHBM3Eの改良品も準備が進んでおり、2025年3月末までに一部顧客に供給しました。
HBM出荷先の一定量を占めていたとされる中国向けは、米国の規制影響によって年明けから出荷をストップしていると見られ、是が非でもエヌビディア向けの認定を取得してDRAM事業の好転につなげていきたい考えです。
中国のメモリ技術が韓国勢を猛追しています。YMTC(湖北省武漢市)は、製造難易度が高いとされるハイブリッドボンディング(HB)技術を量産工程でいち早く導入。YMTCは、このHB技術でNAND分野においてサムスン電子とSKハイニックスを猛追しています。
調査会社テックインサイツの資料によると、YMTCは270層世代の1テラビット(Tb)の第5世代3D-NANDの量産を開始しました。テックインサイツがYMTC子会社のSSDを分解・分析した結果、YMTC製の270層世代のチップが確認されました。単純な積層数の比較で、現在量産中で最も積層数が多いのがSKの321層で、サムスンが286層でこれに続きます。テックインサイツは、NANDの性能指標である1㎟あたりの容量でYMTCが20.47/㎟を記録し、大きな進捗をみせたと評価しています。
貼り合わせ工法による高集積化を進めるYMTCに対し、サムスンとSKの韓国勢は、同一ウエハー上にメモリセルとロジック回路を作り込むモノリシック型を現状でも採用。ただ、両社の技術はロジック回路にダメージを与える問題があり、さらなる積層化に限界が生じているとされています。そのため、400層からはHB技術の導入を予定しています。結果、YMTCが韓国勢より早くHB技術を開発・活用したことが、韓国勢には大きな脅威となっています。
半導体分野に詳しいアナリストは「当初、YMTCがXtacking技術でNANDを開発する時には否定的な見方が多かった。だが、270層の3D-NANDまで作ったことは、結局、技術的には韓国勢に追い付いたということだ」と指摘します。YMTCは今後、コンシューマー向けSSDのほか、企業向けSSDでも中国国内の需要を取り込んで成長していく構えです。
中国の半導体産業は、DRAMのCXMT(安徽省合肥市)、ファンドリーのSMIC(上海市)、ファーウェイ子会社でファブレス企業のハイシリコン(深圳市)、AI半導体分野のテンセント(深圳市)やアリババ(杭州市)など、半導体の全分野を網羅しています。中国政府は3回に分けて総額6869億元(約14.2兆円)という巨額の補助金を半導体メーカーの支援に回し、自国内における強力な半導体エコシステムを構築してきています。
中国半導体産業は、韓国がメモリ分野に集中していることとは異なり、全産業をカバーしています。米国は中国に対して数年前から7nm以下のプロセスに不可欠なEUV露光装置とAIアクセラレーターに不可欠なHBMに対する輸出制裁をかけていますが、中国はこれに対抗すべく、GPUと先端半導体装置を独自で製造し始めています。
具体的な動きとして、CXMTは17nmおよび18nmプロセスのDDR4やLPDDR4Xといった汎用DRAMを主力製品としています。また、最近は12nmクラスのDDR5、LPDDR5X品まで量産に成功しています。同社は、2024年末時点で生産キャパシティーを月産20万枚まで広げています。サムスン電子は同68万枚、SKハイニックスは46万枚であることを勘案すると、この短期間でのCXMTの勢いは驚異的なレベルです。
このようにして中国勢が作った半導体は、そのまま中国大手IT企業が買い入れます。例えば、ファーウェイの場合、2004年にハイシリコンを設立し、自前のアプリケーションプロセッサー「Kirin 9000s」を開発し、これをSMICの7nmプロセスに発注しています。中国の半導体技術力に対する評価は「レガシー世代は中国政府の積極的な支援で強みを発揮している」、「しかし、中国のレガシー世代が脅威ではあるものの、韓国企業が大きく見劣りするものではない」とさまざまな意見が飛び交っています。
DRAM市場ではサムスン42%、SK34%で両社あわせて7割超のシェアを韓国勢が掌握しています(2024年実績)。しかし、中国の半導体は韓国の牙城ともいえるHBM分野への本格進出を目指しています。
半導体製造装置分野では、SMEE(上海微電子装備有限公司)が28~90nm世代に対応した露光装置に続き、EUV露光装置の開発にも乗り出しています。半導体産業に詳しい証券アナリストは、中韓の半導体技術格差について「HBMは約5年、DRAMは3年前後、NANDは1年半程度に縮まっている」と分析。2023年ごろは「HBMが10年、DRAMが5年、NANDは2年程度、韓国勢が先行している」と評価されていましたが、予想以上に中国勢と韓国勢の格差は縮まっていると言わざるを得ません。