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データセンターの電力問題と光電融合技術について解説

レンテックインサイト編集部

測定器 Insight データセンターの電力問題と光電融合技術について解説

クラウドサービスやAI、IoTといった技術の発展により、世界中のデータセンターの利用が急速に拡大しています。それに伴い、データ処理のための電力消費も大きく増加し、深刻な問題となっています。本記事では、データセンターの電力問題と、その解決策として期待される光電融合技術の現状や展望について解説します。

拡大するデータセンターの電力問題

生成AIや大規模言語モデルの普及により、近年では一つの大型データセンターが原子力発電所1基分の電力を消費する場合もあります。国際エネルギー機関(IEA)によると、2026年には世界中のデータセンターの年間電力消費量が1000TWhを超えると予測されており、これは日本の年間電力消費に匹敵する規模です。

データセンターでは高度な演算処理が行われますが、そのために用いられるGPUやアクセラレータといった高性能プロセッサを大量に搭載したサーバーは、大量の電力を必要とします。AIアプリケーションの高度化や需要拡大とともにデータセンターの電力需要も増加し、電力インフラの安定運用?やカーボンニュートラルの目標達成に対して深刻な課題となっています。

これまでの半導体技術は、18カ月ごとにトランジスタ密度が2倍になるというムーアの法則に従って性能が向上してきました。しかし近年では、製造プロセスの微細化が限界を迎えており、同じ面積で処理性能を高める手法には限界が見えてきています。

これらの背景から、次世代の省電力技術が強く求められています。

電力問題の打開策となる光電融合技術

電子回路と光回路を統合することで、消費電力を大幅に削減できると見込まれています。特に、ICチップと光学エンジンを同一パッケージに実装するCPOと呼ばれる技術に期待が寄せられています。

光電融合とは何か

光電融合技術とは、電気信号を扱う電子回路と光信号を扱う光回路を統合し、情報の伝送や処理を電気から光に置き換える技術のことです。特に注目されているのが、シリコンフォトニクスを用いた光集積回路(Photonic Integrated Circuit:PIC)です。これは、シリコン基板上にレーザー素子や受光素子、光導波路を形成する技術を指します。

光には電気に比べてエネルギー損失が少なく、長距離伝送における遅延や発熱も抑えられるという利点があります。データセンター内のチップ間やボード間の通信を光に置き換えることで、消費電力の大幅な削減が期待されています。

Co-Packaged Opticsによる技術的進展

現在主流なのは、プリント基板上に光学エンジンを搭載し、光ファイバーで外部とつなげるプラガブル型光トランシーバです。近年は次世代技術として、ICチップと光学エンジンを同一パッケージに実装する「Co-Packaged Optics(CPO)」に注目が集まっています。

CPOは、ICチップと光学エンジン間の銅配線の長さを極限まで短縮することで、伝送損失や発熱を大きく低減できます。光電融合デバイスのパッケージ内実装に向けた研究開発が活発に進められており、ブロードコムやNTTなどが先行しています。

データセンターの電力問題と光電融合技術について解説 挿絵

光電融合の課題と日本の取り組み

光電融合の実用化には、従来の電子デバイスにない製造プロセスの実現が課題となっています。日本でも研究所や民間企業が一丸となって開発に取り組んでいます。

実用化に向けた課題

光電融合技術の実用化に向けて、特に大きな技術的ハードルとなっているのが、シリコンフォトニクスと呼ばれる異種材料の高精度な集積技術です。一般的なICチップで使用するⅣ族元素のシリコンでは直接レーザーを発光できず、レーザー素子や受光素子を形成できません。そのため、III-V族の化合物半導体などを用いた光学素子をシリコン基板上に集積する必要があります。

レーザー発光部と光導波路の精密な位置合わせや、光学素子の耐久性といった課題もあり、従来にない製造プロセスの開発が求められます。さらに、光デバイスは電子デバイスに比べて熱や振動に弱く、壊れやすいため、取り替えが容易ではないという点も課題となっています。

日本の取り組み

日本では、経済産業省が主導する「次世代グリーンデータセンター技術開発」プロジェクトの中核技術の一つに、光電融合が位置付けられています。産業技術総合研究所をはじめ、さまざまな民間企業が参画する「GDC協議会」において、光回路と電子回路のワンチップ化、光導波路の形成技術などが検討されています。

この取り組みでは、データセンターの消費電力について2030年における想定量より40%以上削減することを目標としています。現在、チップ間などのデータ通信の光配線技術や実装技術の開発において、日本は世界に先行しています。将来的には、日本の光電融合技術が世界のデータセンターエコシステムに組み込まれることが期待されています。

持続可能なデジタル社会に向けて

ICT社会の発展とともに拡大するデータセンターの電力問題は、持続可能なデジタル社会の実現において大きな課題となっています。その解決策として登場した光電融合技術は、単なる省電力化にとどまらず、情報処理のあり方そのものを変える可能性を秘めています。

日本の強みを活かしながら、産学官が一体となって技術開発と社会実装を進めていくことが、持続可能なデジタル社会の実現に向けて求められています。

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