測定器 Insight

あなたの息で体の状態をチェック。新たな健康管理方法として研究が進む呼気計測

レンテックインサイト編集部

 糖尿病や高血圧、がんといった生活習慣病にかかる人、またはその予備軍と見られる人は年々増え続けています。厚生労働省が実施した「国民健康・栄養調査」によると、 生活習慣病の代表格といえる糖尿病の患者数は、2016年時点で1,000万人を超えたと推計されており、その改善と予防は大きな課題です。
生活習慣病予防の一環として行われる健康診断では、人間の体から排出されるさまざまなものからデータを取り、健康状態を測るバロメータとしています。 例えば血液検査では、貧血、肝臓の異常、腎臓の異常、高脂血症、糖尿病などが分かり、尿検査では、膀胱、尿管、尿道の異常の他、心臓病、肝臓病、膵臓病などの重病に繋がる可能性についても確認することができます。 また、便の検査からは、消化管の出血性の病気や大腸ポリープ、大腸がんといった疾病が発見されることもあります。

このように人間は、体の中から、健康状態に関するさまざまな情報を外部に発信し続けているのです。そんな中、手軽な健康管理方法として注目されているのが、人間の呼気(息)から体の疾病を調べる方法です。 生活習慣病の早期発見に向けて、呼気に含まれるガス成分を検査する呼気分析や診断方法の研究が進められています。

息を吹きかけるだけで、健康状態を計測する「呼気センサ」

人間は肺に吸い込んだ空気と毛細血管の間で“ガス置換”を行っており、体外に放出された呼気の中には血液中に溶け込んでいるガスが含まれています。 これらのガスには、人間の生体活動や疾病と密接に関わりのある物質がごく少量含まれているため、呼気を詳細に計測し、それらのガスを検出することで、健康状態がモニタリングできると考えられているのです。
呼気に含まれるガスの一例が、「アンモニア」とアルデヒドの一種である「ノナナール」です。アンモニアは、肝臓の代謝や胃がんの危険因子であるピロリ菌感染と相関しているといわれ、また有機化合物である「ノナナール」は、肺がん腫瘍マーカの候補とされています。
呼気の計測は、採血による血液検査と比べて苦痛が少なく、また、検尿や検便といった排泄物検査と比べて清潔で手軽に行えるメリットがあります。 しかし、高いスキルを持つ専門家と、高価な分析装置が必要な他、分析にも多くの時間を要し、大規模な医療機関などでしか実現できないのが現状です。

様々な研究が進められる呼気計測

日本でも多くの企業や研究機関が、呼気による計測技術の研究開発を行っています。

国立研究開発法人産業技術総合研究所がフィガロ技研株式会社と共同で開発した、健康管理のための呼気ガス検知器では、水素ガスに着目しています。水素ガスは腸内細菌の活動を示すことから、 ガス種選択性に優れた熱電式水素センサ素子を用いて、呼気中の水素ガス濃度を直接測定できる呼気水素検知器の研究を進めているのです。 さらに、肺がんの早期発見を目指して、肺がん患者のがん切除手術前後の呼気ガス成分を統計学的に比較・分析し、呼気中の揮発性有機化合物から複数の肺がんマーカ物質の組み合わせを研究しています。

株式会社富士通研究所では、呼気中に含まれるガスのうち、肝機能障害やピロリ菌感染との関連が指摘されているアンモニアに着目しています。 臭化第一銅(CuBr)膜がアンモニアを吸着する性質を利用して、呼気に含まれるごく微量のアンモニアを10秒で高感度に検出できる携帯型センサを開発しました。 このセンサを使い、精神疾患の要因となるストレス性疲労の蓄積が測定可能かどうか、といった研究も進めています。

東京医科歯科大学では、口臭の測定や検査、口臭症の診断・治療・予防を行うための専門外来、「息さわやか外来(口臭外来)」を設けるなど、呼気分析の研究を積極的に進めています。 具体的には、臭いの情報を光学情報に変換し、空間的な動画像として捉える可視化技術の研究などです。 バイオセンシングを活用した「臭いセンサ」では、呼気だけでなく人間の体臭に含まれるガスの成分も分析し、そこから代謝の変化を読み取ろうとしています。 将来的には、ゲートを通過するだけでその人の疾患が確認できる「可視化カーテン」の開発や、手のひらサイズまで小型化した臭いセンサの開発も目指しているそうです。

こういったデバイスが家庭でも簡単に使えるようになれば、毎朝・毎晩、息を吹きかけるだけで病気が発見できるといったような、簡単にできる健康チェックが可能になるかもしれません。

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