昨今では、多くの業界で省エネ化が重要な課題となっています。特に、大きな電力を消費するモーターをいかに効率よく稼働させるかがポイントになっていますが、そこで注目されているのが「インバーター」と呼ばれる装置です。本記事では、インバーターがなぜ省エネに役立つのか、インバーターの仕組みや具体的な事例も交えながら解説します。
インバーターは、電気の周波数や電圧を自在に変換・制御する装置です。具体的には、まず入力された交流電流(AC)を一度直流電流(DC)に変換し、その後再び交流電流に戻すという仕組みになっています。入力された交流をそのまま使う場合、周波数や電圧を細かく調整することは困難です。しかし、上述したプロセスを経ることで、目的の動作条件に合わせた周波数と電圧に調整できます。
インバーターは家庭ではエアコン・冷蔵庫・洗濯機といった家電製品に搭載されており、産業用途ではポンプ・送風機・コンプレッサー・搬送装置などで幅広く用いられています。また、鉄道車両や電動自動車などの輸送機器においてもインバーターが組み込まれています。このように、インバーターは私たちの生活や産業のさまざまな場面で活躍しており、非常に重要な役割を担っています。
インバーターが省エネに貢献する最大の理由は、モーターやポンプなどの回転数を柔軟に制御できる点にあります。モーターやポンプは通常、一定の速度で回転するように設計されていますが、実際の運用時には必ずしもフルパワーで回転させ続ける必要はありません。負荷状況に応じて最適な回転数になるように制御することで、余分な電力を使わずに済みます。一般的に、モーターの回転速度は電気の周波数とほぼ比例します。そのため、インバーターで電気の周波数を調整してモーターに与えることができれば、モーターの回転数を柔軟に制御でき、消費電力を抑えられるのです。
近年ではあらゆる製品や設備が電動化されており、モーターが世界の消費電力の約40~50%を占めると言われています。そのため、モーターを効率よく稼働させることは省エネ化を進める上での重要な課題です。インバーターを導入することで、モーターが消費する莫大な電力を削減できる可能性が高まります。
また、インバーターによる制御には次のように数多くのメリットがあります。
・過剰な負荷をかけることがないように制御できるため、モーターの長寿命化につながる
・滑らかに起動・停止できるため、急激な立ち上がりに伴う故障リスクが低減される
・モーターの劣化が抑えられることで、メンテナンスコストも削減される
・季節や需要などの変化に合わせて稼働条件を柔軟に変更できる
インバーターを導入したことで、大幅な省エネを達成している事例は数多く存在します。
例えば、工場やビルの空調設備で使用される送風機にインバーターを組み込んだ場合、季節や天候、屋内の人の動きや人数に応じて最適な形で稼働できます。具体的には、人数が少ない夜間や冬季には出力を下げる、日中のピークタイムや夏季には出力を上げる、といった制御をすることで、効率よく電力を使えるようになるでしょう。その結果、年間を通じて大幅な消費電力の削減につながります。
もう一つの代表的な例としては、モーターで駆動する電動車があります。EVやHVには高電圧・高出力のモーターが搭載されますが、インバーターはこれらの駆動を最適化する要となります。近年では高効率・高出力のインバーターが開発されており、電力損失を最小化しつつ加速時や巡航時に必要な電力を適切に供給することで、一回の充電で走行可能な距離を伸ばすことが可能です。インバーターの性能が向上すればするほど電動車の実用性が高まるため、電動車の普及に大きく貢献しているといえるでしょう。
カーボンニュートラルやSDGs(持続可能な開発目標)などの地球環境を意識した取り組みが世界的に進む中、あらゆるシーンでエネルギー消費量の削減が求められています。その一環として、モーターをはじめとする電動機器の省エネ化は必須の取り組みといえる状況です。インバーターはモーターを最適な形で制御し、ムダなエネルギーを削減するための重要な装置として認識されています。
インバーターを導入すれば、一定の回転数でしか稼働できなかったモーターが柔軟に稼働できるようになり、全体的なエネルギー効率を高められます。故障リスクやメンテナンスの手間を軽減する効果も期待できるため、中長期的なコスト削減や安定稼働にもつながるでしょう。産業機器や空調設備などの省エネ化を検討する際には、インバーターの導入も選択肢の一つとして加えていただければ幸いです。