生成AIなどAI関連の市場が拡大する中、AIを処理する半導体の需要も拡大しています。そして、そのAI半導体の製造にあたり、テスト工程で使用される装置で販売を伸ばしている企業がアドバンテストです。
アドバンテストは、1954年に測定器の分野に特化したベンチャー企業としてわずか3人の従業員で設立されました。現在は半導体デバイスを試験するテスターを主力事業とし、7000人を超える従業員を抱えるグローバル企業となりました。現在、半導体テスト・システムの分野において、アドバンテストは世界トップクラスのシェアを誇り、特に生成AIに必要なGPU向けでは圧倒的なシェアを有します。
半導体テスターは、半導体デバイスに電気信号を与えて、出力される信号を検査する装置で、ATE(Automated Test Equipment)とも呼ばれます。半導体の品質や性能、信頼性を評価し、設計仕様どおりに動作しているかどうかを検査する装置で、不良の原因を解析し、歩留まりを向上させる役割を担います。
アドバンテストの主力製品の一つとして「V93000」プラットフォームがあります。1999年7月に発表されたV93000は、これまで使用されていたハイエンドSoC向けテスターを瞬く間に凌駕し、テスト業界のデファクトスタンダードになりました。V93000は、アドバンテストが2011年にVerigy社を買収したことにより、アドバンテストの製品ポートフォリオに加わりました。それ以来、V93000のスケーラブル・プラットフォームを継続的に強化、発展させることにより、エンジニアリング向けの小型フットプリント・システムから超多ピンのウェーハ・ソート向け、さらには量産用のファイナル・テスト向けのシステムに至るまで、あらゆるテスト工程で互換性をもって使用できる幅広いテスター構成を提供しています。現在、V93000は大手IDM(垂直統合型企業)、ファンドリー(半導体前工程受託企業)、OSAT(半導体後工程受託企業)各社に広く採用されており、IDMにおけるテストやファブレス企業がテストを外注する上で、世界中のOSATに大きなテスト・キャパシティが確保されているV93000は第一の選択肢となっています。
2024年に25周年を迎えたV93000は、これまでに累計で1万台以上の出荷実績があります。特に高性能デバイス向けに採用が拡大している「V93000 EXA Scale」をリリースして以降は、インストール台数の伸びが急峻です。累計5000台の到達には18年を要しましたが、1万台の到達はわずか6年で達成しています。
アドバンテストの伸びは、2024年度(2025年3月期)の業績計画で顕著に見てとれました。同社は2024年4月時点では2024年度の売上高として5250億円を計画していましたが、その計画値を2024年7月に6000億円に引き上げました。その後、2024年10月に6400億円、2025年1月には7400億円まで引き上げました。増額修正を3度実施することは異例で、その修正値を見ても2000億円以上の上ぶれというのも異例といえます。
アドバンテストによると、半導体テスター市場はもともと2023年にダウンサイクルに入り、2024年に入ってもこれが長引くと想定してしました。実際にスマートフォンなどの民生市場や車載、産機向けの需要は低調でしたが、AI半導体だけは状況が全く違ったといいます。現在主流のAI用半導体はデバイスの複雑化が劇的に進んでおり、これによって歩留まりの安定化が大きな課題となっています。そのため、テストの回数やテストタイムなどを増やす必要が一気に増えました。
こうした状況をアドバンテストも把握していましたが、民生や自動車などほかの市場が弱いこともあり、V93000を顧客であるファンドリーやOSATの中で「使いまわす」「切り替える」動きが出ることで、新規のテスター需要になかなか結びつかないのではないかとアドバンテストではみていました。しかし、蓋を開けてみるとその予想は良い意味で裏切られ、新規需要が一気に増加しました。
アドバンテストはプローブカード(ウエハー上に形成されたチップの電気的検査に用い、テスターとチップを接続するコネクターのような役割を果たす装置)メーカーとの協業も進めています。その一環として、イタリアのテクノプローブおよび米国のフォームファクターへの少数持分投資を行うとともに、両社との提携パートナーシップも結んでいます。提携する2社はともに半導体用プローブカードの大手サプライヤー企業です。以前はプローブカード分野に自ら進出することを検討した時期もありましたが、非常に強い立場を持つ既存のサプライヤーと組んで、今後の課題解決に努めていくのが一番の近道であると判断しました。
また、そのプローブカードではAI半導体などの高性能デバイスの登場により、カード内部に用いるプリント基板の高度化(高多層化)が求められています。そこでアドバンテストは2021年にテスター用インターフェースボードの設計・開発・製造を行う米国のR&D Altanovaを買収したほか、2023年に台湾のプリント基板メーカーであるShin Puu Technology社も傘下に収めました。現在、R&D Altanovaの高性能基板設計技術を活かすべく、Shin Puu社の生産キャパシティーの拡張を行っています。
一気に需要が拡大したことで今後テスターが余剰化するリスクもありますが、デバイスの複雑化は今後さらに進むとみられています。また、3Dやチップレットなどの市場も勃興し、メモリーもHBMを筆頭にチャレンジングな試みが始まっています。その中で歩留まりが上がらないといった課題も出てきていることから、今後テスト・システムに対する重要性がさらに高まっていくことが予想され、それに伴いアドバンテスト製品の重要性もさらに高まっていくことになるでしょう。