インバーターは、ゲートドライバICを用いてMOSFETやIGBTなどのパワー半導体素子を制御します。ゲートドライバICは、パワー半導体に対して適切な電圧や電流を供給し、適切なスイッチングを行う役割があります。本記事では、ゲートドライバICの主な役割や安全機能、設計上の注意点について解説します。
インバーターは、MOSFETやIGBTなどのパワー半導体を用いて電力変換を行います。これらのパワー半導体を適切なタイミングでオン・オフすることが、ゲートドライバICの主な役割です。マイコンの制御信号を増幅し、パワー半導体を駆動できるように調整します。 スイッチング損失を抑えつつ高速にスイッチングするよう制御することで、インバーターとして高効率になり、細やかな電力制御が実現します。
パワー半導体のゲートには寄生容量があり、この容量を迅速に充放電できればスイッチング速度が向上し、電力変換効率が高まります。そのため、ゲートの容量や期待するスイッチング速度に応じた電流能力を持つゲートドライバICの選定が重要です。また、ゲートドライバICには駆動電圧を安定供給する役割もあり、パワー半導体の誤動作を防ぎ、過電圧が印加された際の破損を防止します。
ゲートドライバICには、パワー半導体の故障を防ぎ、インバーターの長寿命化を実現するための保護機能が備わっています。
ゲートドライバICは、インバーター回路の安全性を確保するために保護機能を備えています。ICによって搭載されている機能は異なりますが、代表的な保護機能をご紹介します。
低電圧保護機能は、電源電圧が動作に必要な最低限の値に達していない場合にゲート駆動を停止し、誤動作を防ぎます。過電流保護機能は、短絡などによる異常電流の流入を防ぎ、パワー半導体の故障を防ぎます。また、過電圧保護機能は、外部からのサージや突入電圧によるデバイスの破壊を防ぎます。過熱保護機能は、デバイスが許容温度を超えた場合に動作を停止し、熱暴走を防止します。
これらの機能によってインバーターの思わぬ故障を防ぎ、長寿命化と高信頼性を実現しています。
デッドタイムとは、インバーター回路の上下(ハイサイド、ローサイド)に直列につながるパワー半導体が同時にオンするのを防ぐ時間設定のことです。通常、上下のパワー半導体は交互にオン・オフしますが、タイミングのずれにより両方がオンしてしまう場合があります。すると、瞬間的に電源電圧とGNDがショートしてしまうことから、パワー半導体に大きな貫通電流が発生し、素子が損傷したり、大幅なエネルギー損失を引き起こしたりします。これを防ぐため、安全性を考慮してあえて両方が同時にオフする期間を設けています。
しかし、デッドタイムが長すぎるとスイッチング遅延が発生し、波形の歪みや高調波の増加を招きます。また、デッドタイム中は電流がパワー半導体の寄生ダイオードを流れるため、電力損失が発生することにも考慮が必要です。
使用するゲートドライバICは、パワー半導体に対して適切な電流を供給する必要があります。また、インバーター回路の構成に合わせて、十分なゲート電圧を印加できる回路を内蔵したICを選びます。
ゲートドライバICを選定する際には、MOSFETやIGBTといったパワー半導体に十分な電流を供給できるだけの駆動能力が必要です。パワー半導体のゲートにある寄生容量を迅速に充放電できるICを選びます。ゲート電流が不足すると、スイッチング速度が低下し、電力損失が増大します。一方で、ゲート電流が大きすぎるとオン時に発生するサージ電圧が増加してノイズが大きくなり、最悪の場合パワー半導体が破損する恐れもあります。
また、ゲートドライバICとパワー半導体の間に配置するゲート抵抗の選定も重要です。ゲート抵抗が小さいほどゲートに流れる電流が大きくなり、スイッチングが速くなりますが、ノイズやサージ電圧の増大リスクも高まります。適切なゲート抵抗を選択し、サージ電圧やノイズを抑えつつ、高速にスイッチングすることが求められます。
インバーター回路のハイサイド側のスイッチ素子としてNチャネルMOSFETを使用する場合、通常の電源供給ではゲート電圧を十分に確保できません。この問題を解決するために、チャージポンプ回路やブートストラップ回路と呼ばれる、コンデンサとスイッチング素子を組み合わせた回路を内蔵したICを使用します。
これらの回路は、コンデンサに一時的に電荷を蓄え、ゲート駆動に必要な高電圧を生成することで、NチャネルMOSFETのゲートに適切な電圧を印加します。ブートストラップ回路はシンプルな構成で低コストに実装できますが、スイッチング周波数やデューティ比に制限があります。一方、チャージポンプ回路は安定した高電圧を供給できますが、構成が複雑でコストが高くなります。
ゲートドライバICは、MOSFETやIGBTといったパワー半導体の高速スイッチングを実現するほか、過電圧や過電流、デッドタイムなどに対する保護機能を備えています。使用するパワー半導体に応じた電流、電圧特性を持つICを選定し、適切な設計を行うことで、インバーターの性能を最大限に引き出せます。