インバーターの最適な動作を実現するためには、正確な電流検出が求められます。電流検出は、システムの安全性や制御精度に大きく影響するため、適切な方式の選択が必要です。本記事では、インバーターにおける電流検出の目的や重要性、主な電流検出方式について説明します。
インバーターにおける電流検出は、モーター制御の精度向上やシステムの安定動作を確保するために不可欠な技術で、精度やコストを踏まえて適切な方式を選択することが求められます。電流の測定値はインバーター制御のフィードバック信号として用いられ、モーターに供給する電流が適切な値になるよう調整することで、回転速度やトルクを正確に制御できるようになります。
また、電流検出は異常検知にも利用されます。回路に過電流が発生すると、システムに損傷を与える可能性があるため、迅速な保護機能の発動が求められます。常に電流値を計測する仕組みを取り入れることで、異常発生時に即座に制御信号を送出し、インバーターやモーターの損傷を防止できます。
さらに、電流検出はエネルギー消費の最適化にも寄与します。効率的に電流を制御することで不要な電力消費を抑え、システム全体のエネルギー効率が向上します。産業機器や電気自動車など、エネルギー効率が重要視される分野では特に有用です。
主な電流検出方式として、シャント抵抗方式、電流トランス方式、ホール効果センサー方式の三つがあります。それぞれの検出方式について詳しく説明します。
シャント抵抗方式は、インバーターの電流検出において一般的に使用される手法です。測定対象の回路にシャント抵抗を挿入し、その両端に発生する電圧を測定することで電流を計算します。シャント抵抗は抵抗値が低いものを選定し、電圧降下や電力の消費を最小限に抑えます。オームの法則に基づく単純な原理で動作するため、コストが低く、設計も容易となるため広く採用されています。
三相インバーター回路を例にすると、シャント抵抗方式にはUVW相それぞれに三つの抵抗を用いる3シャント方式と、一つの抵抗で測定する1シャント方式があります。3シャント方式は測定のタイミングに制約がなく、高精度な電流検出が可能です。一方、1シャント方式は抵抗が1個で済み、低コストで実装できます。ただし、3相のうちどの相を測定するかタイミングを図る必要があり、3シャント方式よりも制御アルゴリズムが複雑になります。
シャント抵抗方式の課題として、シャント抵抗で発生する電力損失や発熱が挙げられます。なるべく低い抵抗値のものを選定したとしても、大電流が流れる場合には自己発熱による電力損失が大きくなります。
電流トランス方式は、電流によって発生する磁場を磁気コアで検出し、電流を測定する方式です。主に交流電流の測定に適しており、磁気コアを使用して電流の変化を高精度に検知できます。
この方式は巻き線や検出素子の違いなどから、オープンループ型、クローズドループ型、フラックスゲート型などの種類があり、それぞれ精度やコスト、応答速度などに違いがあります。オープンループ型は構造がシンプルで低コストですが、精度がやや劣ります。クローズドループ型は、補正回路を用いることで高精度な測定が可能ですが、コストがオープンループ型より高くなります。フラックスゲート型は、さらに高精度な測定が可能ですが、回路構成が複雑になり、最も高価になります。
電流トランス方式は、センサー内の電流が流れる導体部の抵抗値が低いため、消費電力や発熱が少なくなります。また、測定対象の電流とセンサーが物理的に接触しないため、絶縁性が確保できます。しかし、磁気コアを使用するため、センサーのサイズが大きくなりやすく、ヒステリシス誤差などの測定誤差が発生する点が課題です。
ホール効果センサー方式は、電流から発生する磁場をホール素子と呼ばれる磁器センサーで検出し、電流を測定する方式です。直流と交流の両方の電流測定が可能で、磁気コアを使用する電流トランス方式と比べてコンパクトな設計が可能です。
しかし、電流が流れる導体部の抵抗値が高くなるため、発熱が大きく、大電流の測定には適していません。また、ホール素子の感度が低いため、微小な電流の測定や高精度な測定には向かないことも欠点です。高精度な測定のためには補正回路を導入してゲインを大きくするなどの検討が必要です。
インバーターの電流検出方式には、シャント抵抗方式、電流トランス方式、ホール効果センサー方式などがあります。各方式にはそれぞれメリットとデメリットがあるため、測定対象の電流の大きさや精度、コスト、発熱などを考慮して適切な方式を選択しましょう。システムの特性や運用環境に応じた電流検出方式を採用することで、インバーターの安定した動作と高いエネルギー効率を実現できます。