昨今では、AIの急激な進化に伴ってあらゆる領域でAIの活用が進められています。特に、計測技術とAIは親和性が高く、従来から積極的に活用されてきました。そこで本記事では、計測技術におけるAI活用の歴史と現在の主要な活用方法、今後の展望などをまとめて解説いたします。
AIは2010年頃にディープラーニング(深層学習)が登場したのをきっかけに一大ブームとなりましたが、特にその威力を発揮したのが画像認識の分野です。世界的な画像認識のコンペティションである「ILSVRC(ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge)」の2012年度コンテストでディープラーニングを利用した手法が圧倒的な勝利を収めたことで、AIの可能性が広く認知されるようになりました。
画像認識技術はもともと、人間の視覚を代替したり補助したりする手段として研究されてきましたが、ディープラーニングが登場する以前は特徴量(画像内の物体を特定するための要素)を人間が定義し、詳細なルールを設定しなければ精度が出にくいという課題がありました。しかし、ディープラーニングの技術が確立されたことで、膨大なデータをもとにAIが自動で特徴を学習し、高精度に認識・判定できるようになりました。その後、製造業や医療などの業界で画像認識AIが導入されていき、計測技術の高精度化や効率化に貢献しています。
ここでは、2025年現在の計測技術におけるAIの主な活用方法をご紹介いたします。
製造業の工場などで行われる外観検査において、AIが活用されています。従来は人間の目による目視検査が一般的でしたが、AIを搭載したカメラによる外観検査に置き換えるケースが増えてきました。高解像度のカメラとAIを組み合わせれば製品の微細な欠陥や異常であっても検出できるため、外観検査の精度が向上し、不良品の流出を未然に防ぐことができます。また、AI外観検査には人間による目視検査に比べて検査スピードが向上する、判断基準や検査数のばらつきが少なくなる、人件費を抑えられるといったメリットがあり、人手不足が深刻化している製造業で導入が進んでいます。
医療の分野では、病気の発見や病状の確認を目的にAIによる画像認識技術が活用されています。具体的には、内視鏡やMRI、X線などの診断において、医師の補助として実用化されている状況です。昨今のAIは大量の医療画像を学習することで病気の特徴を高精度に検出できるようになっており、早期発見や診断精度の向上、診断の効率化に貢献しています。医師不足が課題となっている医療業界ですが、それを補うための技術として積極的にAIの導入が進められています。
カメラの映像や画像をもとに、人・車・バイク・自動車などの物体を認識し、人数や台数を計測するAI物体検知も注目されています。たとえば、交通管理においては、AIがリアルタイムに車両の流れを解析することで、信号制御の最適化や渋滞予測に活用されています。また、防犯対策においては、AIが不審な行動を検知することで、通知やアラートを出すといった迅速な対応が可能です。
AIはすでにさまざまな計測技術で活用されていますが、それでもまだほんの一握りであり、AIを活用できていない領域も数多く存在します。たとえば、上述した製造業や医療業界であっても、中小規模の製造現場や医療機関などではAIの導入にかかるコストや専門人材の確保が難しく、導入が進んでいないケースも少なくありません。将来的により低コストで使いやすいAIツールが登場して導入ハードルが下がれば、あらゆる領域で活用されるようになるでしょう。
また、現状は人間の補助的な役割をAIが担うケースが多いですが、精度と信頼性が高まればAIだけで完結できるようになるでしょう。たとえば、AIが計測した結果をもとにロボットアームを動かすといったように、計測した後の作業まで自動化できるようになれば、より革新的な未来に近づくと考えられます。実際に製造業においては、AIが製品の品質をリアルタイムに監視して不良品を自動で排除したり、生産プロセスの最適化を行ったりする仕組みの実現が期待されています。
本記事でご紹介したように、AIはすでに計測技術の分野で大きな役割を担っています。現時点ではまだまだ人間の判断が欠かせない状況にありますが、かつてのディープラーニングのような革新的な技術が開発されれば、計測した後の作業までAIが一気通貫で行えるようになるかもしれません。計測技術とAIのこれからの動向に注目していきたいところです。