ローカル5Gは特定のエリアで専用の5Gネットワークを構築する技術で、その柔軟性や高いセキュリティ性能のため、さまざまな産業で活用が進んでいます。本記事では、ローカル5Gの基本的な概要、市場動向、そして最新の技術や応用例について解説します。
ローカル5Gは、特定エリア内で高品質かつ安定した通信環境を提供する専用の5Gネットワークです。企業や自治体が独自にネットワークを構築できる点が特徴で、製造現場での生産ライン自動化やスタジアムでの映像配信、医療分野での遠隔診療など、多岐にわたる用途に利用されています。公共の通信ネットワークと比べると、ローカル5Gには不正アクセスの防止や通信の混雑回避といったメリットがあります。
2020年にローカル5Gの商用サービスが開始されて以来、さまざまな実証実験が行われていますが、商用利用への完全移行はまだ限定的です。現在の課題として、適切な事業領域を見つけることや普及促進のための条件整備が挙げられます。今後、中小企業や小規模プロジェクトへの導入が市場拡大の鍵を握ると考えられています。
現在、ローカル5Gは概念実証段階の案件が多いですが、2025年度以降にはさらなる市場の成長が予測されています。また、ローカル5Gの課題を解決する方向性として、プライベート5Gに注目が集まっています。
ローカル5G市場は、2025年度以降に大きな成長が期待されています。矢野経済研究所が2024年2月28日に発表した調査によると、2023年度の市場規模は約63億円と推定され、概念実証(PoC)の段階から実装へと移行するプロジェクトが増加しています。そして2030年度には市場規模が約558億円に達すると予測されています。
ローカル5Gは、リアルタイムの遠隔モニタリングや自動化、データを活用した予測や予防が主流です。また、複数の企業や団体が共同で回線を利用できる共有型、レンタル型やサブスクリプション型といったローカル5Gソリューションも登場しています。ほかにも、利用用途を特化することで運用コストを削減するようなビジネスモデルが提案されています。
ローカル5G活用の方向性の一つとして、プライベート5Gが注目されています。これは、移動体通信事業者がセルラー5G回線を使い、必要な帯域で5Gネットワークを提供するマネージドサービスです。プライベート5Gを利用すると、ユーザーである企業や自治体が無線局免許を取得しなくとも、専用の5Gネットワークを構築できます。建物内の基地局設備の設置や保守作業は通信事業者が請け負うため、ローカル5Gの課題となっている導入コストや運用の負担を軽減できます。この仕組みは、中小企業にも魅力的な選択肢となり得ます。
近年は、山間部や建設現場、海上など、これまで導入が困難であった場所へローカル5Gを導入するソリューションが登場しています。
NTT東日本が展開する「ギガらく5G」シリーズは、ローカル5Gの普及を後押ししています。2024年10月に提供開始した「ギガらく5G セレクト」は、コンパクトな基地局を採用しており、山間部や建設現場といったこれまで導入が困難であった場所にも容易に設置可能です。
さらに、衛星通信にも対応しているため、携帯電話の電波が届かない地域でもローカル5Gが利用可能です。iPhoneやiPadの使用が可能になるなど端末の対応が柔軟で、幅広い用途への適用が期待されています。
また「海上ローカル5G」も注目を集めています。この技術では、陸地から12海里内の領海エリアで利用可能な通信環境を提供します。陸上の基地局から海上へ電波を発射する、海上の構造物上に基地局を設置して電波を発射するという2通りの形態があります。
海上ローカル5Gは、洋上風力発電や養殖場の点検作業といった用途が想定されています。例えば、ドローンを活用した空撮映像をリアルタイムで無線伝送することにより、手作業の点検やデータを持ち帰って分析するプロセスを効率化できます。これにより、海上設備での運用コスト削減や効率化に加えて、海上産業全体の競争力向上が期待されています。
ローカル5Gは、産業や社会のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する重要な通信インフラとして位置付けられています。特に2025年度以降は市場の本格的な拡大が見込まれ、プライベート5Gとの併存によってさらに多様なソリューションが展開されると期待されています。今後、企業が自社の課題を解決しDXを推進するためには、どのようにローカル5Gを活用するかが大きな鍵を握るでしょう。