近年、デジタル化が急速に進んだことで、世界中でデータ量が急増しています。データ量が増えるとデータセンターなどの消費電力が課題となりますが、その解決に役立つと期待されているのが「光電融合技術」です。本記事では、期待の新技術である光電融合技術の概要や求められる背景に加え、最新の開発動向などを解説します。
光電融合技術は、電気信号ベースの回路と光信号ベースの回路を融合し、同じ回路内で双方の信号を混在させながら最適な形で処理する技術です。従来のコンピューターは回路に流す電気のオン・オフを切り替えることで演算を行いますが、電気が回路を流れる際に熱が発生し、エネルギーが逃げてしまうという問題がありました。また、熱が発生すると回路の抵抗が大きくなり、演算速度が遅くなる原因にもなります。
一方、光は電気に比べて発熱によるエネルギーのロスが少なく、演算速度の遅延も起きにくいというメリットがあります。そこで、従来は電気で行っていた計算を光によるものに置き換える研究が進められているのです。光電融合技術の実現によって、演算速度の高速化や消費電力の低減、大容量かつ高品質な通信インフラの実現が目指されています。
昨今ではクラウドやAIが急速に普及していますが、その背景には半導体技術の発達とデータセンターの存在があります。私たちがクラウドやAIを活用するとデータセンター内のサーバーで半導体による演算処理が行われますが、それに伴う消費電力は莫大なものです。国立研究開発法人科学技術振興機構が2022年に発表した提案書 によると、世界のデータ量は2030年には現在の30倍以上、2050年には4,000倍に達すると見込まれており、現在の技術のまま省エネルギー対策がなされない場合、2030年にはデータセンターだけで年間3,000TWh、2050年には400PWhという膨大な消費電力が予想されています。
昨今では地球温暖化を防ぐための脱炭素化が推進されていますが、デジタル化による利便性の向上も犠牲にするわけにはいきません。そのため、消費電力をいかに抑えていくかがデータセンターにおける重要な課題となっています。このような背景から、光電融合技術のような新しい省エネルギー対策が求められているのです。
光電融合技術は世界中で開発が進められています。2025年1月時点での最新の開発動向を主要な国別にご紹介します。
アメリカでは、IntelやIBMといった大手IT企業が光電融合技術の研究開発を進めています。光電融合の基盤技術と言われているシリコンフォトニクス(シリコン半導体の製造技術を用いてシリコンウエハ上に光の回路を構築する技術)の特許出願数はアメリカが最も多く、その後に中国、台湾、韓国、日本が続きます。アメリカの中ではIntelの特許出願数が最も多いとされており、活発に研究が進められていることが分かるでしょう。
直近では、2024年12月にIBMが光電融合技術の一種である光パッケージング技術「Co-Packaged Optics(CPO)」の新しいプロセスを開発したというニュースリリースを出しています。その技術をデータセンターに導入することで、従来の電気ベースの回路に比べて消費電力が1/5以下になり、最大5倍高速でAIによる学習のパフォーマンス向上を図れるということです。
半導体関連の企業が多い台湾では、TSMCなどが提唱した光電融合に関するアライアンス「SEMI Silicon Photonics Industry Alliance(SiPhIA)」が2024年9月に設立され、30以上の企業や研究機関が参画したという発表がありました。このアライアンスでは研究・IC設計・IC製造・封止・検査から、光通信・製造装置・最終製品を扱う企業まで網羅されており、知識や資源・技術を共有しながら台湾でシリコンフォトニクスのエコシステムを構築することを目指しているといいます。
台湾は半導体産業において強固なサプライチェーンを構築しており、技術面でも世界をリードする立場にあります。そのため、半導体製造技術を応用する形となるシリコンフォトニクスの領域においても、強い存在感を放っていくと考えられます。
日本ではNTTが1960年代から光通信技術を蓄積しており、現在では次世代情報通信基盤であるIOWN(アイオン)構想を打ち出しています。IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)は、情報通信システムの内部を電気信号ベースから光信号ベースへと置き換えることで新たな進化の筋道を切り開く構想であり、その基盤技術の一つが光電融合です。
2024年12月には、同社の光電融合デバイスが大規模クラウド事業者から採用されることを目指すという発表がありました。2026年をめどに消費電力を従来に比べて1/8にしたサーバーの商用化を見込んでおり、2025年には光電融合デバイスのサンプルを出荷してパートナー企業が評価できるようにするとのことです。
今後、私たちの社会が環境問題への対応とデジタル化を両立していくには、光電融合技術のような新しい技術が必要不可欠になっています。光電融合技術の研究開発については世界中で競争が激化していますが、ここで優位に立てれば日本の半導体産業の存在感が再び増すことになるでしょう。