インバーターの性能を最大限に引き出すために欠かせない技術として、PWM制御(パルス幅変調)があります。PWM制御は、モーター制御や電力変換の効率向上において重要な役割を果たします。本記事では、PWM制御の基本的な仕組み、利点と課題、さらにほかの制御方式との違いについて解説します。
PWM制御は、矩形波のパルス幅を変化させることで出力電圧や電流を調整し、精密な波形制御を可能にします。三角波比較方式を用いてスイッチング素子をON/OFFし、パルス幅を制御します。
PWM制御(Pulse Width Modulation)は、矩形波のパルス幅を調整することで、波形の平均値を変化させ、目的とする出力波形を生成する技術です。インバーターの場合、出力電圧または電流の矩形波のパルス幅を動的に変化させて平均電圧や電流を調整し、目的の波形に近付けます。この仕組みにより、精密な波形制御が可能となり、効率的なモーター制御や安定した電力供給が実現します。
PWM制御はFETなどのスイッチング素子を高速でON/OFFして実現します。スイッチングのタイミングを調整することで、出力波形を滑らかな交流波形に近付けられるため、さまざまな電力制御に利用されています。
PWM制御の具体的な仕組みとして、「三角波比較方式」がよく使用されます。この方式では、基準となる三角波(キャリア)と、目的とする波形(変調波)を比較します。変調波が三角波より高い場合にスイッチング素子をONにすることで、矩形波を生成します。この矩形波をインバーターの出力回路でリアクトルやコンデンサを使って平滑化することで、滑らかな交流波形が得られます。
例えば、正弦波を生成する場合、波形の山の部分ではON時間を長くし、谷の部分ではON時間を短くすることで、波形の形状を調整します。こうして目的の波形に近い高品質な出力が可能となります。
PWM制御の利点は、精密な波形制御によりモーターの回転数やトルクを細かく調整できることです。一方で、スイッチング時に発生するノイズや漏れ電流が課題となります。
PWM制御の最大の利点は、効率的な電力制御が可能である点です。矩形波の平均値を精密に調整できるため、モーターの回転数やトルクをきめ細かく制御できます。また、安定した電圧を生成するレギュレータの場合、PWM制御は一定の周波数で動作するため、発生するノイズの周波数が予測しやすく、ノイズ対策が比較的容易です。
さらに、生成した波形のギザギザした部分であるリップル電圧を小さくできるほか、負荷変動に対する応答性が高い点も利点です。これにより、モーターや電源回路の性能を安定的に維持できます。
PWM制御では、スイッチング素子を高速でON/OFFする際に電気的ノイズが発生します。特にキャリア周波数を高くすると、外部に放射されるノイズが増加し、周辺機器への干渉が生じる可能性があります。また、放射ノイズに対する規制への対応も必要です。
さらに、スイッチング素子のON/OFF動作時には瞬間的な漏れ電流が発生し、エネルギー消費を引き起こします。負荷が軽い状況でも余分なエネルギーを消費してしまい、全体のエネルギー効率が低下するという課題があります。
インバーターの制御方式としてはPWM制御のほかには、電圧の振幅を調整するPAM制御や、スイッチングの周期を変えるPFM制御があります。用途に応じて適切な制御方式を選定することが重要です。
PAM制御(Pulse Amplitude Modulation)は、電圧の振幅を直接調整する方式です。PWM制御の供給電圧は一定でしたが、PAM制御では供給電圧の振幅そのものを変化させて任意の出力波形を生成します。PAM制御はスイッチング損失が少なく高効率ですが、PWM制御に比べて回路設計が複雑で、回路素子が多く必要となるため、コストが高くなる傾向があります。
PFM制御(Pulse Frequency Modulation)は、スイッチングの周波数を変化させる方式です。負荷が軽い場合にはスイッチング回数が減少するため、スイッチング損失が低減し、エネルギー効率が向上します。ただし、PFM制御は周波数が一定ではないため、スイッチングノイズの発生が不規則になり、対策が難しくなります。また、20kHz以下の可聴域ノイズが発生する可能性があり、用途が限定される場合があります。
PWM制御は、柔軟かつ精密な電圧電流制御を実現できるため、モーター制御や電力変換の分野で広く採用されています。高い効率性と応答性を兼ね備えており、ほかの制御方式と比較してもコストやノイズ対策で優位性があります。PWM制御の性質を理解した上で、インバーターの性能を最大限に引き出す活用方法を探ってみると良いでしょう。