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半導体供給網の強靭化を進めるデンソー

レンテックインサイト編集部

測定器 Insight 半導体供給網の強靭化を進めるデンソー

 株式会社デンソーは、自動車技術、システム、製品を世界の主要な自動車メーカーに提供する自動車部品メーカーとして知られますが、自動車の電子化を担う半導体の内製にいち早く取り組むなど、半導体に関する技術も優れています。1968年設立のIC研究室にルーツを持ち、半導体を含む先進デバイス事業(パワーカードやメカ系製品を含む)の2023年度の売上高は、前年度比17%増の4240億円でした(後述の内製半導体とはカウントが異なります)。半導体製品は約50%が半導体センサーで、残りのうちASICとパワーモジュールがほぼ半々。ASICとパワーモジュールはほぼ社内向けですが、センサーはOEMへの直接供給が多いことが特徴です。

 2018年4月には組織再編を行い、これまで各事業部門に分散していたECU、半導体・センサー開発部門を集約しました。これに続き、2019年7月1日付でセンサ&セミコンダクタ事業部を事業グループとして格上げしました。グループ内にセンサ事業部(後にセンシングシステム事業部に改称)、セミコンダクタ事業部を置く体制とし、それぞれの戦略立案、意思決定スピードの加速化を図ります。さらに2022年1月1日付で上記二つの事業部とメカトロニクスシステム事業部を合わせて先進デバイス事業グループを新設しました。

内製と外部生産をミックス

 デンソーは半導体内製で約50年の実績を持ち、自社拠点としては、大安製作所(三重県いなべ市)や幸田製作所(愛知県幸田町)のほか、2012年に取得した富士通セミコンダクターの岩手工場(岩手県金ケ崎町、現在のデンソー岩手)、2020年にトヨタ自動車が取得した広瀬工場(愛知県豊田市)などがあります。幸田製作所は敷地面積が28万3000㎡で、6インチウエハー対応の「705工場」と8インチウエハー対応の「706工場」があります。自社製品に使用するため外販はしていませんが、売り上げに換算すると2020年に車載半導体でトップ5位に相当する規模だといいます。

 2022年4月にはUMCの日本拠点であるユナイテッド・セミコンダクター・ジャパン株式会社(USJC)と車載IGBTの生産で協業すると発表しました。USJCの三重工場(三重県桑名市)の300mmウエハーラインで、2023年5月からIGBTの量産出荷を開始しました。300mmウエハーによるIGBTの生産は国内初。世界的な電動車の開発、普及が進む中で、車載半導体の需要も急速に高まっています。中でもIGBTは電動車のモーターを駆動、制御するために直流・交流電流を変換するインバーターにおいて、電源・電流のオンオフを切り替える機能を持つパワーカードに用いられる中核デバイスです。デンソーのシステム目線でのIGBTデバイスおよびプロセス技術と、USJCの300mmラインの製造技術を融合して高性能かつコスト効率の高いパワーデバイスの生産を目指しています。なお、両社の取り組みは経済産業省の半導体製造補助金に採択されています。

 2023年12月、トヨタら自動車メーカーやソシオネクスト、ルネサス エレクトロニクスなどの半導体メーカー12社で構成される「自動車用先端SoC技術研究組合」(ASRA)が発足し、デンソーも電装部品メーカーとして参画しました(2024年7月現在では14社が参加)。チップレット技術を適用した自動車用SoCを研究開発し、2030年以降の量産車へ搭載することを目指しています。

 ASRAへの参画についてデンソーは、上位のアーキテクチャー設計まで自社で手がけていく方向性を志向しており、自動車業界専用の共通仕様化を目指しています。専用SoCを実現することで性能とコストの最適化を図る狙いです。具体的な開発対象として、セントラルコンピューティング向けの最上位のSoCを挙げています。ゾーンコントロール以下のSoC、MCUは各半導体メーカーの、制御用は車載用MCU メーカーの領域であると想定しています。

 2022年2月にはTSMC が熊本県に整備する新工場の運用子会社、Japan Advanced Semiconductor Manufacturing(JASM)に約400億円を出資すると発表しました。約10%超の株式を取得し、車載半導体の中長期的な安定調達を目指しています。

 JASMはTSMCが株式の過半を所有し、ソニーセミコンダクターソリューションズ株式会社も出資しています。新工場は2024年末からの生産を開始。すでに公表している22/28nmプロセスに加え、12/16nm FinFETプロセスも導入する計画で、月産能力は300mmウエハーで5万5000枚です。また第2工場も計画し、2024年末に着工して2027年末までの稼働を目指しています。デンソーは当面マイコンへの28nmプロセス利用を想定しているもようですが、必要に応じてそれ以下のプロセスも活用が見込まれています。

富士電機やロームと連携

 2024年11月、富士電機と、国内でのSiCパワー半導体の安定供給体制構築で協業する方針を発表しました。「半導体の供給確保計画」を経済産業省に共同で申請し、認定されたもので、想定事業総額2116億円のうち最大で705億円の助成を得る予定です。デンソーは本件で、両社がSiCパワー半導体に関する投資・製造連携を行い、供給基盤を整備・強化するもの。国の特定重要物資に該当するSiCパワー半導体、SiCエピタキシャルウエハー、SiCウエハーの日本国内での生産能力強化を図り、安定供給体制を構築します。具体的には、SiCウエハーをデンソーの大安製作所、SiCエピタキシャルウエハーをデンソーの幸田製作所と富士電機の松本製作所(長野県松本市)、SiCパワー半導体を富士電機の松本製作所が担い、それぞれ生産増強を行います。

 デンソーの大安製作所、幸田製作所では2026年9月からの供給開始を計画。生産能力として、前者は8インチ換算で年産6万枚、後者は同10万枚を予定しています。一方、富士電機の松本製作所は2027年5月からの供給開始を予定し、SiCエピタキシャルウエハーは同24万枚、SiCパワー半導体は同31万枚の生産能力を構築します。

 デンソーはSiCパワー半導体に関し、研究開発を担うミライズテクノロジーズとともに、従来から独自のガス成長法を用いたSiC単結晶製造からウエハーや素子、モジュールからインバーターまで一貫内製で、高品質・高効率を実現するための技術を総合的に開発してきました。この蓄積・知見を活かし、大安製作所、幸田製作所に新たに生産体制を構築していく考えです。詳細な投資内容および金額は経産省の計画認定を受けて今後、急ピッチで詰めていくものとみられます。

 一方、富士電機もSiCパワー半導体でSiCエピタキシャルウエハーから素子開発・量産まで一貫生産体制を構築し、すでに量産しています。SiC MOSFETは、第3世代品の開発にも着手しているもようです。SiCパワー半導体では富士電機津軽セミコンダクタ(青森県)を主力拠点とすべく増産投資を進め、2023年夏ごろから試作を開始し、2024年度内から量産を開始しています。また、助成対象となる前工程マザー拠点の松本製作所でもSiC生産を行っており、次世代SiC開発も進めています。認定により、SiCパワー半導体で主力の津軽に加え、松本でも量産体制が整います。

 2024年9月には、ロームと半導体分野における戦略的パートナーシップの検討を開始しました。本件に際してデンソーはロームの一部株式を取得。本パートナーシップは、特定の分野や製品に限定するものではないとしており、自動車の電動化、自動運転、コネクテッドといった車載分野の技術革新および安定供給に向けて協業の内容を詰めています。

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