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先端後工程技術への投資が拡大

レンテックインサイト編集部

測定器 Insight 先端後工程技術への投資が拡大

 2023年に続き、2024年もAI関連の開発や投資が半導体需要の大きな牽引役となりました。AI半導体で大きなシェアを持つエヌビディアの業績が拡大を続け、エヌビディアの時価総額は2024年6月に世界1位となるほどの影響を生み出しました。そして、エヌビディアの高性能AI半導体などに使用されているパッケージング技術として需要が拡大しているのが、TSMCのCoWoS(Chip on Wafer on Substrate)です。

 CoWoSはパッケージ基板の上にシリコンインターポーザーを配置し、シリコンインターポーザー上に複数のシリコンダイを近接して並べて配置したあと、シリコンダイとシリコンインターポーザーをマイクロバンプによって接続し、シリコンインターポーザーの表面と裏面はTSV(シリコン貫通ビア)によって接続。さらに、シリコンインターポーザーの裏面とパッケージ基板をバンプによって接続して、シリコンダイの相互接続の配線長を抑えることでパフォーマンスを向上させる手法です。

 エヌビディアは先端AI半導体の製造に関して、全量をTSMCに委託しているとみられ、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは「TSMCはワールドクラスだ。技術、スピード、サービスがいずれも素晴らしく、非常に特別な企業である」と述べるなど全幅の信頼を置いています。

 AI半導体市場の拡大に合わせ、TSMCはCoWoSなど先端パッケージの増強投資を積極的に進めており、2024年にCoWoSのキャパシティーは前年比で約2倍に達したとみられています。そして2025年も2024年比で倍増という積極的な投資を行う考えで、2025年末には月産10万枚を超える生産規模に達するとみられます。また、TSMCは台南エリアでイノラックスのG5.5液晶工場の土地ならびに設備を取得する契約(費用は171億台湾ドル)を2024年8月に締結しており、CoWoSなどの先端パッケージの増強に同工場を活用するとみられています。

ディスプレイ工場を活用

 TSMCによるイノラックスの工場の取得のように、半導体関連メーカーがディスプレイ工場を活用し、後工程に関する取り組みを強化する動きが日本でも出てきています。2024年7月には独立系OSATのアオイ電子が、シャープおよび同社子会社のシャープディスプレイテクノロジーと連携し、シャープの三重事業所(三重県多気町)に、半導体先端パッケージ生産ラインを構築することで基本合意しました。三重事業所は中小型液晶の生産拠点で、第1~第3工場で構成されますが、生産は第3工場に集約されており、第2工場は開発ライン、第1工場は空きスペースとなっています。アオイ電子は第1工場(延べ床面積約6万㎡)を使用し、先端パッケージニーズに対応したFOLP(Fan-out Laminate Package)を生産。チップレット集積パッケージやチップ埋め込み型パッケージ、5G/6G/ADAS用高周波パッケージを供給する予定です。2026年内の本格稼働を目指しており、生産能力は月2万枚を計画しています。

 FCBGAなどパッケージ基板を手がけるTOPPANは、有機ELディスプレイを手がけていたJOLEDの能美事業所(石川県能美市)の土地と建物を2023年11月に取得。設置済みのクリーンルームを活用して、次世代パッケージ基板の生産・開発を行う方針であり、有機RDLインターポーザーも候補に挙がっています。

 先端ファンドリー事業を目指すRapidusも、北海道千歳市で建設中の工場「IIM-1」(イームワン)の隣接地にあるセイコーエプソンの千歳事業所において、一部スペースを活用して半導体後工程の研究開発拠点「Rapidus Chiplet Solutions」(RCS)を整備しています。Rapidusは、RCSにおいて「2nm世代半導体のチップレットパッケージ設計・製造技術開発」をテーマに、装置の自動化なども含めた量産技術の研究開発を行う予定です。RCSのクリーンルーム面積は約9000㎡を計画しており、FCBGAプロセス、シリコンインターポーザープロセス、RDLプロセス、ハイブリッドボンディングプロセスに対応したパイロットラインを設置します。2025年4月から製造装置の導入を開始し、26年4月をめどに研究開発活動を開始する予定です。

米国でもCoWoSの供給体制を整備

 OSAT大手のアムコー・テクノロジー(米アリゾナ州)は、台湾TSMCと、米アリゾナ州内におけるパートナーシップを拡大し、先端パッケージング分野で協力体制を強化しています。アムコーのアリゾナ新拠点に高度なパッケージング機能やテスト機能を導入し、アリゾナ地域における半導体製造機能をさらに拡大します。

 現在、アムコーはアリゾナ州ピオリアにおいて先端パッケージング工場を建設しています。約22万㎡の用地に、約4.6万㎡のクリーンルームを備えた工場を建設する計画で、第1フェーズの稼働は2027年ごろ、第2フェーズの稼働は2034年ごろを予定。米国国内での半導体関連の製造や研究を支援する「CHIPS法」の支援対象にも選ばれており、商務省から最大4億ドルの助成ならびに最大2億ドルの融資を受けます。

 同じアリゾナ州では、フェニックス地域においてTSMCも工場を建設しており、第1棟(4nm世代で月産2万枚の生産ラインを予定)が2025年前半から稼働予定。第2棟(3nm世代および次世代のナノシートトランジスタを備えた最先端の2nm世代の生産ラインを予定)の建設も進んでおり、2028年の生産開始を予定しています。また、第3棟(2nm世代およびそれ以降の生産ラインを予定)の建設も計画しており、2030年までの生産開始を目指しています。

 こうした中、アムコーの新工場はTSMCの新工場とシームレスな技術連携を行う方針を以前より示しており、高度なパッケージングやテストにおける技術提供などで協力体制をさらに強化します。具体的には、InFO(Integrated Fan Out)やCoWoSといったTSMCの先端パッケージング技術に対応できる設備をアムコーの新工場内に導入。TSMCはこれらのサービスを活用し、フェニックス新工場を活用する顧客をサポートします。

 TSMCは「当社の顧客は、先進的なモバイルアプリケーション、AI、HPCにおける飛躍的な進歩のために、先進的なパッケージング技術への依存度を高めており、信頼できる長年の戦略的パートナーであるアムコーと協力し、より多様な製造拠点で顧客をサポートできることを喜ばしく思う。フェニックスにある当社のファブの価値を最大化し、米国の顧客により包括的なサービスを提供するため、ピオリアの施設でアムコーと緊密に協力していくことを楽しみにしている」としています。

日本でも企業組合が発足

 後工程の自動化に関しては、日本でも2024年4月に「半導体後工程自動化・標準化技術研究組合」(SATAS=サタス)が設立されました。文字どおり半導体製造の後工程を完全自動化することを目的に設立された団体で、アオイ電子、Intel Corporation、インテル、オムロン、化研テック、産業技術総合研究所、シャープ、信越ポリマー、シンフォニアテクノロジー、セミ・ジャパン、ダイフク、TDK、伯東、平田機工、FUJI、三菱総合研究所、ミナミ、ミライアル、村田機械、ヤマハ発動機、レゾナック・ホールディングス、ローツェが参画しています。

 主要テーマとして「自動搬送・保管システム」「キャリア&トレイ」「パイロットライン」など6項目を設定し、テーマごとにワーキンググループを設置。組立・検査工程を含むオープンな業界標準仕様の作成、装置の開発と実装、統合されたパイロットラインでの装置検証などを行い、2028年の実用化を目指しています。2024年11月には、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/先端半導体製造技術の開発(委託)」の公募に対し、「半導体後工程自動化・標準化の開発・実証に関する研究開発」を提案し、委託先として採択されました。

 AI半導体において複数個実装されるHBMの需要も拡大しています。HBMでシェアを拡大しているのがSKハイニックスで、同社は2024年7~9月期の業績が四半期ベースで過去最高を記録し、HBMの売上高は前四半期比では70%増、前年同期比では4.3倍となるなど業績の牽引役となっています。そして生産面では増産を積極的に進めており、韓国・清州にある「M15」ラインでは、2階部分はHBM向けのTSV加工ラインとして立ち上げを進めています。また、M15に隣接する「M15X」についても、DRAMの生産拠点として、前工程、HBM後工程双方に対応した一貫ラインとしての立ち上げを計画しています。同ラインは2024年4月末から工事に着手しており、2025年11月の竣工を予定。総投資額は約5.3兆ウォンを見込んでいます。

 また、SKハイニックスは、TSMCとHBM領域の技術開発で連携する方針も示しています。まずは、HBMパッケージの最下部に搭載されるベースダイの性能向上に注力。SKハイニックスは、最新規格の「HBM3E」までは、ベースダイの製造に独自の技術を採用してきましたが、次世代規格「HBM4」のベースダイにはTSMCの先進ロジックプロセスを採用する予定で、2026年から量産が予定されているHBM4の性能向上を目指しています。SKハイニックスは、TSMCと連携することで、顧客の幅広い要求を満たすカスタマイズされたHBMの製造にも対応しやすくなるとみています。また両社は、SKハイニックスのHBMとTSMCのCoWoS技術の統合を最適化する技術についても協力します。

 韓国企業ではサムスン電子が、韓国忠清南道と半導体パッケージ工程に関する設備投資についてMOU(了解覚書)を2024年11月に締結しました。サムスンディスプレイの韓国・天安産業団地の工場を活用し、HBM向けパッケージング設備を構築するもので2027年12月までに設備を設置し、HBMなどを生産する計画です。サムスン電子は、HBMファンドリーに関してTSMCと協力する可能性も言及されており、今後サムスン電子が採用するTC-NCF(Thermal Compression Non Conductive Film)とハイブリッドボンディング技術が、HBM競争の格差を縮める重要な要素になるとみています。

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