近年、半導体市場が注目されており、特に熊本県に工場を整備したTSMCや、北海道千歳市で工場を整備しているRapidusなどに関心が集まっています。TSMCやRapidusはファンドリーと呼ばれ、半導体前工程(ウエハー上に微細な回路を形成する工程)の受託製造を行う企業です。そして、ファンドリーと対をなし、半導体後工程(組立やテスト)の受託製造を行うのがOSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)であり、そのOSATで世界トップの企業が台湾のASEです。エンジニアリングテスト、パッケージ設計、組立、ウエハープローブ、最終試験、設計製造サービスを提供しており、台湾、韓国、日本、シンガポール、マレーシア、中国、メキシコ、米州、欧州に拠点を置き、約9万人の従業員を擁します。
直近では、ASE傘下で北米を拠点にテストエンジニアリングサービスなどを展開するISE Labs社が米カリフォルニア州サンノゼに新拠点を開設し、2024年7月にオープニングセレモニーを開催しました。大手顧客が集中する北米拠点で、信頼性試験などのテスト体制を拡充することが狙いです。同社は米フリーモントにもラボ施設を有しており、サンノゼの新施設をあわせるとラボスペースと事業スペースは約2倍に拡張されました。サンノゼの新施設では、環境試験や故障解析、バーンイン試験などの信頼性向上に主眼を置いたテストエンジニアリングサービスなどを展開。また、フリーモントの既存施設もテスターのプログラム開発やテストハードウエア設計、ウエハープローブ、システムレベルテストなどテスト機能の強化を図っています。
ASEは2024年6月、半導体大手のインフィニオンテクノロジーズが所有するフィリピンと韓国の後工程工場を取得しました。取得した2工場は、インフィニオンテクノロジーズ・マニュファクチャリング社フィリピンブランチ(カビテ)およびインフィニオンテクノロジーズ・パワーセミテック社(天安)がそれぞれ運営する拠点で、前者はASE、後者はASE Koreaが取得しました。ASEは買収完了後、両工場の従業員や運営手法を引き継ぎ、顧客をサポートするための開発や改善を進めています。ASEとインフィニオンは長期供給契約も締結しており、インフィニオンは両拠点における既存顧客層への製品供給、サポート、各種サービスの提供に関し、ASE を通じて継続的に行っています。
一方、中国の上海市、蘇州市、威海市で展開している半導体の組立・検査工場の4拠点を中国の投資会社に売却しました。売却先は中国のプライベート・エクイティ・ファンドのワイズロードキャピタル(智路資産管理、北京市)とそのグループ会社で、売却額は14.6億元(約261億円)。ASEは工場の売却資金で、台湾における先端パッケージ技術の開発と生産体制の増強を進めています。
日本国内の工場としては、山形県にASEジャパン株式会社を所有しています。生産規模などはASEがアジアに展開する工場に比べて劣りますが、超小型パッケージを量産展開するなど、グループの中でも独自の存在感を放っています。工場の設立は1964年と古く、当時はNEC山形として半導体後工程の生産を開始。その後、2004年にASEグループに仲間入りしました。ASEグループの傘下となったあと、ASEはOSAT企業の最大手に浮上していき、ASEジャパンも生産規模は小さいながらも、グループの発展に大きく寄与しました。
ASEジャパンとしては2013年に東芝から買収した中国・無錫工場も管轄内に入っており、同工場ではリードフレームパッケージを中心に生産をしています。そして現在、ASE ジャパンでは車載品をメインに生産を展開。SOPやQFPなどが主力パッケージで、コンシューマー市場向けに一部BGAなども生産していますが、これらは生産量が年々減少傾向にあります。
ASEグループは、台湾の高雄/中壢、中国・上海などに巨大な後工程工場を有しており、スケールメリットが重要な半導体後工程において、ASE ジャパンは大きなビハインドを背負っていると言ってよいでしょう。しかし、ASE ジャパンではこうした逆境を跳ね返すべく、積極的な取り組みを見せています。その一つが、ASEジャパン発で独自パッケージを生み出すことです。現在、同工場では1mm角を切る超小型パッケージを量産しており、「グループ内でもこの超小型サイズを量産できるのはASEジャパンだけ」と自負しており、今や金額ベースで約4割を占める主力生産品目に成長しています。
ASEジャパンが2016年に量産を開始したQFN タイプの超小型パッケージは、スマートフォンなどのモバイル機器に搭載されています。この超小型パッケージの量産にあたっては、米粒よりも小さいパッケージを扱うため、装置間の搬送にロボットを用いるなど独自の生産コンセプトを導入。特筆すべきは、どの設備が今空いているかを把握し、実際に装置までチップを搬送するという「装置アロケーション」を各装置の生産情報に基づいてプログラムで制御している点です。これにより大幅な省人化が図れるとして、工場内ではオリジナルの搬送ロボットがガイドなしで、所狭しと動いています。
さらに、高いトレーサビリティーを実現していることも大きな特徴です。一般的に、半導体後工程ではウエハー単位でロット管理を行いますが、超小型パッケージの生産にあたっては顧客からの要求により、パッケージ単位でロット管理を行っています。このため、リードフレームに2次元バーコードを打ち込み、座標軸による管理が行われています。不良品を座標軸によって把握し、累積不良を最終工程でふるい落とすことで高い品質レベルを維持することに成功しています。
当初、この超小型パッケージは限られたニッチマーケットと認識していましたが、「事業を立ち上げていく中で、予想以上に需要があることを知った」(ASEジャパン)というように、立ち上げ以降フル稼働を続けています。
2024年7月にはASEジャパン株式会社が、北九州市内にある市有地を取得する仮契約を北九州市と締結しました。ASEジャパンと北九州市は協議を進め、本契約に向けた取り組みを進めています。仮契約が締結された用地は、北九州市若松区にある「北九州学術研究都市」内の市有地約16万㎡で、取得額は34億1500万円を予定。北九州市は、仮契約について、北九州市への進出に向けた交渉過程としており、北九州市の武内和久市長は「まだ事業計画などは現時点ではお答えできないが、現在北九州市内には半導体関連企業が約100社立地をしており、これにASEジャパンという存在が加われば、『シリコンシティ北九州』の構築に向けた動きが飛躍的に加速することが期待される」としました。