測定器 Insight

いまさら聞けない、計測器・測定器の「校正」

レンテックインサイト編集部

計測器や測定器における「校正」とは、機器の精度や機能、動作を“確認”することを指します。 正確な測定を行うためには、定期的な校正によって、測定器が持つ特性を正しく把握しておくことが必要です。 今回は、測定器の校正の意味やあり方、重要性などについて詳しくご紹介します。

使い続けると、必ず生じる「器差」

計測器や測定器は、さまざまな種類の精密部品で構成されており、それらの部品は気温や湿度など、環境の変化により、わずかに膨張や縮小が見られることがあります。 こうした微少な変形の積み重ねは、経年変化として測定に影響を与え、測定結果に本来の値とは異なる「誤差」として表れます。
この誤差は日本工業規格(JIS)の計測用語で「器差」と呼ばれ、「JIS Z 8103」では「測定器が示す値から、示すべき真の値を引いた値」「標準器の公称値から真の値を引いた値」と定義されています。 経年変化による器差の例として、「スペクトラム・アナライザ」を挙げると、内部基準周波数や絶対レベル、周波数応答などに影響を与えます。 また、室内と屋外の温湿度差や、コネクタの締め方や磨耗なども器差に影響を与えます。 こうした測定器の器差を把握しないまま測定を続けてしまうと、測定対象となる製品の品質や性能が維持できなくなるだけでなく、国が定める規格や規制に適合していることの証明もできなくなってしまいます。

校正とは、器差を知ることであり、機能を改善するものではない

測定器が示す値が本来の正しい値とどの程度ずれているのかをあらかじめ把握しておけば、測定結果の器差を加減して正確な値を知ることができます。 このような器差を調べることが、測定器における「校正」と呼ばれる作業です。 すなわち、校正とは測定器の正確さを知ることであり、その測定器で測定した製品の品質や性能を維持するためにも、とても重要な作業なのです。 器差によって生じる不具合や信用を失うリスクを避けるためにも、大きな意味を持っています。
校正は、「JIS Z 8103」による定義では、「計器または測定系の示す値、もしくは実量器または標準物質の表す値と、標準によって実現される値との間の関係を確定する一連の作業 (校正には、計器を調整して誤差を修正することは含まない)」とされています。 このように、測定器の校正とはあくまでも「現状を把握・確認」することであり、ずれを修正したり、機能を改善するといった修理やメンテナンスなどの概念は含まれていません。 したがって、校正を実施したからといって、測定器の精度や機能が向上するわけではなく、将来的に測定器の状態を保証するものでもないのです。

校正は定期的に行う

「ISO (International Organization for Standardization/国際標準化機構)」では、校正を実施する周期(校正期間や有効期限)は定められていないため、 測定器を常時使用して定期的に校正を実施する際には、機器単位で周期をあらかじめ決定し、それに従って適時校正を行います。 この周期を「校正周期」と呼びます。校正周期の決定は、各機器のメーカーが推奨している周期を基準とし、測定機器の使用頻度などから判断します。 ちなみに、多くの測定器メーカーは、一般的に年一回の校正を推奨しています。 校正を定期的に行うことで、その期間の測定器の状態を類推することができ、測定精度と機能確保に繋がります。

社内で校正を行うためには、「標準器」が必要

測定器の校正は外部の専門業者に依頼するケースが多いですが、自社内で実施することも可能です。 例えば、「マイクロメータ」のように機能が単純な測定器であれば、社内で実施しても多くの手間がかからないことが多いです。 マイクロメータの単位は1/1000mmなので、最小表示は0.001mmとなります。マイクロメータを校正するには、この精度を上回る「ブロックゲージ」と呼ばれる標準器が必要です。 ブロックゲージは1/10000mmの精度でできているため、マイクロメータの上位標準器として使用することが可能です。 ただし、上位標準器を日常的に実用測定器として使うことはできないことになっています。
定期的に公的機関で校正され、校正証明書をもらうなど国家標準にトレーサブルな状態のブロックゲージを使用し、社内校正の手順書が作成されていれば、校正を行う担当者に国家資格は必要ありません。 日本品質保証機構(JQA)では、「測定・校正」に関するセミナーを東京、名古屋、大阪、福岡で定期的に開催しています。 社内の校正担当者はそういったセミナーを受講することで、より校正に対する理解を深めることも大切です。

校正を実施と外部委託

測定室における室温などの環境条件は、使用する標準器によって異なります。 例えば、ブロックゲージなどの「長さ」の校正を実施する際の測定室の環境条件は「20℃」と定められています。 これは、測定室の室温だけでなく、ブロックゲージそのものの温度になります。 閉め切った室内であっても、室温により伸び縮みしたブロックゲージを使って校正を実施した場合、当然正しい校正値を得ることはできません。
「スペクトラム・アナライザ」など、社内での校正が難しい電子計測機器においては、校正サービスを行う外部の専門業者に依頼することになります。 校正を依頼する事業者の選定は、「JCSS(Japan Calibration Service System)」や、「A2LA(米国試験所認定協会)」などから認定を受けていることが前提です。 そのような事業者が発行した認定機関の校正証明書があれば、「ISO9001品質マネジメントシステム」の取得・更新のためにトレーサビリティ証明書や標準器類の体系図、 上位機関の校正証明書などの詳細な資料を用意する必要はなく、申請を効率化することが可能です。

計測器・測定器の校正は、企業にとって大変重要な事項です。 製品の不具合が企業やブランドに対する信頼を脅かすことのないよう、危機管理の一環として定期的・継続的に実施することが重要です。

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