測定器 Insight

現場で役立つ測定器の知識 第1回 接地抵抗の計測が必要な理由とは?

レンテックインサイト編集部

家電製品は通常、AC100V電源で動作します。 もし漏電が発生した場合、その電流が(A)のようにアース線を通って地面に流れれば重大事故を防げますが、 (B)のように人体を経由して流れてしまうと感電事故となります。この種の事故を防ぐためにはアースが重要です。

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図1:アース線は漏電による感電事故を防ぐ

アースが期待通りに働くためには「接地抵抗」が十分低くなければなりません。 接地抵抗とは、下記 Se~Ge間の抵抗Reです。Geは大地を巨大なコンデンサーと見なした場合の接続点であり、実際にはSe~Ge間に導線は存在しません。 家電製品~アース板の間はアース線で接続するため0Ωです。

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図2:接地抵抗は人体の抵抗よりも十分低くなければならない

接地抵抗が高いと感電事故を防げないため、Reは十分低くなければなりません。
人体の抵抗値 Rm は一般に 2000~6000Ω程度(皮膚が濡れていると小さくなる)です。 電気は「流れやすい方に多く流れる」性質があるため、 Reが大きいとその分、人体を流れる電流が増えてしまいます。 そこで、感電事故を防ぐためには Reが十分低い必要があります。 例えば電気事業法 電気設備技術基準によるD種(第3種)では100Ω以下であることが要求されています。

しかし、接地抵抗Reを計測するのは困難です。 Reを直接計測するためにはGeにテスターを接続しなければなりませんが、地中までリード線を伸ばすことはできないためです。

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図3:地中にはリード線を伸ばせないためReの計測は困難

接地抵抗の計測法

そこで、Reを計測するにはいくつかの工夫が必要になります。それぞれのメリット/デメリットを理解して使い分けましょう。

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現在、実用的に最も多く使われているのは電圧降下法であり、市販の接地抵抗計も多くがこの方法を採用しています。 しかし計測原理を理解するには単純分離法から見ていくと分かりやすいため、本記事では上記の順番で解説します。

【単純分離法】

最も単純な方法は、接地点Seから十分離れた場所にもう一つの補助接地点S2を作ってSe~S2間の抵抗を計測する方法で、これを単純分離法と呼んでおきます。 大地は巨大コンデンサーと見なせるためGe~G2間の抵抗は0Ωですので、この方法で Re+R2の合成抵抗を計測できます。 Reは少なくともこの合成抵抗より小さいと考えられるため、Reの上限はこの方法で推計できます。

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図4:単純分離法による計測の方法

ただしSe~S2の間は十分離れていなければなりません。 もし距離が近いとRe+R2ではなく、Se~S2を直接結んだ抵抗Re2が計測されてしまいます。 この数字はRe2<Reとなる場合があるためReの上限推計に役立ちません。

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図5:p1~p2間が近いとReを推計できない

単純分離法ではReそのものは計測できませんが、S2として商用電源ラインの接地点を使える場合など、R2が既知もしくは十分に低いことが明らかな場合は実用上十分な精度でReを推計することができます。

【三角分離法】

単純分離法で計測できるRe+R2でもある程度の目安にはなりますが、できればReそのものを計測したいところです。 そのための方法の一つが補助接地を二つ使い、大きな三角形状に計測点を構成する方法です。 本記事ではこれを三角分離法と呼んでおきますが、一般にはコウラッシュ・ブリッジ法と呼ばれています。 下記図中の Se-S2, S2-S3, S3-Se の間で計測した抵抗値 Re2, Re3, R23 を使って Re を算出します。

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図6:三角分離法の計測モデル

単純分離法と同様、3点の間隔は十分に離れていなければなりません。 敷地の形状によってはこのような補助接地点を取ることが難しい場合も多く、 一つの値を求めるのに計測を3回行うのも効率的とは言えないため、実際の現場では応用しづらく、 採用されることは少なくなっています。

【電圧降下法】

現在、実用的によく使われるのは電圧降下法と呼ばれる方法です。 この方法では補助接地を直線上に配置するため現場で接地点を確保しやすく、計測も1回で済むため最もポピュラーな計測法であり、市販の接地抵抗計も多くがこの方法を採用しています。 以下の図7が電圧降下法による計測のイメージです。

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図7:電圧降下法のイメージ

Seは接地抵抗を計測したい接地点、SpとScは補助接地点です。 通常、Seから10~20m離してSc、その中間にSpが来るように補助接地を取ります。 接地抵抗計の三つの端子E、P、CをそれぞれSe、Sp、Scに接続してE-C間に定電流源から電流を流し、E-P間の電圧を計測するとReを求めることができます。 この動作原理を回路図で表すと図8のようになります。

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図8:電圧降下法による接地抵抗の計測原理

定電流源から流れる電流Iは実際にはReを流れるIeと、端子E-P間の抵抗Rxを流れるIxに分かれます。 計測できる電圧Vxは実際には抵抗Rxを流れる電流Ixによる電圧降下分です。 しかしRxがReやRpよりも十分大きい場合、Ixは実用上無視できるためIe=IかつVx=Veとみなすことができます。 Iは定電流源ですから所与の値となるため、オームの法則により

Re = Ve/Ie = Vx / I

でReを計算できます。この方法ではIを明らかにするために定電流源を使用するのが一般的ですが、Iを計測で求める方法で行うこともできます。

電圧降下法を使用する際の注意点は
1) E-C間を十分離すこと(通常10~20m以上)
2) Pを両者の電気的中点の位置に打ち込むこと

の2点です。実際にPの位置をE-C間で動かしながら電位Vxを計測すると下図のように変化します。

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図9:P点の電位変化イメージ

つまりEに近い位置では接地抵抗Reと分離できず、Cに近い位置ではRcと分離できないためReの両端電圧Vxを正確に測定できません。 E-C間を十分離すことにより、その中間にPを打ち込めばReとRcを分離してVxを計測できるようになります。 この「十分離す」ために必要な距離が通常10~20m以上となります。

【高周波共振法】

これまで挙げた方法ではいずれも補助接地を必要としましたが、接地点の周囲が全面舗装されている場合など、補助接地が難しい場合もあります。 そこで補助接地を用いずに接地抵抗を計る方法の一つが高周波共振法です。

この方法では、補助電極を土中に打ち込む代わりに10~20m程度の電線を地上に這わせるだけで接地抵抗が求まります。

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図10:高周波共振法のイメージ

この方法は、

  • ・長い線を地上に這わせると線と地面との間でコンデンサ(C)が形成される
  • ・線材にはインダクタンス分(L)が存在する

という性質を利用します。

既知の抵抗(Ro)を通じて発振器(OSC)から1MHz程度の高周波信号をあたえると、等価回路は図11として表わすことができます。

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図11:図10の等価回路

このとき、発振器の周波数がCとLとで形成される直列共振回路の共振周波数と一致すると、CとLは打ち消されるので等価回路は<図12>の回路と同じになります。
従って、共振時の発振器出力電圧(Vosc)と端子電圧(Vout)を計測すれば、Roは既知ですからReを求めることができます。

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図12:共振時の等価回路

接地抵抗の計測は一見では原理的に不可能とも思えますが、工夫次第で計測できるようになるということをお分かりいただけたでしょうか。
電子計測器が発達したことで、さまざまな計測が簡単にできるようになりましたが、計測器に頼り切った計測は上手な計測とは言えません。
計測のやり方を工夫して、より正しい値を得ることが電子計測の妙味と言えるでしょう。

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