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世界的な「半導体不足」 その原因と今後の展開を考える

レンテックインサイト編集部

2021年上半期において、世界的な半導体不足が続いています。
車載システム、産業用ロボット、イメージセンサー、スマートフォン、メモリ……“産業のコメ”ともいわれる半導体の不足はメーカー各社に打撃を与え、フォルクスワーゲン、トヨタ、ホンダ、スバル、日産など大手自動車メーカーの多くが減産を発表したことも話題となりました。5GやIoTといったDXの進展も大きく左右する半導体。
その現状や不足の原因、今後の展開など今押さえるべき事実をまとめてご紹介します。

半導体不足の原因──半導体需要の予想外の回復

半導体不足の主要な要因の一つは、新型コロナウイルスの世界的流行を経た半導体需要の回復が、多くのメーカーの予測を上回っていたことです。4年周期で浮き沈みを繰り返す「シリコン・サイクル」に従って景気循環を行うといわれていた半導体業界ですが、2017年以降は車載システム、5Gスマートフォン、データセンターなど各方面で需要が高まり続ける「スーパーサイクル」に入っていました。しかし、2019年に米中摩擦によりやや先行き不透明に。そんななかで新型コロナウイルスが世界的に流行し、各メーカーは半導体の注文・生産の抑制に踏み切ったのです。
しかし、予想に反し半導体市場は急回復。各業界で半導体の奪い合いともいえる状況が発生しました。そんななかでITなどのように半導体メーカーと直接的なやり取りをする商習慣のない自動車メーカーは特に大きなダメージを受けました。

また、2020年末から半導体工場の操業停止が相次いだことも状況に拍車をかけました。2020年10月に旭化成マイクロシステム延岡事業所、2021年3月にはルネサスエレクトロニクスの那珂工場、2021年4月には半導体ファウンドリー(受託製造先)として世界最大手のTSMCのFab 12B P6(第6期拡張ライン)で火災が発生しました。

かねてより存在したサプライチェーンリスクが顕在化したのが今回の半導体不足であり、サプライチェーンマネジメントを見直す流れが各地で見られます。

半導体不足はいつまで続く?

2021年4月中旬時点では、半導体不足は、2021年内は続くというのが支配的な意見です。前述のTAMCのCEO(最高経営責任者)であるC.C.Wei氏は「2023年まで半導体の供給が制限される可能性がある」と発言しています。しかし、同時に生産キャパ増強のため3年間で1000億ドルの投資が行われる計画にも言及がありました。

そもそも存在した半導体需要は今後も加速していくことが予測されます。テレワーク・リモートワークの推進によりPCやタブレット、Webカメラはいずれも在庫僅少となる様子が多く見られました。自動運転や電気自動車の実現にも半導体は欠かせず、今や自動車は“走る半導体”とすら呼ばれることがあります。“巣ごもり需要”でニーズの高まったゲーム機にも半導体は欠かせません。また、IoT・AIの制御に半導体が欠かせないのもご存じの通り。
製造業界のDXが進むことと、半導体の需要が高まることの間には強い結びつきがあるのです。

半導体の供給不足に伴って、コスト増の波も生じています。2021年4月時点で多くの半導体メーカーが10~20%の半導体用シリコンウェハーの値上げに踏み切ったことが報じられました。その理由としては、材料費の高騰などが挙げられています。

コロナ禍以前から続く米中の半導体シェアを巡る対立ですが、2021年1月にバイデン政権が発足してからも強硬路線は続いており、バイデン米大統領は半導体の生産能力において競争力を強化する考えを示しています。

日本の半導体市場での立ち位置

米半導体市場動向調査会社のIC Insigtsの調査によると、2020年の半導体企業のIC売上高において日本が占める割合は6%でした。1990年代、日本は世界のIC市場の約49%を占めていたため、その凋落が目立ちます。
半導体メモリとして代表的なDRAM(Dynamic Rnadom Access Memory)ではシェア率80%を超えたこともある日本ですが、総合電機からITへ半導体市場の主力が移り変わる中で、影響力を失ってきました。日本は設計から製造、販売まで一貫して自社で行うIDM(Integrated Device Manufacuturer:垂直統合型デバイスメーカー)が主流であり、世界で伸長するファブレス・ファウンドリ市場が伸び悩んでいることもその一因だと考えられます。

ただし、材料や製造装置においてはいまだ存在感を維持しており、2019年12月時点の国・地域別の半導体生産能力において日本は3位(シェア率16.0%)。1位はTSMC社を擁する台湾でシェア率は21.6%、2位はシェア20.6%の韓国です。また、2020年の半導体製造装置メーカートップ15に日本メーカーから7社がランクインしています。

2000年代以降の潮流に乗り遅れた一方、レガシー半導体の分野では以前競争力を維持している日本。現在の半導体需要の高まりを好機とし、得意分野で力を発揮することが期待されます。

半導体市場の変化の兆しに注目を

製造業全体の動向を大きく左右する半導体不足の概観について解説いたしました。
半導体不足による減産は多くの企業にとって機会損失となり、当然ながら歓迎できるものではありません。しかし、ある意味で企業がサプライチェーンを見直し、半導体市場での遅れを取り戻す機会でもあるといえるでしょう。
変化の兆しを逃さないよう、半導体市場に今後も注目していきたいところです。

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