レンテック・インサイト連載7回目は、「産業用ネットワーク」について考えてみます。
製造業の「つながる」を支える産業用ネットワーク
DXやスマートファクトリー、IoTに共通するキーワードが「つながる」です。それらの実現には現場にある機器同士が通信ネットワークで接続され、相互にデータをやりとりできることに加え、製造現場に設置されている機器や設備の制御システムと工場のITシステム、オフィスや本社のクラウドや基幹システムまで、異なるレイヤーにあるシステム同士も連携できる状態が必要とされます。
近年、特に注目されているのが「産業用ネットワーク」と言われる、工場や製造現場にある機器や設備同士を結ぶネットワーク技術です。少しの通信不良が機器同士のズレを生み不良品や機械トラブルを引き起こすため、高い通信速度や堅牢性、低遅延など一般的なネットワークよりも厳しい通信品質が要求されます。
産業用ネットワークは、ある程度統一化されている汎用ネットワーク規格とは異なり、Ethernetベースの産業用Ethernetが主流になっていますが、独自のフィールドバスもいまだに根強く残り、いくつかの通信規格が林立しています。有名なところではPROFIBUS、Ethernet/IP、EtherCAT、CC-Linkなどがあります。これらは世界各国で激しいシェア争いを繰り広げています。
産業用ネットワーク・通信機器メーカーのHMSインダストリアルネットワークが毎年調査している「産業用ネットワーク市場のシェア動向」によると、2021年に新規設置されたノードにおける市場シェアは、産業用Ethernetが65%で、フィールドバスが28%、ワイヤレスが7%となっています。産業用ネットワークのノードはいまも有線が中心で、ワイヤレスはまだ10%にも満たない状況です。フィールドバスも3割近くあり、Ethernetベースが65%というのも一般的なネットワークとは全然違うことが分かります。それでも産業用Ethernetは昨年の64%から65%で微増となり、ワイヤレスも6%から7%と微増傾向。年々、産業用Ethernet規格がシェアを伸ばしてきています。
産業用Ethernetは21年も8%の成長が見込まれ、ネットワーク別ではEtherNet/IPとPROFINET がトップを争っています。21年はPROFINETが僅差で1位となり、2位がEtherNet/IP、EtherCATが3位となりました。さらにModbus-TCP、POWERLINK、CC-Link IE Fieldと続いています。
フィールドバスは年々減少傾向にあり、21年は28%にとどまる見込みです。フィールドバスのトップシェアのネットワークは8%のPROFIBUSで、5%のModbus RTU、4%のCC-Linkと続いています。
日本では主要規格のひとつであるCC-Link系ですが、グローバルではまだこれから。産業用EthernetのCC-Link IE Fieldをどこまで伸ばしていけるかに注目です。
ワイヤレスは、工場や製造現場ではノイズや遅延の可能性から主要ネットワークとしてはあまり使われてきませんでしたが、最近はIoTのトレンドもあって急拡大しています。21年の成長率は24%と急速に成長。現時点ではシェア7%ですが、ゆくゆくは5G利用、特にローカル5Gが広がってその工場専用のネットワークとして使えるようになると、省配線で柔軟に設置できるワイヤレスの需要が高まっていくと見られています。
また地域別でシェアに偏りがあるのも産業用ネットワークの特徴です。ヨーロッパや中東ではEtherNet/IPとPROFINETが中心で、PROFIBUSとEtherCATも広がっています。アメリカではEtherNet/IP が最も多く、EtherCATも一定のシェアを獲得しています。アジアは各規格がひしめく激戦区で、PROFINETとEtherNet/IPがリードしていますが、CC-Link/CC-Link IE Fieldも大きなシェアを持っています。