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電動車の普及で車載用LiB市場が急拡大

レンテックインサイト編集部

IT Insight 電動車の普及で車載用LiB市場が急拡大

 世界的に環境規制が進む中、EV(電気自動車)、PHV(プラグインハイブリッド車)、HV(ハイブリッド車)といった電動車市場が大きな注目を集めています。調査会社の矢野経済研究所によると、2019年の世界xEV(EV、PHV、HV)市場はメーカー生産数量ベースで約682万台。これが2025年には1206万台、2030年には2030万台まで拡大すると予測されています。この市場拡大に合わせて今後需要が増加するとみられているのが、車載用リチウムイオン電池(LiB)で、バッテリーメーカー各社は新工場の建設や既存設備増強などを積極的に進めており、調査会社の富士経済では2024年における車載LiBの世界市場は2019年比2.6倍の6兆7403億円に拡大すると予測しています。その車載用LiBにおいて高いシェアを持つのが、パナソニック、韓国のLGエナジーソリューション(LGES)、中国のCATL(寧徳時代新能源科技)で、この3社で世界シェアのおよそ6割を占めます。そしてこの中で特に積極的な増強計画を打ち出しているのがCATLです。

積極的な増強を進めるCATL

 CATLは2011年の設立以降、BAIC、SAIC、Yutong、Geely、King Long Motor、CRRCといった中国自動車メーカーの乗用EV、EVバス、EVトラック、EVフォークリフト向けにLiBを供給し、事業規模を拡大してきました。そして、2018年以降はBMW、ホンダ、ボルボ・カーズ、トヨタ自動車、テスラといった有力自動車メーカーとも提携しています。その事業の拡大に合わせて生産体制も毎年拡大しており、2020年末におけるCATLの年間生産能力は109GWhに達したもようです。これはテスラのスタンダード版EV200万台以上に搭載できるほどとなります。
 2020年における取り組みとしては、寧徳工場(寧徳市)で16GWh分、溧陽工場(江蘇省溧陽市)で24GWh分の増強工事を開始したほか、宜賓工場(四川省宜賓市)に12GWh、寧徳市に45GWhの新工場建設も開始しました。そして2021年初頭に車載用LiBの新たな増産計画を発表。肇慶市で25GWhの新工場を建設したほか、宜賓市の新工場へ増強投資を行う予定です。加えて、中国第一汽車集団との合弁会社の寧徳工場にも資金を投じて生産体制を拡大する方針です。
 また、海外でも増強計画を進めています。現在、独チューリンゲン州で新工場を建設しており、2022年までに14GWhの年間生産能力を確保する見通しです。また、約50億ドルを投じてインドネシアに新工場を新設する計画も進めています。その計画の一環としてインドネシア国営鉱山大手のPt Aneka Tambangと契約を締結しており、ニッケルの60%を国内で加工し、LiBに採用することが決まっています。こういった増強投資によって、CATLは2023年におけるLiBの生産能力を2020年比2~3倍に拡大していく考えで、2025年には2020年比5倍まで生産能力を拡大することを計画しています。

欧州での新工場・増強計画が増加

 地域をみると欧州での動きが活発になっており、現在進行している車載LiBの新工場建設や既存設備増強の案件の半分が欧州です。BMW、フォルクスワーゲン(VW)、メルセデス・ベンツ、ステランティスといった大手自動車メーカーが電動車のラインアップを増やす中、その電動車に搭載する車載用LiBの需要も増加しており、今後需要がさらに拡大すると見込まれています。ブルームバーグの調査では、2020年における地域別の車載用LiBの生産比率は、中国77%、米国10%、韓国6%、欧州4%、その他3%ですが、2025年には中国63%、欧州15%、米国9%、タイ3%、その他10%と、欧州の比率が高まっていくと予測しています。
 現在、欧州では、LGES、サムスンSDI、SKイノベーションの韓国大手3社が大規模車載LiB工場を運用していますが、2021年からはLiBファンドリーのノースボルト、2022年からはCATL、ファラシス・エナジー、エスボルトなどの新工場がそれぞれ稼働を開始する予定です。また、2023年以降にはオートモーティブ・セルズ・カンパニー(ACC)、ブリティッシュボルト、フレイ、ベルコール、エンビジョンAESCジャパン、さらにノースボルトとVWの合弁事業が加わる見通しで、ACC、ブリティッシュボルト、フレイ、ベルコールは新規参入組になります。

部材メーカーの動きも活発化

 LiBメーカーの増強計画に合わせて、LiB部材メーカーの動きも活発化しています。例えば、正極材大手一角のユミコアはポーランド・ニサに正極材工場を新設する計画を進めており、2020年6月には欧州投資銀行とローン契約を締結し、1億2500万ユーロ(約160億円)の資金を調達しました。戸田工業株式会社と正極材の合弁事業を展開するBASFは、独自の正極材工場をフィンランド・ハルヤヴァルタと独シュヴァルツハイデに新設する計画を進めています。ハルヤヴァルタで製造した前駆体を使用し、シュヴァルツハイデでハイニッケル系をはじめとしたLiB用正極材を生産する予定で、2022年から操業を開始する見込みです。
 このほか、東レ株式会社がハンガリーのニェルゲシュウイファルでLiB用セパレーターの新工場を建設しており、2021年7月から稼働を開始する見通しです。LiB用セパレータートップクラスの上海エナジーも同じくハンガリーのデブレツェンに建設する計画を進めており、これは中国のLiB部材メーカーでは初の海外工場となります。
 近年、世界各国で排出ガスゼロ宣言が打ち出され、自動車向けの排ガス規制も次々と発表される中、自動車メーカーは電動車のラインアップを拡大しています。2035年をめどに新車販売をすべて環境対応車とする方針を打ち出した中国をはじめ、先進国を中心に同様の政策が発表されており、ガソリン・ディーゼル車からの移行は不可避の状況であるともいえます。そしてそれは車載用LiBの重要性が増すことを意味しており、車載用LiBメーカーから今後さらに増強計画が発表されることも間違いないでしょう。

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