
生成AIやAIエージェントの活用が進む中、情シスには「AIを使う環境」を整える役割が強く求められています。
モデルの性能が上がっても、社内データが散在し、正本や関係性が曖昧なままでは、回答精度も運用品質も安定しません。そこで重要になるのが、データの構造化とGraphRAGを見据えた情報基盤の整備です。
本記事では、AGI実現を見据えてデータの構造化とGraphRAGが有効な場面について解説します。
AIが高度化するほど、基盤側の差がAI回答の精度や品質に与える影響が大きくなります。
汎用的なモデルは多くの企業が同じように利用できる一方、社内ルールや業務手順、システム構成、例外対応まで含めて正しく扱うには、自社側で知識基盤を整えておく必要があります。
例えば、アカウント権限の変更方法を質問する場合、部署や雇用形態、利用システムによって、手順が異なることは珍しくありません。
ここでAIが曖昧な情報や古い手順を参照すると、誤案内や統制上の問題につながります。
だからこそ、AI時代の情シスには、単にシステムを維持するだけでなく、AIが正しく参照できる情報環境を整える役割が求められます。
多くの企業でAI活用がPoC止まりになる理由は、社内情報の扱いにあります。
例えば、文書がファイルサーバー、チャット、Wiki、チケット、メールに分散しており、どれが正本か分からないケースです。
最新版の所在が曖昧で、権限設定もバラバラという状態では、AIに何を見せてよいかが定まりません。
さらに問題なのは、情報同士の関係性が弱いことです。業務フロー、利用システム、担当部門、承認者、例外条件が別々に管理されていると、AIは断片的な回答しか返せません。
「この申請は誰の承認が必要か」「この変更はどのシステムに影響するか」といった、実務で本当に必要な問いに答えにくくなります。
AI活用の壁は、モデルそのものより、知識の持たせ方にあります。

このような状況において検討すべき対応は、データの構造化です。ただし、ここでいうデータの構造化とは、単に情報をデータベースへ移行することではありません。AIが誤解しにくく、正しい文脈で扱える形へ整えることです。
具体的には、文書ごとに所有者、版、更新日、適用範囲、根拠、機密区分といったメタ情報を持たせ、どれが正本かを明確にします。
その上で、業務、手順、システム、担当者、申請条件、関連チケットなどを、同じ粒度でつなげていく取り組みです。
例えば「PC貸与手順」という文書があっても、それ単体では不十分です。
それが新入社員向けなのか、派遣社員にも適用されるのか、どの申請と連動するのか、例外時は誰に確認するのかまで結びついて初めて、AIは実務で活用可能な回答を生成できます。
構造化とは、AIにとっての読みやすさを設計する考え方と捉えると理解しやすくなります。
通常のRAGは、質問に近い文章を検索し、その内容を基に回答を生成する仕組みです。規程の要約やFAQ対応には有効ですが、複数の情報をまたいで依存関係をたどるのは得意ではありません。
一方、GraphRAGは、人、部署、システム、業務、手順、文書といった要素の関係性をたどりながら回答を組み立てます。
そのため、「この申請変更はどの部門に影響するか」「例外対応時に参照すべき手順は何か」といった問いに強くなるのが特徴です。
情シス業務では、単なる文章一致よりも、関係性の把握が重要な場面が多いためGraphRAGとの相性が良いといえます。
データ構造化の基本は、小さく始めることです。最初から全社横断の知識基盤を目指すと、整理範囲が広すぎて止まりやすくなります。
まずは、問い合わせ頻度が高く、手順や権限の違いが生じやすい業務を一つ選びましょう。例えば入退社対応、アカウント申請、端末キッティングなどが候補です。
次に、その業務に関する情報源を洗い出し、正本を定義します。その上で、所有者、更新日、適用範囲、権限、関連システムなど、最小限のメタ情報を付与します。
さらに、業務と手順、担当、申請先、例外条件を結びつけましょう。
最後に重要なのが、更新され続ける仕組みを作ることです。変更管理や運用フローの中に、情報更新を自然に組み込まなければ、すぐに陳腐化してしまいます。
データ構造化においてありがちな失敗は、最初から完璧を目指すことです。
全社分を一気に整理しようとすると、関係者調整や入力負荷が膨らみ、運用が滞ってしまいかねません。
また、メタ情報の項目を増やしすぎると、入力されなくなって形骸化しやすくなるのも懸念事項です。
もう一つよくある失敗は、出典・根拠表示と権限設計を後回しにすることです。
AIの回答が正しそうに見えても、「どの文書を根拠にしたのか」「その情報を見せてよい相手か」が曖昧だと、現場は安心して使えません。
最初は最小構成で始め、正本、最低限のメタ情報、更新導線、根拠表示を優先して固めることが重要です。
データ構造化が注目されているのは、今後AIがより高度になっても、社内で成果を出せるかどうかは、データの運用体制の成熟度合に左右されるためです。
正本が定まり、必要なメタ情報が付き、情報同士の関係が整理され、更新が回る状態になって初めてAIは業務の中で安定して機能します。
つまり、AGI時代に競争力を持つのは、最新モデルを追いかける企業だけではありません。自社の知識をAIが活用できる形に整えた企業であるともいえます。
そしてその中心を担えるのが、情シスです。いま着手すべきなのは大規模刷新ではなく、まず一つ一つの業務を構造化する事から始めましょう。