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どうする? “IoT/M2Mの電源問題”注目を集める「エナジーハーベスティング」について解説

レンテックインサイト編集部

工場内の機器や工場自体、あるいは製品などあらゆるものにセンサーを設置し、データの通信を行うIoT/M2M。ここで発生するのが、「電源をどうやって確保するのか?」という問題です。
その解決につながる技術として注目を集め、ここ数年実用化が進んでいる「エナジーハーベスティング」。みなさんは耳にしたことがあるでしょうか?
本記事ではIoT/M2Mの「電源問題」解決をテーマに「エナジーハーベスティング」の基本について解説いたします。

IoT/M2Mにつきまとう電源確保問題

通信機器の電源確保手段として代表的な「有線電源」や「電池」といった手段をIoTに活用することには、以下のようなデメリットがありました。

有線電源

多くの機器に設置する手間やコストは膨大。製造ラインを変更する際の手間も増大する。また、工場内が配線だらけになるリスクもあり、そもそもケーブルが設置できない場所・機器も存在

電池

蓄えられた起電力が基準を下回れば電池交換や充電が発生するため、交換や充電に際する手間・コストや交換作業に伴う危険が懸念

共通するデメリットは「手間」と「コスト」がかかるということです。工場全体のデータを取得するべく大量のセンサーをばらまく、といったIoT施策は電源問題により実現が難しくなっている現状がありました。

そうした問題を解決する手段の一つとして注目を集めているのが「エナジーハーベスティング」なのです。

エナジーハーベスティングとは? その事例は?

エナジーハーベスティングとは、その名の通り“「エナジー(エネルギー)」を「収穫(ハーベスティング)する」技術”のことです。環境発電と呼ばれることもあり、光や振動、温度差、飛び交う電波といった周囲の環境を利用して、電力を消費するデバイス自体が発電を行います。
身近な例ではソーラー時計や自転車のタイヤが回転するエネルギーを利用するダイナモ式ライトもエナジーハーベスティングの一種といえるでしょう。
IoT×エナジーハーベスティングは、以下のようなエネルギーを利用して発電を行い二次電池に蓄えることで交換・充電の手間をなくしIoTの普及を大いに助けます。

光エネルギー

太陽光、蛍光灯、LEDなどの光エネルギーを活用して発電するのは代表的なエナジーハーベスティングの手法です。2019年10月には、京都大学、リコー電子デバイス株式会社、ニチコン株式会社の共同研究で、軽く、曲げることも可能なフィルム型ペロブスカイト太陽電池を利用したIoTシステムが発表されています。
また、太陽光に比べ得られるエネルギーが微弱な室内光から効率良く発電を行うことを狙う色素増感型太陽電池(DSC)を、IoT向けに実用化する取り組みも進められています。

運動エネルギー

精密作業などでトラブルの原因となることもある機器の振動ですが、エナジーハーベスティングにおいては貢献してくれる可能性があります。圧電(ピエゾ)素子などのハーベスタ(環境から得られるエネルギーを電力に変える素子:発電素子)でモーターやエンジンの振動を電力に変換します。株式会社音力発電の「発電床Ⓡ」のように、“人が歩くことで発生する振動力”を電力に変える製品もみられます。

熱エネルギー

機器や配管から発生する熱も発電に利用することができます。物質間の温度差により起電力が生じるゼーベック効果を利用して発電を行う方式がスタンダードですが、温度差なしで熱エネルギーを電力に変換できる発電素子の開発・実用化も進められています。常温発電が可能になることで温度差を保つ必要がなくなり、より広い場所でエナジーハーベスティングが可能になります。

電磁波エネルギー

携帯電話や無線LANなどの微弱な環境電波を採取し、電力を生み出す可能性も追及されています。他のエネルギーに比べ、環境の変化が生じず安定しやすいと期待されています。ただし、他に比べ、電力がより微弱な傾向にあるのも事実です。2019年には富士通株式会社などによりマイクロ波を変換するための高感度ダイオードが開発されました。

このようにさまざまな環境を利用して発電につなげられるエナジーハーベスティング。IoTのみならず、常時身に着けるウエアラブル機器や義手などへの応用も進められています。

エナジーハーベスティングの弱点は「微弱、不安定」な電力

エナジーハーベスティングの弱点は、発生させられる電力が微弱で不安定だということです。環境を相手にするものですから、例えばソーラー発電の発電量は天気によって大きく異なります。電磁波から得られるエネルギーは、前述の通り非常に微小です。
そのため、不安定な電力供給であることを前提としてIoTデバイスを設計することに多くの企業が取り組んでいます。ユーザーにとって重要なのは消費される電力と周囲の環境に見合ったハーベスタ技術、IoTデバイス、蓄電デバイスの組み合わせを吟味することです。収穫と消費のバランスを見て“電力をやりくりする”という発想を念頭において、IoTシステムの構築に取り組みましょう。

なお、エナジーハーベスティングのほかにIoTの電源問題を解決する手段として、「ワイヤレス充電」にも注目が集まっています。伝送距離・パワーを操作できるという点がワイヤレス充電の強みであり、現在総務省によりワイヤレス電力伝送システム(WPT)の技術展開が進められています。

まずはIoTデバイスを設置したい“環境”を見直そう

IoTデバイスの低価格化や通信技術の発展が進む一方、電源問題は導入・運用における悩みの種の一つとなり続けてきました。その解決法としてのエナジーハーベスティングは1970年代から存在する技術ですが、IoT市場の発展に伴い近年ぐっと実用化が進んできています。
まずはデバイスを設置したい“環境”を改めて調査し、どのような電源供給が最適かを見極めましょう!

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