
ここ数年で著しい進化を遂げたAI(人工知能)は、さまざまな業界・業種で活用されています。AIモデルを構築する際には、まず大量のデータをAIに学習させなければなりません。2026年に入るとこれらの学習データが枯渇する可能性がある点が指摘されており、この問題を「AIの2026年問題」と呼んでいます。
本記事では、AIの2026年問題の概要や想定される影響、求められる対応について解説します。AIの導入・活用を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
AIの2026年問題とは、AIの一種であるLLM(Large Language Model=大規模言語モデル)が学習に使用する高品質なテキストデータが2026年に枯渇するという予測と、それに伴い想定される影響のことです。
研究機関の「EPOCH AI」が2022年に公開した予測によると、2026年頃までにLLMに使われている高品質なデータが枯渇してしまい、低品質なテキストデータ(ブログやSNSなど、一般の人々によって書かれた、くだけた表現や文法上の不正確さを含むテキストデータ)は2030年〜2050年頃までに、さらに画像データも2030年〜2060年頃までに枯渇する可能性があるとされています。
参考:EPOCH AI「Will we run out of ML data? Evidence from projecting dataset size trends」
AIモデルの開発では、大量のデータが必要です。多くの場合、インターネット上に公開されている膨大なデータを収集し、AIに学習させています。テキスト・画像・動画など、さまざまな形式のデータがAIモデルの学習で利用されているのが現状です。
これらのデータは、品質に基づいて「高品質なデータ(ニュース記事や論文、書籍など)」と「低品質なデータ(SNSで一般ユーザーが投稿した編集されていない情報など)」に分類できます。AIモデルの性能を高めるためには、特に高品質なデータを確保して学習させることが重要です。
高品質な学習データをどのように確保するかは、AIの基盤モデルを構築する企業にとって大きな課題となっています。海外では、新聞社などと提携し、新聞記事を学習データとして活用するAI企業も増えています。
日本においても、新聞社・出版社・放送局・Webメディア企業など、コンテンツを保有する企業との提携によって高品質な学習データを確保することが、今後ますます重要になるでしょう。
学習データの枯渇は、AI業界全体に大きな影響を与えると予想されています。想定される主な影響は下記の二つです。
それぞれの内容を見ていきましょう。
従来の「大量のデータを学習させることで性能を向上させる」という開発手法が難しくなり、AIモデルの性能向上ペースが大幅に鈍化する可能性があります。
これまでのLLMは、学習データの量とモデルサイズを増やすことで、飛躍的な性能向上を実現していました。しかし、高品質なデータが枯渇することでこのアプローチが継続できなくなることが懸念されているのです。
LLMが学習に利用するデータが枯渇すると、企業内に保有されている独自のデータ(小売業や製造業などで蓄積されたビッグデータなど)が差別化要素となり、これらのデータの価値が再評価されやすくなるでしょう。
また、新たに高品質なデータを取得するためには多くのコストがかかります。そのため、資金力のある大企業がAIモデルの開発を有利に進めやすくなる点も指摘されています。
学習データを自社で保有している企業や、十分な資金力を持つ企業がAI開発で優位に立つことで、これまで以上にAIツール開発の参入障壁が高まるでしょう。
AIの2026年問題に対して、企業は下記の準備を進める必要があります。
それぞれ解説していきます。
企業が保有する独自のデータは、今後ますます貴重な資産となるため、その価値を最大化する戦略が重要です。
例えば小売業では、購買履歴データ、会員データ、在庫データ、来店履歴データなどが独自データとして活用できます。これらのデータには顧客の嗜好や行動傾向などが含まれており、汎用的なAIモデルでは得られない価値を提供できます。
データ不足の問題を解決するためには、他企業とパートナーシップを構築することが重要です。業界内外の企業と連携し、データ共有や共同研究を進めることで、高品質な学習データの確保や新たな価値創出につなげられます。
人間が作成したオリジナルコンテンツの価値は、今後さらに高まっていきます。企業は、専門的なスキル・知識を持っている従業員の発信を強化しつつ、AI学習データとしての価値を高める取り組みが重要です。
現在、AIの2026年問題を根本的に解決する明確な方法は確立されていません。そんな中、解決手段の一つとして注目されているのが、小規模言語モデル(SLM:Small Language Model)です。
SLMは自然言語の処理・理解・生成を行うAIモデルの一種であり、名前のとおり大規模言語モデル(LLM)に比べて規模が小さい点が特徴です。LLMが大量の学習データを必要とするのに対し、SLMは研究論文や教科書など、高品質で専門性の高いデータを中心に学習し、特定領域に特化した課題解決を得意とします。
SLMはLLMと比べて必要となる学習データ量が少ないため、2026年問題で懸念されている「学習データ枯渇」の影響を受けにくいという利点があります。学習や運用コストを抑えやすい点も、SLMが注目されている理由の一つです。
今回は、AIの2026年問題の概要や想定される影響、求められる対応について解説しました。学習データの枯渇は、AIの性能や企業競争力に大きな影響を与える可能性があります。自社で保有するデータの価値を見直しつつ、新しい学習戦略への転換を進めることが重要です。
AIの恩恵を最大限に受け続けるためにも、今の段階から適切な準備を進めていきましょう。