
近年、注目されている「オンプレミス回帰」。一時期はクラウドの利便性や効率性が高く評価され、オンプレミス環境からクラウドへ移行する企業が多く見られました。
しかし現在では、クラウド運用の課題が浮き彫りになり、再びオンプレミス環境へ戻す企業が増えています。
本記事では、オンプレミス回帰が注目されている背景や、オンプレミス・クラウドそれぞれのメリット・デメリットを詳しく解説します。インフラ環境の見直しを検討している企業の方は、ぜひ参考にしてください。
オンプレミス回帰とは、一度オンプレミス環境からクラウド環境へ移行したシステムを再び自社に設置したオンプレミス環境へ戻す動きのことを指します。
近年、なぜオンプレミス回帰が注目されているのか、その背景や理由を見ていきましょう。
オンプレミス回帰が注目されている背景として、下記のような事が考えられます。
クラウドは初期費用を抑えやすいメリットがある一方で、運用が進むにつれて費用が増加しやすい傾向があります。クラウド基盤の利用料金に加えて、クラウドに精通したエンジニアの人件費、ビジネス規模の拡大に伴うデータ通信量・ストレージ容量の増加などがコスト上昇の要因となります。
さらに、AWSやAzureといった主要クラウドサービスはドル建てで請求されるため、円安の影響を受けやすく、想定以上に費用が膨らむケースも少なくありません。
クラウドサービスは高い可用性を提供していますが、年に数回程度、大規模な障害が発生することがあります。障害発生時にはクラウド事業者側が復旧対応を実施しますが、障害の内容や規模によっては長時間システムが停止し、企業の業務に大きな影響を与えるリスクがあります。
実際、2025年10月20日にはAWSで大規模な障害が発生し、世界中のさまざまなプラットフォームで接続エラーや遅延が報告されました。クラウドの障害は自社では制御できないため、停止が許されない重要なシステムを持つ企業ほど、オンプレミスへの回帰やハイブリッド構成によるリスク分散を検討するケースが増えているのです。
企業の情報資産を狙うサイバー攻撃は年々増加しており、それに伴って規制や監査基準も一段と厳格化しています。特に金融や医療、公共分野など機密性の高いデータを扱う業界では、クラウドプロバイダーとの契約だけでは自社のセキュリティ要件を完全に満たせないと判断されるケースもあります。
このような背景から、データの保管場所やアクセス制御、暗号化方式などを自社の基準に合わせて細かく管理できるオンプレミス環境を選択する企業が増えています。
ここでは、オンプレミスの主なメリット・デメリット、オンプレミスの利用がおすすめの企業の特徴を見ていきましょう。
オンプレミスには、下記のようなメリットがあります。
サーバーやネットワーク機器を自社内に設置するため、構成・設定・アクセス権限などを細かくコントロールできます。自社の運用ポリシーに合わせた柔軟な管理が可能です。
自社のセキュリティポリシーや監査ルールに沿ったシステム設計が容易で、機密性の高い情報を扱う業務にも適しています。データの保管場所を明確にできる点も強みです。
サーバーが社内にあるためネットワーク遅延が少なく、リアルタイム処理や高速応答が求められるシステムで安定した性能を維持しやすくなります。
オンプレミスにはさまざまなメリットがある一方で、下記のようなデメリットもあります。
初期のサーバーやネットワーク機器の購入や設置、構築などでまとまったコストが発生します。
障害対応や監視、アップデート、脆弱性対策など、日々の運用作業を自社で継続して行う必要があります。専任のインフラ担当者の存在が欠かせません。
オンプレミスは、下記のような企業に適しています。
金融や医療、行政、製造業などの基幹システムでは、厳格なセキュリティ要件や監査基準が求められます。そのため、オンプレミスの方が対応しやすいでしょう。
制御系システムや高速処理が求められる業務では、サーバーが社内にあるオンプレミス環境の方が遅延を最小限に抑え、安定したパフォーマンスを発揮できます。
常に一定のリソースを使用する場合、オンプレミスの方がTCO(総コスト)を抑えやすいでしょう。
続いて、クラウドのメリット・デメリットやクラウドの利用がおすすめの企業の特徴について解説します。
クラウドの主なメリットは下記の3点です。
サーバーやネットワーク機器を購入する必要がないため、導入時のコストを最小限に抑えられます。
利用状況に応じてリソースを増減できるため、アクセス負荷が変動しやすいシステムでも効率よく運用できます。
一部の運用作業をクラウド事業者側が担うため、社内の運用負担を減らすことが可能です。
クラウドには次のようなデメリットもあります。
利用量に応じて料金が変動するため、データ量やアクセス量が増えると想定以上の費用になる場合があります。特にストレージ容量や通信量が増えやすいシステムでは注意が必要です。
クラウドで発生した障害の復旧作業は、クラウド事業者側で行うことになります。そのため、自社の判断で復旧時間や手順を決めることはできません。復旧するまでの間、一時的に運用できなくなる点がデメリットです。
下記のような企業の場合は、クラウドの方が適しています。
初期構築の手間を抑えつつ、スピーディに環境を準備したい場合におすすめです。
リソースを柔軟に増減できるため、負荷が変わりやすいサービスでも効率よく運用できます。
ハードウエア保守や基盤運用の多くをクラウド事業者側が担うため、少人数でも運用しやすいでしょう。
オンプレミスとクラウドのどちらを採用すべきかは、システムの特性や自社の状況によって大きく異なります。下記の観点を整理しながら検討しましょう。
金融や医療、製造業など、高いセキュリティ基準が求められる分野では、データを自社内で管理できるオンプレミスが適しています。
運用負荷を抑えたい場合はクラウドが適しています。一方、社内にインフラ運用のノウハウがある場合や、独自運用ルールを徹底したい企業ではオンプレミスがおすすめです。
事業の成長やアクセス量の増加が見込まれる場合は、リソースを柔軟に追加できるクラウドが適しています。
今回は、オンプレミス回帰が注目されている背景や、オンプレミスとクラウドそれぞれのメリット・デメリットについて解説しました。
近年では、オンプレミスとクラウドを併用し、システムごとに最適な環境へ配置する「ハイブリッドクラウド」を採用する企業も増えています。
重要なのは「オンプレミスかクラウドか」の二択で判断するのではなく、システムごとに最適な運用場所を選ぶことです。自社の業務内容やセキュリティ要件などを踏まえて、最適なインフラを設計しましょう。