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米国で構築されるエヌビディア供給網

株式会社産業タイムズ社

米国で構築されるエヌビディア供給網

 2025年に最も注目を集めた地域の一つとして、米国が挙げられます。トランプ大統領による関税政策が多くの地域・企業へ影響をおよぼし、その影響は2026年以降も続くとみられます。その米国において着々と進んでいるのが、AI半導体で圧倒的なシェアを誇るエヌビディア製品に関するサプライチェーン(供給網)の構築です。

TSMCは米国でBlackwell生産

 エヌビディアのサプライチェーンは現在、同社のAI半導体を生産するTSMCや、AIコンピューティング機器の製造を請け負うフォックスコンなど台湾企業が主体としてなっており、地域も台湾地域が中心です。そうした中、エヌビディアはパートナー企業と連携して、米国でAI半導体やAIコンピューティング機器の生産体制を整備する方針を2025年4月に発表し、今後4年以内に最大5000億ドル規模の製品を米国で生産する計画を打ち出しました。

 その計画に関連する動きがすでに複数出てきており、エヌビディアのAI半導体を製造するTSMCは、2024年末からアリゾナ第1工場(月産2万枚規模)の本格稼働を開始。そして現在、エヌビディアの先端アーキテクチャー「Blackwell」をベースにした半導体の生産もアリゾナ第1工場で行われています。

 なお、TSMCはアリゾナ第2工場も整備し、2028年の生産開始を予定しています。また、第3工場も2030年までに生産を開始する計画で、TSMCはアリゾナ3工場の整備に650億ドル以上を投じることを表明しています。さらに、TSMCは2025年3月に米国での先端半導体製造に1000億ドルを新たに投資すると発表し、アリゾナ州における投資計画は合計1650億ドル規模にまで拡大しています。1000億ドルの追加投資計画には三つの前工程ファブのほか、先端パッケージ施設2棟およびR&Dセンターの建設などが含まれており、今後10年間でアリゾナ州および米国全体で2000億ドル以上の経済効果を生み出すと試算されています。

 トランプ大統領の就任以降、米国政府はこれまでのCHIPS法を軸とした補助金政策から関税を活用して米国投資を呼び込むという戦略転換を進めています。トランプ大統領は以前から米国の半導体技術が海外に流出したことで、TSMCをはじめとする台湾の半導体業界をたびたび批判。TSMCの大型投資表明にはこうした批判を回避する狙いもあるとみられます。

 一方で、米国でAI半導体を手がける企業はアップル、エヌビディア、AMD、ブロードコムなどグローバルで存在感のある企業が多く、台湾有事など地政学リスクが増大する中で、米国での生産拡大は米国政府としても喫緊の課題となっています。もともとはその受け皿として、ファンドリー事業拡大を掲げていたインテルも期待されていましたが、極度の業績不振や技術開発の遅れが続き、TSMCに頼らざるを得ないといった状況となっています。

アムコーが後工程の体制を強化

 TSMCは2024年10月に、OSAT大手のアムコー・テクノロジー(米アリゾナ州)と、アリゾナ州内におけるパートナーシップを拡大し、先端パッケージング分野で協力体制を強化する方針を示しました。現在、アムコーはアリゾナ州ピオリアにおいて先端パッケージング工場を建設しており、エヌビディア製品にも対応する工場となる見通しです。

 工場の建設は2025年10月から開始しました。建設地は、アリゾナ州ピオリア市北部にある「ピオリア・イノベーション・コア」(Peoria Innovation Core)と呼ばれる地区の敷地約42万㎡。当初の建設地は同じピオリア市内の別の場所でしたが、建設地の変更を2025年8月に発表しました。なお、現在の建設地は当初の計画地に比べて約1.8倍の規模です。そして投資額を当初の20億ドルから70億ドルへと大幅に引き上げました。投資額を引き上げた理由は、クリーンルームの面積を当初計画に比べて拡張することに加え、新たに2棟目の先端パッケージング・テスト施設も建設することを決めたためです。一連の投資拡大により、新拠点は約7万㎡のクリーンルームスペースと、最大3000人の雇用を生み出す見通しです。

 新拠点は、同じくアリゾナ州にあるTSMCの工場と連携する方針を示しており、TSMCが前工程を担うことで、アリゾナ州で先端半導体の一貫生産が可能になります。新拠点における最初の製造施設は2027年半ばに完成し、2028年初頭に生産を開始する予定です。新拠点では、アップルやエヌビディア向けの先端パッケージ製品を供給します。アムコーの投資拡大プロジェクトは、CHIPS法のほか、先進製造投資税額控除や州および地方自治体の支援を受けています。

 こうした中、TSMCはCoWoS(Chip on Wafer on Substrate)といったTSMCの先端パッケージング技術に対応できる設備をアムコーの新工場内に導入する方針を示しています。CoWoSはエヌビディアのAI半導体を製造する上で非常に重要な技術であり、アムコーと協力し、より多様な製造拠点で顧客をサポートできる体制を構築するとみられます。

 AI半導体に搭載されるHBM(高帯域メモリー)については、エヌビディアのAI半導体にはSKハイニックス製のHBMが主に使用されています。そして、そのSKハイニックスは現在、インディアナ州でHBMを含むAIメモリー用の先端パッケージング生産拠点を整備しており、2028年後半の稼働開始を予定しています。つまり、米国内にエヌビディアのAI半導体に関連する前工程、後工程、HBMの生産・供給体制が構築されつつあるというわけです。

人型ロボットでの生産を検討か

 こうしたAI半導体の米国での生産ネットワークの構築とともに、エヌビディアはAIコンピューティング機器についてもパートナー企業とともに米国における生産ネットワークの構築を目指しています。具体的には、テキサス州ヒューストンではEMS大手のフォックスコン、テキサス州ダラスでは同じくEMS大手のウィストロンと連携します。

 フォックスコンは2工場をリース契約しており、そのうち1工場がエヌビディアのAIコンピューティング機器を製造する拠点になるとみられます。ウィストロンは、新たに米国子会社の「Wistron InfoComm (USA) Corporation」を立ち上げており、土地や施設取得など関連投資額は総額9500万ドルに上る見込みです。フォックスコンとウィストロンが整備するエヌビディア向けの製造スペースは合計約9万2900㎡以上、量産は2026年後半~2027年初頭から本格化するとみられています。

 そしてさらなる取り組みとして、エヌビディアとフォックスコンが、テキサス州ヒューストンで整備されるフォックスコンの工場で、ヒューマノイドロボット(人型ロボット)を生産工程に導入するのではないかと海外紙などで報じられています。本件について両社から正式なアナウンスはありませんが、フォックスコンは、エヌビディアが展開する高性能シミュレーション技術などを活用してロボットをトレーニングし、組立作業を効率化する取り組みをすでに進めています。また、フォックスコンは人型ロボットを製造するUBTECH Roboticsとの提携を2025年1月に発表するなど人型ロボットに関する取り組みを強化していることから、ヒューストンの工場に人型ロボットを導入する可能性も十分にあるでしょう。

 ちなみに、フォックスコンがヒューストンで製造するAIコンピューティング機器は、人型ロボット用AIの性能向上に用いられる機器、つまりは人型ロボットの“頭脳”となる可能性も大いにあり、自らの性能を向上させるための機器を人型ロボットが生産するという、一昔前のサイエンスフィクション小説のような状況がもうすぐ起こるかもしれません。

半導体企業界の主役は交代

 こうした中、新たな動きとしてエヌビディアは、2025年9月にインテルへ50億ドルを出資する方針を示しました。両社は、本件を通じて共同開発体制を構築し、「NVLink」(超高速なデータ転送を可能にするエヌビディアの相互接続技術)を搭載したデータセンター向けのカスタムCPUおよびAI PC向けのCPU設計などで協業することなどが含まれています。具体的には、ハイパースケール、エンタープライズ、コンシューマー市場におけるアプリケーションとワークロードを加速するカスタムデータセンターおよびPC向けの製品を複数世代にわたって共同で開発するとしています。エヌビディアとインテルのアーキテクチャーのシームレスな連携に注力し、エヌビディアのAIおよび高速コンピューティングの強みと、インテルのCPU技術およびx86エコシステムを統合し、最先端のソリューションを提供します。

 データセンター向けでは、インテルがエヌビディア専用のx86アーキテクチャーCPUを製造し、エヌビディアが自社のAIインフラストラクチャプラットフォームに統合するかたちで市場に提供します。PC向けでは、インテルがエヌビディアのGPU技術を統合したx86を製造および提供する予定です。なお、エヌビディアとしてArmベースのCPU開発は継続します。また、開発するCPUの製造にインテルファンドリーを活用するかなど、エヌビディアによるインテルファンドリーの活用に関する質問については明確な回答はありませんでしたが、今後の動向に注目する必要があるでしょう。

 現在、エヌビディアの時価総額はインテルを大幅に上回り、全世界の半導体企業の中で首位となっています。また、売上高でもエヌビディアはインテルを上回っています。かつてはPC向けCPU市場で圧倒的な地位を誇っていたインテルですが、AI時代においてはエヌビディアのGPUが生成AI技術のカギとして不可欠な存在となっています。エヌビディアは半導体業界における圧倒的なリーダーとしての地位を確立しており、米国における供給網もさらに拡大されることになるでしょう。

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