
生成AIは、文章作成や画像生成、プログラミングの補助など、さまざまな場面で活用されています。しかし、日本の生成AI利用率は、アメリカや中国などの主要国と比べると依然として低い水準にあります。
本記事では、総務省の「令和7年版 情報通信白書」の最新データを基に、日本の生成AI利用率や主要国との比較、利用拡大を阻む課題について解説します。解決策も解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
総務省の「令和7年版 情報通信白書」では、日本国内における生成AIの利用率や利用状況を個人・企業別に発表しています。まずは、それぞれの利用状況を見ていきましょう。
2024年度の調査によると、生成AIサービスを「使っている(または過去に使ったことがある)」と回答した個人の割合は26.7%でした。前年(2023年度調査)の9.1%から大幅に増加しており、1年間で約3倍に拡大したことになります。
しかし、海外の主要国と比較すると、日本の利用率は依然として低い水準にあります。各国の2024年度の利用率は下記のとおりです。
・アメリカ:68.8%
・ドイツ:59.2%
・中国:81.2%
日本の生成AI利用率は伸びてはいるものの、主要国との差は依然として大きい状況であることが分かります。
また、年代別の生成AIサービスの利用経験に関する調査では、20代の利用率が最も高く44.7%となっています。若年層を中心に生成AIの利用が広がっているものの、40代以上では依然として利用率が低く、世代間の格差が生じていることが分かります。
続いて、日本、米国、ドイツ、中国の4カ国の企業を対象に実施されたアンケート調査(2024年度)の結果を見ていきましょう。
自社における生成AI活用の方針について「積極的に活用する」「活用領域を限定して利用する」と回答した企業の割合は、日本では49.7%となっています。前年(2023年度)の42.7%から約7ポイント増加しており、日本企業でも生成AI活用の動きが着実に広がっていることが分かります。
しかし、米国や中国、ドイツでは、6〜8割の企業が生成AIの活用方針を定めており、日本はこれらの国々と比較すると低い数値になっているのが現状です。
また、生成AIの活用方針において、日本国内の中小企業では「方針を明確に定めていない」と回答した割合が約半数にのぼります。日本の中小企業は、大企業と比べて生成AIの活用方針の策定が遅れているのが現状です。
「令和7年版 情報通信白書」では、生成AIの導入・活用に関する日本企業の課題についても言及しています。ここでは、生成AI導入時の懸念事項と、生成AI活用によって期待される効果の二つの側面から解説します。
生成AI導入に関する懸念事項について、日本では「効果的な活用方法がわからない」 という回答が最も多く挙げられました。次いで「社内情報の漏洩などのセキュリティリスクがある」「ランニングコストが掛かる」「初期コストが掛かる」などの回答が続いています。
この結果から、技術面やコストよりも「運用ノウハウの不足」が大きな課題となっていることが分かります。多くの企業が生成AIを導入したものの、具体的な活用シナリオや成果の出し方を見いだせていないのが現状です。
生成AI活用の推進によって自社にどのような影響があるかを尋ねた調査では、日本企業は 「業務効率化」や「人手不足の解消」 などを挙げています。一方で、アメリカ・ドイツ・中国の企業では、「新規顧客の獲得」や「新しいイノベーションの創出」などを挙げており、事業拡大につながる要素を重視する傾向が見られます。
この違いから、日本では生成AIを「生産性向上のためのツール」として位置付ける傾向が強いのに対し、海外では「新たな価値創造の手段」として戦略的に活用していることが分かります。つまり、日本の場合、生成AIをコスト削減や省力化の延長線でしか使えていない点が課題となっているのです。
日本が生成AI活用を進めるためには、下記の対策を進める必要があります。
・経営層の意識改革・戦略的なAI導入
・社員教育・AIリテラシーの強化
・データ基盤・セキュリティ体制の整備
・中小企業への支援・政府の取り組み強化
それぞれのポイントを見ていきましょう。
生成AIを「業務効率化のためのツール」としてではなく「新たな価値を創出する経営戦略の一部」として位置付けることが重要です。経営層が率先してAI活用の方向性を示し、全社的な目標や施策に落とし込みましょう。これにより、戦略的かつ効果的なAI活用を推進できます。
多くの企業で「効果的な活用方法が分からない」という課題が挙がっている背景には、AIリテラシーの不足があります。従業員が生成AIの仕組みやリスクを正しく理解し、業務に応用できるようにするためには、教育研修やハンズオン型の社内勉強会を継続的に実施することが重要です。
また、AIの利用ルールやセキュリティに関するガイドラインを整備し、社員が安心して生成AIを活用できる環境を整えることも欠かせません。
生成AIを効果的に活用するには、社内データの整備・統合が欠かせません。データの品質や一貫性が確保されていなければ、AIの精度や成果にも悪影響をおよぼします。また、機密情報の扱いに関する懸念を解消するためには、アクセス権限の管理や情報漏えい対策、AI利用ポリシーの策定など、セキュリティとガバナンス体制の強化が不可欠です。
これらの仕組みを整えることで、生成AIを安心・安全に導入できます。
中小企業では、人材や資金面の制約からAI導入が進みにくいのが現状です。国内の生成AI活用を進めるには、政府や自治体による補助金制度や導入支援の拡充、IT導入補助金などの制度活用が不可欠といえるでしょう。
あわせて、民間企業による生成AI導入支援サービスの普及も、国内全体のAI活用を底上げする重要な要素となります。
今回は、日本の生成AI利用率や主要国との比較、利用拡大を阻む課題とその解決策について解説しました。日本では生成AIの活用が着実に広がっている一方で、海外と比べると依然として導入や戦略面での遅れが見られます。
今後は、経営層の意識改革やAI教育、データ基盤の整備、中小企業支援の強化といった取り組みを通じて、生成AIを「業務効率化の手段」から「新たな価値を生み出す原動力」へと進化させることが期待されます。