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連載「フカヨミ 製造業界の今を切り取る」ライン生産、セル生産に続く未来の生産方式は?

レンテックインサイト編集部

 レンテック・インサイト連載4回目は、デジタル化やDXが進んだ先の未来の生産方式について考えてみます。

 所変われば品変わる。作るものが変われば作り方も変わります。作る量が変わっても同様です。マスカスタマイズと言われるように、いま少量多品種をさらに進めて、市場や顧客の細かなニーズに対して製品を寄せていき、需要を獲得していこうという動きがあります。また、日本はもちろん、世界中で人件費高騰や人手不足が進んでいます。そうした背景も考慮して、工場の生産方式のあり方も変わっていくのは必然です。では、いったいどんなものになるのでしょうか?

歴史から見る工場と生産方式の移り変わり

 その前に、これまでの製品の生産方式について振り返ってみましょう。
 だいぶ昔に振り返りますが、製品をつくるための専用施設である「工場」がはじめてできたのは18世紀末のイギリス。それまでは家庭やそれに隣接する小さな「工房」で製品が作られていました。1769年の世界初と言われる工場は、数台の紡績機を一箇所に集めて糸を作っていたそうです。工房から工場になって一番大きく変化したことは、設計、製造、検査、出荷を集積したことでムダが減り、生産量と品質、納期が大幅に改善したことでした。
 続いて大きく変わったのが20世紀初頭。「ライン生産」の広がりでした。はじまりは1800年あたりのイギリス海軍工廠と言われ、そこから1世紀をかけてフォードのモデルTのライン生産をはじめ世界に広がりました。単品の大量生産に適した生産方式で、いまも製造業の中心として、自動車や電子機器をはじめ広く採用されています。
 大量生産で社会にものが普及してくると、今度はメーカーの数と製品とその種類が増え、単品・大量生産から多品種少量(中量)生産が求められるようになっていきました。そこで生まれたのが、屋台方式とも言われる「セル生産(ワークセル)」です。
 1990年代の日本で生まれ、小さな生産ライン(セル)を1人または少数で担い、1人が複数作業を受け持って完成まで持っていきます。ライン生産に比べて生産量は減りますが、品種が増えても対応しやすく、電子機器からはじまり自動車部品などにも広がっています。

多品種少量生産、マスカスタマイズの時代の生産方式とは?

 ライン生産で単品大量生産が可能になり、セル生産で多品種少量生産への道が開けました。じゃあ、もっと少量多品種、マスカスタマイズ、変種変量に対応するにはどうしたら良いのでしょうか?そこで有望視されているのが「ジョブショップ生産」と、さらにそこにデジタル技術を加えた「デジタルジョブショップ生産」と言われる生産方式です。

 ジョブショップとはある特定の作業(ジョブ)を行う工程を1単位としたもので、ジョブショップ生産ではそれを組み合わせて一連の生産の流れを構成します。デジタル技術を付与したデジタルジョブショップ生産では、ジョブの作業者がロボットシステムになっていて、AGVやモバイルロボット(AMR)がそこに部品を運んでいきます。
 そのためジョブショップのレイアウトは、ライン生産のように一直線上に並ぶとは限らず、隣あって連結させたり、離れて配置したりと自由且つ柔軟。ワークとジョブ、AGV・AMRは制御センターとつながってデータをやりとりし、状況に合わせてワークの順番を前後したり、途中で別の加工が必要なワークが差し込んで対応するなど、有機的に動きを変えてムダのない最適な生産を実現します。
 さらに、工場や現場の様子は、バーチャル空間上でリアルタイムに再現され、いわゆるデジタルツインを実現。生産実績やジョブや機器の状態は可視化され、データ分析も可能となっています。
 デジタルジョブショップの最大の利点は、セル生産よりも高い少量多品種への対応力と、変化を吸収する高い柔軟性にあります。需要が変動してもジョブショップの数を増減すれば良く、さらにロボットのプログラムを変えればジョブ内容を変えて別のジョブに転用することも可能です。リソースが不足しているジョブへのヘルプや、余剰のジョブを集めて新しい工程を再構成することもできます。

自動化・無人化で生産現場のテレワークも可能に

 またデジタルジョブショップは、ロボットとAGV・AMRが生産の主体を担い、いわゆる自動化・無人化の生産方式です。離れた場所から各ジョブショップの監視や制御の変更、メンテナンスも可能です。
 このコロナ禍でテレワークが推奨され、今後もそれが続きそうな状況のなか、現場の密な状況を回避して従業員の健康と安全を守り、さらに生産現場もリモートワークで柔軟な働き方ができる職場にできる。デジタルジョブショップ生産は、DXやデジタル時代の生産方式であるのは間違いないですが、一方でwithコロナ、afterコロナのニューノーマルな時代の新しい工場の形、目指すべき生産のあり方といっても差し障りないのかなとも思います。

FA・自動化とロボットの集積地の強みを活かして

 これまで日本の製造業を支えてきたのは、間違いなく現場で作業する人々です。しかし人手不足が進み、さらにコロナ禍で難しさが増すなか、新しい時代に対応できる生産方式にシフトする時期が来ています。まさにその解となりうるのがデジタルジョブショップ生産方式なのではないかと思います。
 かつて世界を席巻した日本の製造業の強みとなったのは、大企業から中小企業、さらには素材から機器、最終製品まで、あらゆる産業の集積でした。世界のテクノロジートレンドを作り出しているシリコンバレーも、ITをはじめ、さまざまな規模と産業の集積が底力となっています。
 デジタルジョブショップ生産は、日本が強みを持つFA・自動化とロボットの技術がベースになっています。日本にはそれを開発・供給するメーカー、それを組み上げてシステム化するシステムインテグレーター、現場で使うユーザーが揃い、集積しています。その集積力を活かして「日本の製造業ここにあり」を再現したい。そんなことを夢見ています。

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