
AI市場の拡大によってAIデータセンターやAIクラウドサービスの需要が拡大しています。しかし、そうしたAIインフラは、アマゾン、マイクロソフト、グーグルといった海外の大手企業の存在感が強く、国内の基幹インフラを海外企業に依存することによる情報漏洩リスクや、データが海外の管理下に置かれることで、国内の経済安全保障や国家の機能維持に影響が出る恐れがあります。そのため、国産のAIインフラの重要性が今後高まっていくことが予想されます。その中で注目されている企業が、さくらインターネット株式会社です。
さくらインターネットは、インターネット黎明期の1996年に創業し、レンタルサーバー事業を開始しました。その後、2011年ごろからクラウドサービスに関する取り組みが拡大し、2023年11月にはさくらインターネットが提供するパブリッククラウド「さくらのクラウド」がガバメントクラウドに認定されました(25年度末までに技術要件をすべて満たすことを前提とした条件付きの認定)。そして現在、北海道石狩市、東京都(3カ所)、大阪府に、計5カ所のデータセンターを所有しています。
所有施設のうち、石狩データセンターは、北海道の冷涼な外気を活用した外気冷房を用いて高いエネルギー効率を実現。また、建物から設備に至るまで徹底したモジュール設計を採用しており、柔軟性が高いことも特徴です。加えて、2023年には石狩データセンターで使用する電力をすべて再生可能エネルギー電源に切り替え、CO2排出量ゼロを達成しました。データセンターにおける電力使用量は今後さらに増えることが見込まれており、こうしたカーボンオフセットに関する取り組みもさくらインターネットでは非常に重要視しています。
さくらインターネットの特徴は、ガバメントクラウドとして条件付きで認定を受けた技術力をベースに、クラウド基盤の構築に用いるソフトウエアを自社で開発しているため、外部要因に左右されにくく、価格競争力を有していることなどが挙げられます。その中で、採用が増えているサービスとしては、生成AI向けクラウドサービス「高火力」シリーズがあります。その一つである「高火力 PHY」(ファイ)は、高性能なGPUのベアメタルサーバーを月額(税込みで約305万円)で提供しており、価格は競合に比べて3~4割低く、複雑なモデルのトレーニング、アルゴリズムの実装、ディープラーニングによる画像解析、自然言語処理、科学シミュレーションなどにおいて高いパフォーマンスを発揮します。また、「高火力 DOK」(ドック)の提供を2024年6月から開始。ユーザーが事前に用意したDockerイメージの実行ができるコンテナ型クラウドサービスで、イメージ内に実行環境をパッケージングすることで、毎回の環境構築の手間をかけずにサービスを利用することができ、利用時間に応じた時間課金制でコスト削減にもつながります。
高火力シリーズはサービスの利用率が非常に高く、需要がさらに拡大することも予想されるため、さくらインターネットでは約1000億円を投資し計算基盤を強化する取り組みを進めており、経済安全保障推進法に基づくクラウドプログラムの供給確保計画として、経済産業省から認定も受けています。2027年末までにエヌビディアの「B200」などを約8000基(計算能力16.9EFLOPS)整備し、AI半導体を合計で約1万基活用した約18.9EFLOPSの計算能力を整備する予定です。
企業連携も拡大しており、2025年4月にはKDDI株式会社や株式会社ハイレゾと、GPUクラウドサービスでの連携を検討することを発表し、2025年10月には、この3社で「日本GPUアライアンス」を設立しました。GPUを活用したデータセンターの需要は世界中で拡大し、ユーザーのニーズも多様化しており、大学・研究機関では大規模生成AIモデルを迅速に開発したいといったニーズが高く、スタートアップ企業は利用料金の抑制、研究開発部門用途では秒単位の利用といったニーズがあります。そしてGPUクラウドサービス事業者には、こうした用途に応じて最適なGPUの提供が求められており、3社は連携して安定かつ迅速にGPUの利用が可能な体制の構築を目指しています。
2025年1月には、幅広いAIソリューションを提供する日本最大のユニコーン企業(評価額が10億ドル以上のベンチャー)の株式会社Preferred Networks(PFN)や、先端ファンドリー(半導体の受託製造)事業に取り組むRapidus株式会社(ラピダス)と国産AIインフラの提供を目指して連携することで基本合意し、最先端プロセスの省電力AI半導体を用いたクラウドインフラの実現を目指しています。PFNが今後新たに設計する先端半導体製造の最先端モデルをラピダスが製造し、さくらインターネットが有する生成AI向けクラウドサービスに関する知見を組み合わせることで、グリーン社会に貢献する国産AIインフラを整備することを目指しています。また、さくらインターネットは、データセンター大手エクイニクスの日本法人であるエクイニクス・ジャパンと、日本国内およびアジア地域におけるクラウドビジネスの拡大を目的とした戦略的パートナーシップも結んでいます。連携の一環として、さくらインターネットのクラウドサービスであるGPU基盤を、エクイニクスのデジタルツインプラットフォームで展開することで、旺盛なAI需要をタイムリーにサポートするとともに、さくらインターネットのアジア展開をエクイニクスが支援しています。
AI市場が発展・拡大する中で、国家や組織が自国のデータ、インフラ、人材を活用し、海外のクラウドサービスや第三者企業に依存せずに、自らの制御下でAIを開発・運用する能力「ソブリンAI」の重要性が高まると言われています。その中でAIインフラを国産技術で構築することも重要となることは確実で、日本における国産AIインフラの整備に向けて、さくらインターネットの存在感もさらに高まっていくことになるでしょう。