
NVIDIAのGPUは、もともとゲームや映像処理向けに開発されましたが、近年ではAIのトレーニングや推論処理において欠かせない存在となっています。GPUアーキテクチャは世代ごとに異なる特徴を持ち、それぞれの進化がAI技術の発展に直結しています。本記事では、NVIDIAのGPUアーキテクチャの中からAI分野の発展に貢献した代表的な6世代について解説します。
NVIDIAのGPUは当初、ゲームやグラフィックス処理の高速化を目的に開発されました。しかし、AIや生成AIの普及により、その用途は大きく変化しています。データセンターでのAIトレーニングや推論、科学技術計算など幅広い分野で活用され、NVIDIAのGPUはAIインフラの中心的存在となっています。実際、2025年度の第一四半期におけるNVIDIAの収益は441億ドルに達し、そのうち391億ドルがデータセンター関連でした。
NVIDIAは各アーキテクチャに著名な物理学者や技術者の名前をコードネームとして付けています。例えば、2024年に発表されたBlackwellアーキテクチャは、生成AIの処理性能向上を重視した設計で、この名称はゲーム理論や統計学を研究した数学者のデビッド・ブラックウェル氏に由来します。
NVIDIAのGPUはAIの進化に応じて設計が刷新されてきました。ここでは特にAIへの貢献が大きかった6つのアーキテクチャをご紹介します。
Fermiは、GPUを汎用計算(GPGPU)に活用するための基盤を築いたアーキテクチャです。従来のGPUはゲーム向けが中心でしたが、Fermiにより科学技術計算やデータ分析にもGPUが活用されるようになりました。 また、GPU向け並列コンピューティングプラットフォームCUDA(Compute Unified Device Architecture)の基盤となり、GPUコンピューティングの可能性を大きく広げました。
Pascalは16nm FinFETプロセスを採用し、コンピューティング密度を大幅に向上させたアーキテクチャです。HBM2メモリやNVLinkインターコネクトなどの高速接続に対応し、AI向け計算能力を強化しています。特にディープラーニングのトレーニング性能が向上し、NVIDIAはこの世代でAI業界におけるリーダーとしての地位を確立しました。電力効率の改善や高速メモリの採用により、大規模ニューラルネットワークの学習が現実的な時間内で行えるようになりました。
VoltaはAIと高性能コンピューティング(HPC)向けに最適化したアーキテクチャです。ディープラーニングのトレーニングや推論速度が大幅に向上し、AI研究や産業応用の基盤を支えました。FP16(半精度浮動小数点)演算に対応したTensor Coreを搭載することで、ニューラルネットワークの演算効率が飛躍的に向上し、AIモデルの学習コストを大幅に削減できるようになりました。

Ampereは生成AIの普及に大きく貢献したアーキテクチャで、OpenAIのGPT-3トレーニングなどでも採用されました。第3世代Tensor CoreやマルチインスタンスGPU、スパース演算による効率改善を導入し、AI推論やトレーニングの速度が飛躍的に向上しています。大規模言語モデルの学習が効率的に行えるようになり、クラウドサービスやスーパーコンピューターの世界で広く採用されるようになりました。
HopperはAI推論に特化し、特にTransformerモデルの推論処理の高速化に焦点を当てたアーキテクチャです。第4世代Tensor CoreやFP8(8ビット浮動小数点)形式の演算に対応し、FP8とFP16の精度を動的に選択できるTransformer Engineを導入しています。これにより、LLMのトレーニングは最大9倍、推論は最大30倍高速化され、AIサービスの実運用や大規模生成AI向けに活用されています。
BlackwellはAI推論性能のさらなる向上を目的としたアーキテクチャで、AIエージェントの普及に伴って需要が増加しています。1パッケージに二つのGPUダイを統合したマルチチップモジュール(MCM)設計を採用するほか、FP4(4ビット浮動小数点)演算に対応し、メモリ容量と帯域幅を拡張するなど、大幅な性能向上が図られています。Hopperと比べて消費電力は増加するものの、ワットあたりの性能は大幅に向上しました。
NVIDIAのGPUアーキテクチャは、もともとのゲーム用途からAIやディープラーニング用途へと進化し、現在ではAIインフラの中核を担う存在となっています。Blackwell以降も、2026年後半にはRubin、2028年後半にはFeynmanといった新世代GPUの登場が予定されており、AI処理性能のさらなる向上が期待されています。生成AIや大規模言語モデルの活用を考えるなら、アーキテクチャの特徴の違いも意識するとよいでしょう。