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AI・IoTコンサルタント 伊本貴士の経営に役立つ最新技術解体新書 大企業が身の丈IoTに取り組む理由

レンテックインサイト編集部

2021年度は、各企業においてデジタル化が進みつつある。

製造業においては、工場の環境や、さまざまな機械の状況をセンシングによってリアルタイムなデジタル化を進めようとしている企業が多い。
リアルタイムにさまざまな工程および機械の状況を監視することができれば、遅れや異常の発生を迅速に検知することができ、その分影響を最小限に留めることができる。
また、その先には、音や振動の異常を検知することで、異常の発生を予測することができるようになれば、24時間止まらない生産ラインを構築することも可能かもしれない。

少子高齢化社会において、IoTによるスマート工場の構築は大きな規模の工場であるほど急務となりつつある。

大企業も身の丈IoTに取り組む理由

スマート工場の第一歩は、センサーを設置することにある。中小企業の場合、高額なセンシング機器を購入する余裕がないために、ArduinoやRaspberry Piといった安価なマイクロコントローラーなどを利用し、自分たちでセンサー機器を設置する「身の丈IoT」を実施する場合がある。

同じように、大企業でも単純に既製品のセンサーを導入するのではなく、自分たちでセンシング機器を構築する動きが加速している。
理由としては、コスト削減と、柔軟性の二つがあると思う。

まず、コスト面だが、例えば機械の故障を検知するセンシング機器が1台5万円するとしよう。この場合、Raspberry Piと骨伝導マイクで音を取り込み周波数解析で自作できれば1台2万円ほどで済む。
大きな工場の場合、1000台ほど設置することを考えるとおおよそ3000万円のコスト削減につながる。

つまり、1台のコストとしてはそれほど大きくなくとも、数多く設置することを考えると削減コストは大きくなる。

もう一つの理由としては、機器の柔軟性が考えられる。
既製品で目的が問題なく達成できれば良いが、現実的にはセンシングはそれほど単純ではない。
特に、異常検知の場合は、既製品では目的の機器の異常が検知できないことも珍しくはない。
そこで、自分たちで音や振動を分析し、それをソフトウエアでさまざまな方向から解析することで、自分たちのためにカスタマイズされた最適なセンシング機器を手に入れることが可能になる。

また、計測する対象は日々変わる。その場合においても、自分たちの力でセンシングデバイスを改良できるというノウハウを持つことは、今後の運営においてとても効果的です。

身の丈IoTに必要な人材

ただし、このような身の丈IoTを実現するには、自社内にセンシングデバイスの開発が可能な人材が必要になります。

簡単な電子回路が理解でき、ソフトウエア開発が可能で、なおかつ分析の方向性を決めるための各種計測機器を利用することができる能力が必要になる。

今後のロボット化なども見据えると、今後、製造業においては、電子回路や計測機器に強い人が非常に重要な役割を担うだろう。

ますます安く小さくなるコントローラー

2021年の1月に、Raspberry財団は、Raspberry Pi Picoを発表した。
https://www.raspberrypi.org/products/raspberry-pi-pico/

日本でも販売されているが、2月時点でかなり人気であるため品薄状態が続いている。

Raspberry Pi Picoは、Arduinoと同じく、センシングやモーター制御が可能な小型のマイクロコントローラーと呼ばれるものだが、21mm x 51mmという大きさでArmのデュアルコアプロセッサが搭載されている。つまり、小さいにも関わらずかなり高性能だ。
さらに温度センサーまで標準搭載されていて、価格はおおよそ500円というから驚く。

これであれば、温度はもちろん、湿度や気圧といった簡単な環境センサーなら1個1000円以内で作ることができるだろう。

今後のIoT市場はさらなる進化が考えられる。Raspberry Pi Picoをはじめとして、それ以外にもEspressif System社のESP32やSTマイクロ社のSTM32など、小さく、高性能で、安価なチップが次々と登場しており、今後もデバイスの小型化と低価格化は進むだろう。
そんな中で、日々発展するIoTを有効活用できる企業になるためには、回路設計や計測知識に長けたIoT人材の確保がキーポイントになるだろう。

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